「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、未来の金融を描く方々の想いや新規事業の企画に役立つ情報を発信!

金融が変われば、社会も変わる!

挑戦者と語る

AIが社会インフラになっていく?金融業務のDX、AIの橋渡し役がカギ!

画像

1950年代後半に誕生し、これまでに数度のブームを経て発展してきた「AI」。2006年にはビックデータの活用が流行しました。さらに2012年頃には自ら特徴量を抽出し学習するディープラーニングが登場したことで、より高度なAI開発が可能となりました。その後DXが注目を集め、あらゆる企業・団体がその推進に注力し始めたことで、AIはさまざまな分野で活用されるようになっています。金融の世界で今AIはどのように活用されているのか、そしてその先にはどんな未来が待っているのか。AIインフラを提供してAI民主化を推進するAI insideの谷さんとRPAやAI導入の現場や事情に詳しいNTTデータの村岡さんが、金融×AIをテーマに語り合いました。

攻めの領域でAIを活用する時代へ

村岡さん AI insideさんというと「AI-OCR(※)ソリューション」があまりに有名すぎて、「AI-OCRの会社」というイメージを持っている方もいるかと思いますが、そこにとどまらずAIを世の中に展開していこうとされている専門家です。谷さんは今の金融業界のAI事情を、どうご覧になっていますか。

※AI-OCR:“Artificial Intelligence - Optical Character Reader” の略で、AI技術を活用したOCRの仕組みやサービスを指す。OCRとは、画像データのテキスト部分を認識し、文字データに変換する光学文字認識の仕組みであり、AIの特徴である機械学習やディープラーニングによって、文字の補正結果を学習し、文字認識精度を高めることができる。

谷さん DXによる経営改革が叫ばれるようになったのが2010年代半ばからだったと思います。そこから数年間で大手の金融系企業様を中心にさまざまな実証実験が行われ、RPAによる業務自動化や紙帳票をデジタル化するためのAI-OCR導入が一気に進みました。その結果、大手の生命保険会社や損害保険会社、そして銀行でも、AI-OCRやRPAは当たり前のように使われるようになっています。当社のAI-OCR「DX Suite」は、金融業界では2017年の早い段階からご採用いただいていて、現在も多くの金融系企業様でご利用いただいています。  

金融業界のAI活用にはまだまだ伸び代を感じます。2020年に新型コロナウイルスの蔓延によって、銀行・保険業務では対面のコミュニケーションが難しくなりました。注力するポイントがスマホ等を活用したオンラインでの顧客接点の拡充、デジタルでのカスタマーエクスペリエンス維持・向上にシフトしました。

顧客接点に関連するDXは進んでいる一方、事務領域の改革に伸び代のある企業は多く存在します。これまで以上にバックオフィス業務の改革の観点でAIがフォーカスされていくのではないかと感じています。

村岡さん 銀行の業務でAIの活用可能性を考えたときに、売上につながるようないわゆる「攻めの領域」と、事務の効率化といった「守りの領域」の2つがあると思います。AI-OCRを使って、データをデジタル化し業務を効率化したりするのは「守りの領域」です。

大手銀行だけがデジタル化を推進していた数年前と比較すると、昨今は地方銀行もAI-OCRやRPAを導入して業務の効率化が進みつつあるという実感はあります。しかし業務が抜本的に変わったかというと、まだそこまでは至っていませんよね。

谷さん 手書き文書などのアナログデータをデジタル化して銀行の基幹システムに入れるところまでは、現状RPA等を活用し自動化できているケースが多いです。そのデジタルデータをどのように活用していくのかという取り組みは、地方銀行はもちろん大手銀行においてもそれほど進んでいません。これからは蓄積したデータを使って「攻めの領域」でAIを活用する時代が来ると考えています。

AIが実現する「金融機関の経営コンサル機能の強化」

谷さん 当社はプログラミング経験の無い社員でもノーコードでAIを開発・運用できる「Learning Center」を提供しています。現在作成可能なAIモデルには画像データを学習して物体を識別する「物体検知・画像分類」と、蓄積した数値データから将来動向を予測する「データ予測・判断」があります。物体検知・画像認識は、生命保険や損害保険の分野で活用事例が出てきました。

生命保険会社では、これまで経験と知見を持った人が行っていた新規加入の審査を、データ化した健康診断書をもとにAIが判断・判定しています。ただ、すべてAIが判断できるわけではなく、これまで2人体制だったうちの1人をAIに置き換え、業務を効率化するというイメージです。

一部の損害保険会社でも、自動車事故や、台風で家屋が破損してしまった場合の保険支払の査定において、お客さまから送られてきた写真をAIが解析し、被害レベルの判断を行っています。例えば、銀行でも店舗にカメラを設置し、その画像をAIが読み取り、アプリ上に混雑状況を表示するといった事例も存在しています。

村岡さん 一方で「データ予測・判断」ではどういったことができるようになるのでしょうか?

谷さん 以前当社では、不動産会社と共同で最適な賃料を判定するAIを開発しました。例えば五反田駅から徒歩何分、広さはどれくらいで築何年といった情報を入力するだけで、利益を確保したうえで空室になりにくい金額を予測してくれるというものです。

金融機関の業務にデータ予測・判断AIを効果的に使うことができれば、「経営コンサル機能の強化」などが今後進展していくと考えています。

金融機関では取引先企業のデジタル改革も推進しているケースもあり、データを多く保有しています。そのデータをAIと掛けあわせることで、金融機関以外の企業にはできないような精度の高い経営コンサルができるのではないでしょうか。融資の金額やタイミングの最適化、M&Aのマッチング、さらには新規事業の創出支援も可能になるかもしれません。

村岡さん 例えば、この会社はこのタイミングでこれくらいのお金が必要になりそうだから、どれくらいの融資の提案をしたらいいといった予測ができるとなると、活用の幅が広がりますね。また、資金の融通に限らず、ビジネス的な助言もできるようになるとさらに金融機関の影響力も大きくなりそうな気がします。

谷さん 金融機関だけのメリットのように感じるかもしれませんが、実は地域の活性化にもつながります。地域の企業が最も成長しやすいような融資の提案もできます。また、今地方で大きな問題となっている会社の後継者不足についても、AI活用によりM&Aに最も適したマッチングを実現することで解決できると思います。地域に根ざした地域金融機関にこそ、AIが役立つと感じています。

村岡さん 昨今、銀行業務に関する規制が緩和されたため、今はRPAをはじめさまざまなデジタルソリューションを取引先の企業に紹介し、業務改善をサポートしています。

それと同じように、地域金融機関が中心となってAIを使いつつ、ソリューションなどを地元の企業に展開できれば、日本全体に広まっていきますよね。AI×金融というとAIをどう活用するかばかりに目がいきますが、地域金融機関が中心となってAIの活用可能性やユースケースを広げていくことも有効ではないかと思いました。

谷さん AIでできることは物体検知・画像分類やデータ予測・判断だけではありません。自然言語処理や音声認識などを組み合わせることで「チャットボットの高度化」も進むと考えます。今のチャットボットは質問のキーワードを拾って近しい答えを表示する機能が多いですが、AI技術が高度化すれば、音声入力した質問内容を単にパターンで回答するのではなく、関連情報をさまざまな情報元から取得しシナリオを構築したうえで、お客さまに最善の解決方法を戦略的に提案することもできるようになります。金融業界とAI技術は非常に相性が良いと考えています。

求められるのは橋渡しができる人材

村岡さん AIを使うハードルは下がりつつありますよね。AI insideさんの「Learning Center」のように、これまでよりも低いハードルでAIを開発できるようなサービスもあると知って驚きました。これだけ簡単にAIを使えるようになっても、なかなか金融機関でAIの導入が進まない理由はどこにあるのでしょうか。

谷さん DX人材の不足が一つの原因と感じています。AIはあくまでツールであって、それを使うこと自体が目的ではありません。本当に大事なのは、業務や経営における課題を発見し、AIやDXの知識と紐づけた解決策に落とし込むことです。

当社は「こういうことを解決したい」という要望を受けてAIを作ることはできますが、お客さまの業務のプロにはなれません。自分達の業務を熟知しながら、さらには社内のいろいろな部署に散らばっているデータを集める調整や橋渡しができる人材を増やしていくことが大切だと考えています。

AIが社会インフラになる未来を目指して

村岡さん 漠然とはなりますが、私は常日頃業務に携わっている中で、私達が提供するデジタルソリューションが世の中の社会課題を解決する手段につながっていけばいいなと感じています。

そのためには、皆さんにとって使い方も効果も分かりやすいものにして届けていくことが大切だと思っています。導入してもちゃんと継続して運用できるのかというのは、不安に感じている方も多いと思います。我々はRPAをお客さまに最大限活用していただくために、導入時にベンダが支援をするだけでなく、導入後にお客さま自身でご利用いただけるための育成や継続的メンテンナンス支援まで、お客さまに伴走してサポートすることをモットーにしてきました。RPAを使う人が増えて、生産年齢人口の減少や働き方改革といった社会問題が解決できる。そういう未来を作れたらいいなと考えています。谷さんはどのようにお考えですか。

谷さん 当社では「Smart X」というキーワードを使っています。スマートファクトリーやスマートコンストラクション、スマート金融のように、Xの部分にいろいろなものを当てはめていく考え方です。スマートシティは比較的大きな単位になると思います。世界の隅々まで行き渡ったAIがあらゆる社会課題の解決に貢献することで、持続可能な未来社会を作り上げていく世界観とも言えます。これを実現するためにも、ノーコードのソリューションなどにより、さまざまな分野で誰もがAIモデルをどんどん作って、シェアし、活用できる環境の整備を進めています。そういう世界では、AIはそれこそ電気や水道、Wi-Fiのような社会インフラになっているのではないでしょうか。当社はそのレベルでAIを社会に浸透させていきたいと考えています。

その点ではやはり、ツールの提供だけでなく、業務とDX、AIの橋渡しができる人材の育成なしには広まっていきません。そのために例えば当社では、実践型DX人材輩出プログラム「AI Growth Program」を提供しています。これは「AIとは何か」、「AIで何ができるのか」といったAIの基礎知識だけでなく実践的な内容まで支援するプログラムとなっています。AIの知識が全くない方も分かるような育成プログラムを用意していて、人材育成により一層注力していきたいと思っています。

村岡さん 私もこれまでのRPA展開の経験から、お客さま内の橋渡し人材の存在が成功の鍵になることを強く実感しています。今後は、RPA同様にお客さまがAIを使いこなす、自走することに貢献してきたいです。社会課題解決という大きな目的のために、一つのお客さまで出来た型をそれっきりにせず、横展開・サービス化していくような営みもぜひご一緒したいですね。本日のお話を聞いてAIが今後、金融業界にどんな変革をもたらしてくれるのかとても楽しみですし、そのために我々に何ができるのか考えるとワクワクが止まりません。

▼このテーマに関連する記事


〈プロフィール〉

谷 槙太郎さん
AI inside 執行役員CRO

2008年千葉大学工学部卒業。デジタルマーケティング支援会社などを経て、2017年6月当社に入社。『DX Suite』や『AI inside Cube』の事業立ち上げに従事し、セールス部門の責任者を歴任。2021年4月より新規事業『Learning Center』のアライアンス推進責任者を兼任。エンタープライズセールス及びパートナーサクセス領域を担当。2022年4月、CRO(執行役員)に就任する。

村岡 亜希子さん
NTTデータ RPAソリューション担当課長

2009年に入社。入社後7年間、地方銀行向け大規模共同システムの開発/運用を担当し、勘定系システムの更改や銀行システム統合に従事。2017年のRPAブーム前夜にRPAビジネスに参画。RPAソリューション担当では特約店様300社超の開拓、特約店制度設計を行った。現在は、RPAやAI-OCRの販売に加え、これらのソリューションを利用したサービス企画にも取り組むなど、 AIによる業務高度化の取り組みを進めている。
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
※感染防止対策を講じた上で取材を行っています。
画像

執筆 オクトノット編集部

NTTデータの金融DXを考えるチームが、未来の金融を描く方々の想いや新規事業の企画に役立つ情報を発信。「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、金融サービスに携わるすべての人と共創する「リアルなメディア」を目指して、日々奮闘中です。

感想・ご相談などをお待ちしています!

お問い合わせはこちら
アイコン