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挑戦者と語る

“UX/UI最前線~デザイン思考の終焉?”
API gallery MeetUP ~Vol.27

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さまざまなプロジェクトにおいてデザイン思考というキーワードがもてはやされてから数年が経ち、一部で「デザイン思考の終焉」が囁かれています。現状はどうなのでしょうか?数々のデザインアワードを受賞している株式会社フォーデジットより斉藤さんをお迎えしてUX/UIの最新状況をお伺いしつつ、デザイン思考の今後について語り合いました。

本記事はNTTデータが運営する「API gallery」プレゼンツで2024年5月28日に開催したウェビナー「API gallery® MeetUP ~Vol.27“UX/UI最前線~デザイン思考の終焉?”」の内容を記事化したものです。
API galleryでは随時ウェビナーを開催中です!過去の企画、および今後の開催予定は以下のリンクをご覧ください!

ユーザーに対する共感から始まるデザイン思考

青柳さん:
デザイン思考の生みの親であるアメリカのデザイン会社IDEOが人員整理をしたニュースが最近ありました。それからデザイン思考はもう終焉を迎えているのではと言われています。本当にそうなのか、色々なプロジェクトにデザイン思考は必要なのか、という話をしたいと思います。

まず、デザイン思考というものもおさらいしたいと思います。
デザインに必要な考え方と手法を利用して、ビジネス上の問題を解決する方法というのがデザイン思考です。具体的には、共感、定義、発想から、試作・試行をやってテストするというサイクルを回していくことによって、試行錯誤を重ねてイノベーションを生み出す思考です。

まず、 共感から始めないといけない。ユーザーに対する深い共感があって、そこから問題点を定義して発想する。このユーザーに対する共感をどういうふうにやっていくのかが非常にポイントになります。プロダクトを考えデザインするために、まずユーザーに寄り添うことが重要です。それをやりやすくするためにペルソナとして具体的な架空の人物像を決めましょうとなりますが、重要なのはプロセスではなくユーザーに対する共感だということです。

デザイン思考と論理的思考は何が違うのかというと、論理的思考は左脳型の問題解決、デザイン思考は右脳型の問題発見です。課題に対してロジカルに組み立てていくのに対して、ユーザー自身が問題に気づいていないところをやろうとするとデザイン思考になるわけです。

なぜデザイン思考が必要なのかですが、近年ではサービスの機能的価値から意味的価値への重要性の移り変わりがあります。機能的価値とはスペック、自動車の燃費や安全性などですね。
それに対して意味的価値は、直感的にどういう体験ができるか、こういうふうに使ったら綺麗なカメラで動画が撮れる、共有したらみんなと共感できるなど意味を持った価値です。サービスに対して受動的から能動的になってきています。デザイン思考はその意味的価値が非常に強いのがポイントになります。 デザイン思考はユーザーを中心に考えるところから始まっています。

デザイン思考を実際にプロジェクトで使った「ゆうちょ通帳アプリ」の事例をお話します。最初はお客さんも含めてワークショップを行い、ゆうちょ口座を持っているユーザーがどういう課題を抱えているか、ユーザー像はどういうものかのアイディアを出し合いました。さらに気づきを外部からうまく取り入れ第三者の目線を入れていこうということでフォーデジットの皆さんに参加いただきました。

ユーザーテストも銀行のお客様と我々とフォーデジットさんが一緒になって行いました。このプロセスを通じて、デザイン思考の技法や考え方が金融機関の現場に定着した結果、ユーザーに寄り添ったアプリを作りたいという思いで一致し、共創しながらやった結果としてグッドデザイン賞を受賞することができました。
ぜひこの後は、フォーデジットの斉藤さんに最新の事例をお話いただきたいと思います。

デザイン思考に大切なのは、自分の前提を捨てること

斉藤さん:
フォーデジットはデザイン会社として、デザイン思考を用いたサービスの構想から実現まで、実際のものづくりを含めて支援しています。おもに提供している領域は3つです。

1つ目はサービスデザイン、デザインプロセスを実践しながら新規サービスの立ち上げや、既存サービスの改善などを推進する領域で、UX・UIなどユーザー体験に基づいた検討や、DX支援なども含まれます。
2つ目はコミュニケーションデザイン領域で、Webサイトやデジタル媒体などを通してブランディングや表現のお手伝いをさせていただいています。
そして3つ目は、Design Opsというユーザーのフィードバックを得ながら継続的に改善する取り組みです。開発チーム主導でプロジェクトを動かしていく「Dev Ops」という考え方があると思いますが、それのデザイン版といったイメージです。

フォーデジットのデザインプロセスは大きく4つに分けられます。
まずはじめはユーザーのリサーチから始まり、ペルソナの定義や、カスタマージャーニーマップでの課題の抽出などをもとにアイディアを広げていくコンサルティングのフェーズです。サービスのあるべき姿や誰にどのような価値を提供するかを可視化していきます。

2つ目は仮説の検証や精度を高めていくベリフィケーションのフェーズです。コンセプトレベルの受容性の確認や、プロトタイプを用いた有用性の検証などを踏まえて、サービス・プロダクトの精度を高めていきます。

3つ目は実際に世間に公開できるよう制作・開発を行うフェーズ。フォーデジットではデザインからフロントエンドまでを担当し、APIを境界点としてバックエンド側はSIerが開発するといった役割分担も多いです。
サービスローンチ後も作って終わりではなく、Design Opsということで、変化していくユーザーやマーケットを調査しながら、フィードバックを得てサービスをブラッシュアップしていきます。

次に具体的なプロジェクトの事例をお話ししたいと思います。
NTTドコモでahamoという新しいラインを立ち上げるプロジェクトは、 Z 世代向けにこういうスペックで提供しますという情報だけから始まりました。Z世代という言葉でくくられてしまう中に、実際にはどういう人が存在しているのか。ユーザーリサーチを行いながら複数のペルソナを立て、サービスの全体像を整理しました。

Z世代へのリサーチから見えた課題は、従来の通信サービスが複雑で、自分が欲しくないものも提供されていると感じていること。その不信感を解消してシンプルな状態で届けようというコンセプトで、サービスの接点ごとのコミュニケーションや、どういう画面が必要かを設計やデザインに落とし込んでいきました。現在でもahamoはデザイン改善を続けていて、ユーザー数500万人以上のサービスとして成長しています。

NTTデータ内部のお手伝いとして、NTTデータのコンサルティングチームのオフィスデザインを行ったプロジェクトの事例もあります。デザイン思考というとシステム開発などとセットで語られるためデジタルなアウトプットがイメージしやすいかもしれませんが、リアルな場であるオフィスなどにおいても、どんなスタッフがどんなことを考えているのか、どういった価値提供をしていくべきかといったユーザー体験=従業員体験として、オフィスの形や場の定義を設計させていただいています。

デザイン思考に大切なのは、自分の前提を捨てることです。自分自身の経験や個性、固定概念は捨てて、ユーザーの状況を理解するところが重要です。これが上手にできる人は多くはないので、我々がサポートしているのが実態かなと思っています。

試行錯誤を繰り返し、リサーチをもとにユーザーのフィードバックを得て改善していくのがデザイン思考の本質なのですが、デザイン思考という言葉だけがひとり歩きしてしまい、結果として意味があるものにはならないケースなども出てきています。

これからはAIに奪われる仕事も出てくるなどと言われていますが、どのような価値を提供するのかを考え、実践し続けていくことがデザインの現場でも必要になってくると感じています。 以上、実際のプロジェクト事例をもとに、フォーデジットの考え方をご紹介しました。

形にとらわれず、デザインの考え方を使いこなす

青柳さん 成功しているプロジェクトの事例をお話いただきましたが、うまくいかなかった例もきっとあると思います。その失敗から理由を掘り起こすと原因がわかりそうですが、デザイン思考を取り入れたプロジェクトでうまくいかない場合の例などはありますか。

斉藤さん デザイン思考は失敗が前提となっているので、一回結果が出なかっただけでダメと判断される組織だと、うまくいかなかったのはデザインのせいだとなってしまうこともあると思います。失敗しても学びがあったと捉えられるようになっているとうまくいくのかなと感じます。

青柳さん 失敗してその次にあるプロセスを繰り返していくのが重要ですが、予算、スケジュールの限りもありますよね。

斉藤さん 実際のプロジェクトでも制約の中で一度形にしなくてはならないことも多いのですが、リリースした後に改善し続けていけるような体制があるとうまく成長させていけると思います。

青柳さん そうやってデザイン思考を積み上げてどんどん良くなるというのが継続的な活動とした場合に、どこで世の中に出す判断をしたらいいですか。

斉藤さん ここまでにリリースするという期限があると思うので、そこに合わせて仮説の状態で一度作って、その仮説をリリース後に検証していくなど、プロセス自体をデザインしていくのが重要だと感じています。

青柳さん 2018年ごろに比べるとデザイン思考って言葉が世の中にすごく定着してきましたが、一方でデメリットはありますか。

斉藤さん 2018年のころに比べると、デザイン思考をなんとなく知っているという関係者が複数いる状態からプロジェクトを始めることも増えてきました。教科書としての形を知っているからこそ、標準的なプロセスと異なる場合に受け入れづらかったり、混乱したりするケースもあるのが課題だと感じます。

青柳さん ユーザー中心に考えるプロセスを可視化したものがデザイン思考ですが、うまくいかない場合は表面的な手続きばかりで、ユーザーに向き合ってないものが多い気がしますね。

斉藤さん デザイン思考の内容、手法などを学ぶコンテンツは増えていると思います。協業した会社の中にも「次からは社内でやります」というお話をいただく場合もありますが、どういう手順を踏んでいくのかはすぐに取り入れられても、1人の人間として持っている前提を捨ててユーザーに共感するテクニックの部分はなかなか難しくて、結果としてなんとなく実施はしてみたが、うまくいかなかった、というのはよく聞きます。

青柳さん 標準的なプロセスはあるものの、その手順通りにやればいいっていうものではないですよね。方法論に重きを置いてしまうのが、デザイン思考がうまくいかないと言われる1つの原因ではないでしょうか。

斉藤さん やってみたら結果が出て、続けていくと良くなるというふうにプロジェクトを積み重ねていかないと、納得感や身になっていかないところが難しいですね。

青柳さん 利用者の課題に共感するところをどう組織としてやっていくのかがポイントで、表面的になぞった結果効果が出なかった例が多くて、デザイン思考の終焉と言われているのではと思います。

斉藤さん デザイン思考、デザイン会社を使いこなすには、プロセスや形にとらわれずに実践していくアプローチが必要だと思います。そういったことが得意な「デザイン人材」が事業会社やSIerにも増えていくといいなと思っています。

青柳さん 最後にちょっとフォーデジットさんとして、今後の意気込みを少し伺って締めたいなと思います。

斉藤さん デザイン思考が流行ってきて、今後は当たり前になってくる段階だと思っています。デザイン会社にいる我々と事業を推進する会社の方、どちらの立場でもデザインという共通の言葉を使って、物事をより良くする取り組みが広がっていくといいなと考えております。

青柳さん デザイン思考が終焉したかどうか。その答えは終焉したのはきっと「誤ったデザイン思考」だったというお話でした。ぜひまたフォーデジットさんにもお話伺いたいと思いますので次の機会によろしくお願いします。ありがとうございました。
斉藤 航 (さいとう わたる) さん

斉藤 航 (さいとう わたる) さん

フォーデジット 執行役員
広告制作会社でデザイン・企画制作進行を経験し、2017年にFOURDIGITに参画。サービスデザインプロジェクトにおけるUX・UI設計や、デザインプロセス導入のコンサルティングに従事。
青柳 雄一 (あおやぎ ゆういち) さん

青柳 雄一 (あおやぎ ゆういち) さん

NTTデータ 金融戦略本部 金融事業推進部 部長
入社以来、数多くの金融系新規サービス立ち上げに従事。2015年からはオープンイノベーション事業にも携わり、FinTechへの取り組みを通じて、複数の金融機関のデジタル変革活動を推進。NTTデータのデジタル組織立ち上げ、デジタル人材戦略策定/育成施策も実行。現在は当社金融分野の新デジタル戦略、外部連携戦略策定・実行にも従事。2021年10月にリリースした金融APIマーケットプレイス「API gallery」の推進をリード。API Gallery(https://api-gallery.com/
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※本文および図中に登場する商品またはサービスなどの名称は、各社の商標または登録商標です。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
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執筆 オクトノット編集部

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