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データ活用の専門家から見たトレンドは?
嶋さん データが大事というのは2010年頃から言われ始めてきました。少し前には、例えば「データ活用により組織のサイロ化を改善し最適化する」といった取組みがトレンドになっていましたね。また、これまでは「どのように効率的に作業するか」というプロセスドリブン的な取組みが多かったとも思います。
最近は「第四次産業革命」(※)という言葉も流行っていますが、いかにお客様と繋がるか、どんなタッチポイントを確保して、どのように分析して行動を起こしていくかといったことがトレンドになってきています。さらにそこから、従業員のエンゲージメントや、人材育成まで広がっていますね。
このようなトレンドを踏まえ大多数の企業がデータ活用をしたいと考えている一方で、実態としては、自社が「データドリブンな企業」になれていないと感じる社員が圧倒的に多いと言われています。
※第4次産業革命: IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、ビッグデータを用いた技術革新を指す。
嶋さん 組織でデータが整理できていない、どのように活用できるかわからない、というケースや、データリテラシーがある人材が不足しているという原因も多いです。
ただ、最も深刻なのは、データを活用する目的が明確になっていないというものです。本来、データを活用する際に最初に必要なのが「活用する目的」です。
しかしながら、闇雲にデータを集めることから開始してしまうようなケースも多いです。その結果、本来の目的に適さない仕組みやガバナンスができてしまいます。そしてデータアクセスが難しいあるいは手間がかかる、さらには上手く扱えない人が出てきてしまうこともあります。
青柳さん 目的が明確でないと、闇雲に仕組みを構築してもビジネス価値の向上にはなかなか繋がらない、ということですね。
実際に金融機関と会話される中で、肌感覚としてはどんなニーズが多いですか。
佐伯さん 最近の金融機関では、①顧客へのアプローチに係る情報、②商談から成約に係る情報、③アフターフォローに係る情報、の三種類のデータのニーズがあるとよく聞きます。顧客と関係を築く部分だけでなく、金融商品を販売した後にどうだったかを把握することです。結果的にお客様は満足できたのかとか、長期的に見てお客様はどういう感想を持ったのかとか、次に繋げるためにはどんなコミュニケーションが有効なのかといった趣旨ですね。
※CX:「Customer Experience」の略。顧客体験価値を指し、機能や性能といった物理的・合理的な価値だけでなく、顧客がサービスや商品の購入・利用する一連の過程において感じる心理的・感情的な価値のこと。
佐伯さん 営業店の業務効率化は大事なポイントですよね。例えば、なんらかのデータを営業活動で使うまでに、それぞれ業務部署の職員によるデータ抽出、統括部門の職員によるデータ集約と幹部報告があります。それを各営業店への配信、営業店の属人化・複雑化されたエクセルと組み合わせる、営業現場に持っていく、というケースもあります。
これを効率化できればメリットは大きいです。それには、どのプロセスを効率化できるかという視点が大事です。これらのプロセスをBIツール(※)の画面に落とし込み、本部会議や地域ブロック会議で、共通化された切り口でデータを見ることができれば、組織間コミュニケーションはさらに活性化されていきます。
※BIツール:「Business Intelligenceツール」の略で、企業の各部署に蓄積された膨大なデータを収集、分析、加工することで、迅速な意思決定を支援するツールを指す。
金融におけるデータ活用のユースケースについて語る!
嶋さん やはりお客様との接点での活用がありますね。お客様にどのタイミングでどんなライフイベントがあるのか、どんな製品が必要なのかを予測、レコメンデーションする仕組みを導入することで、成約率が向上するケースはよく聞きます。
また、お客様の状況の可視化と同時に、そこに対して従業員がどんな活動をしているかも把握できる仕組みにすることで、顧客連携の管理と従業員の貢献意欲を上手く結びつける事例もあります。
佐伯さん コスト削減の面では、例えば、営業店にある電子帳票等の情報システムや事務システム含め様々なシステムを「内製化」できるデータ基盤に取り込んでいくことが一つです。システムのランニングコストや社員の作業時間を大幅に削減することができます。これは、どちらかというと守りの観点でのデータ活用ですね。
逆に攻めの観点では、交渉履歴や入出金などのデータをもとに分析し、販売見込みのあるお客様のリストを営業店に配信している事例があります。
さらに、その結果どれくらいの職員が実際にアプローチできて、どの程度の割合が成約まで至ったかというデータも紐付けて、容易に管理や報告ができるようなところまで整備しているケースもあります。
ある地方銀行様との協業事例では、入出金や交渉履歴などビッグデータの検索に加えて、投資信託の成約可能性が高そうな方とか、リース契約のニーズがありそうな方といったような情報を調べることができる仕組みを導入しました。
データ活用の導入・推進におけるハードルやそれを乗り越えるポイント!
一方で、日本企業ではデータの加工プロセスが複雑になりすぎて、「引き継ぎたくても引き継げない」という問題がよく見られます。例えば、長年使い込まれた複雑なエクセルやマクロの仕組みが分からず引き継げないようなケースです。
根本的に解決するには、データベースやプログラムを常に継承可能な状態にしておくことが重要です。データ統合や活用を進める際には前提として、長年蓄積・属人化してきた業務があれば共有できるかたちにしておく必要があります。その意味では、日本では「民主化」というよりも、「引き継げるように解きほぐす」というプロセスが重要になってきます。
嶋さん データの民主化という観点では、誰でもデータを見られるだけでなく、誰でも判断できるというのが大事です。システムだけでなく、同時にその判断が民主化されていて初めて意味があるということです。
昔ながらの組織では、権力のある人に情報が集中する傾向にあります。単純に現場の社員がデータを見られるようにするだけでは定着しませんし、本質的には変わっていきません。逆に現場社員が主体となってデータを使って行動を改善していくことができているケースは成功することも多いし、価値があると感じます。
青柳さん データの民主化を進めるには、やはり組織構造やカルチャー自体を変えていく必要があるということですね。日本においても現場の気づきを全体の生産方式に活かしていくことができている例もあります。そのような改善の意識をどのようにデータ活用と結び付けていくかがポイントと感じました。
他方で、金融機関の現場などからはどんな悩みを聞くことが多いのでしょうか。
佐伯さん 導入期間、コストや運用開始後の柔軟性に関する悩みを聞くことが多いです。従来の情報活用のしかたでは、データ収集から始めて全社的な情報整備済んで、ようやく「情報活用」のフェーズに入ります。もしデータ活用のインターフェースを変えようとしたら、バッチ側の修正をベンダ依頼する必要があり、柔軟性を担保できなくなるケースも見られます。
ただ、技術は日進月歩ですので、BIツール側でユーザーが自らデータの集約やインターフェース作成をできる時代になってきています。以前よりも、ユーザー自身がデータ活用でできることが増えてきています。一方で、ユーザー側でやれることが増えてくると、悩みとなるのが「異動、引継ぎ」の問題です。官公庁や金融機関では多いですが、定期的な人事異動に伴うノウハウの継承も大きな課題となります。
青柳さん ノウハウの継承については、特に金融機関ではよく挙げられる課題の一つですよね。一方で、実際にツールを導入した後に困っていることや上手くいかないこととしてはどんなことがありますか。
佐伯さん 避けたいのは「使わなくても困らない」という状態です。「情報はあるけど見なくても業務が回る」となると、営業店の多忙な社員はやはり使わなくなってしまいます。また、「どうやって使うかイメージができない」というのも避けたいです。日常業務の中で必ず使用するシーンを作っていくことや、常にコンテンツをアップデートしていくことが必要です。
それらを防ぐためには、組織におけるデータ活用の体制をしっかりと確保していくことが重要ですね。社内のどこにどんなデータがあり、ユーザー部門は何を必要としているのかを整理しながら、営業店などに喜ばれるコンテンツ作りをする必要があります。そのような取り組みを行っていくと、自ずとデータ活用に精通したDX人材の育成にもつながっていくと考えます。
青柳さん 導入に当たってのハードルという意味では、例えば組織の幹部にデータ活用の理解がない場合があるとします。幹部層に導入を納得してもらうためにはどんなことが有効なのでしょうか。
嶋さん 例えば「同業他社は積極的にやっています」という説明の仕方は有効だと思います。他社はデータのデジタル化から分析までできていて、このままだと置いていかれるという危機感を持ってもらうということですね。
見える情報も限られデータの共通化ができていない企業では社内コミュニケーションも上手く取れず、判断のスピードで負けてしまいます。
佐伯さん 以前お客様から「カタカナを使わずに説明して欲しい」と言われたことが記憶に残っています。
カタカナでの記載部分を徹底的に突っ込まれて説明するうちに、段々自分の頭の中も整理されてきて、これが何のために必要なのか、どれくらいの収益やコスト削減に繋がるのかをはっきりと説明しやすくなりました。それ以来、極力わかりづらいカタカナを排除して技術をご説明するよう意識しています。当然のことですが、ユーザーにとって分かりやすく日本語で伝えるというのはとても大事だと感じましたね。
専門家が予想・期待する今後の展望は
佐伯さん これまでは主に行内システムをAPI連携しデータ活用を推進するといった取り組みを進めてきましたが、社外連携する事例も出てきています。今後はこれまで以上に、当社も社内外のデータ連携や活用を安全にできるようにする取組みを推進していきたいです。
また、個社ごとの支援も一層進めつつ、業界全体としてどのようなデータ活用をしていくか、エコシステムを構築していくかといった取組みの支援もしていきたいです。
嶋さん Tableauでは、データ活用・分析に強みを持つ人材の育成に一層注力していきます。Tableauとしての取り組みに加え、Tableauコミュニティーの独自のプログラムとして、DATA Saber認定制度があります。これは企業にデータドリブン文化を広めるノウハウを身につけるためのプログラムで、この認定者は多くのTableauのユーザー企業で活躍、人材育成やビジネス活用の拡大に繋がっています。
青柳さん 本日は、データ活用は一朝一夕には進まないというお話しを伺いました。将来的に多くの人材がデータ活用からインサイトを得て、ビジネスに活かしていくことができるようになれば、日本の生産性は大幅に向上していきます。また、日本全体の活性化に繋がっていくと思います。
最後に、今後の展望などについて一言いただきたいと思います。
当社は、データの可視化から分析、インサイトを得るという一連のデータ活用を誰もが利用できる世界を目指しており、今後も、「全ての人にあらゆる場所でデータを」というミッションのもとビジネスを続けていきたいと思います。
佐伯さん データ活用も、最終的には人を元気にすることやポジティブなアクションに繋がっていくことが大事だと思っています。データ活用の結果、例えば目標到達度合いが可視化されたりして、「もっと頑張らなければならない」というように、データが自分を急かしてくることもあるかと思います。これは人に優しくはないですね。
個人的には、色々な要素をさらに分解して、社員の性質も踏まえた目標設定等ができると良いなと思います。「やらなければならない」から行動するだけではなく、自分の長所をもっと活かしたいと思えるようなデータ活用ができると楽しいですよね。そんな観点でのユースケース創出等も通じてお客様の支援もしながら、人に優しいデータ活用ができるような世界を目指したいです。
嶋 ピーター さん
株式会社セールスフォース・ジャパン Tableau事業統括 Business Value Services ディレクター
欧州系投資銀行CIOなど、国内外の投資銀行勤務を経て、2019年よりセールスフォースBVS、2021年より現職。テクノロジーの利活用をビジネス視点で分析することに強みを持つ。
セールスフォース・ジャパン(https://www.salesforce.com/jp/)
佐伯 慎也 さん
株式会社ダイナトレック 取締役
2006年の入社時より、データ統合分析ツールDYNATREKの企画およびプロジェクトマネジメントに従事。現在は、取締役として金融機関への導入プロジェクトならびにコンサルティングサービスを統括。金融機関におけるDX、データ活用に関し幅広く経験を持つ。
ダイナトレック(https://www.dynatrek.co.jp/)
青柳 雄一 さん
株式会社NTTデータ 金融戦略本部 金融事業推進部 部長
入社以来、数多くの金融系新規サービス立ち上げに従事。2015年からはオープンイノベーション事業にも携わり、FinTechへの取組みを通じて、複数の金融機関のデジタル変革活動を推進。NTTデータのデジタル組織立ち上げ、デジタル人財戦略策定/育成施策も実行。現在は当社金融分野の新デジタル戦略、外部連携戦略策定・実行にも従事。2021年10月にリリースした金融APIマーケットプレイス「API gallery」の推進をリード。
API Gallery(https://api-gallery.com/)
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
※感染防止対策を講じた上で取材を行っています。