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コラム

量子コンピューターとは? しくみを図解でわかりやすく解説

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量子力学の現象を利用して並列計算を実現する量子コンピュータは、従来型コンピュータより高速な計算が可能なため、現在各国でハードウェアの開発と適用に向けた研究が繰り広げられています。
金融分野では暗号の危殆(きたい)化と、市場/信用リスク計算やデリバティブプライシングで利用されるモンテカルロシミュレーション(※1)への関心から、メガバンクを中心にいち早く活用に向けての取り組みが進んでいます。本コラムでは、量子コンピュータの基本的なおさらいと、金融業界をはじめとした社会的な影響などについてお話します。
(※1)シミュレーションを何度も繰り返し、主に統計的に最も確率の高い解を得る計算手法。

量子コンピュータとは

量子コンピュータのしくみ

量子コンピュータは情報の表し方に量子の性質を使ったコンピュータです。

現在使われているコンピュータ(以下、古典コンピュータ)は1bitに「0と1」の数字のどちらかを記録し、2進数で情報を表現します。例えば、4bitなら「2の4乗」、つまり16通りの表現になります。

それに対して、量子コンピュータは1Qubit(以下、量子ビット) (※2)に「0と1」の数字を同時に表現することができます。2つの状態が同時に存在するという不思議な現象が、量子の世界では「重ね合わせ」として起こります。この現象を利用して並列計算できるのが量子コンピュータです。
(※2) Qubit:quantum bitの略(量子ビットの単位)

【図1:量子コンピュータのしくみ】

この性質によって古典コンピュータでは計算処理に膨大な時間を要する問題でも、量子コンピュータではより短い時間で解けるようになる可能性があります。古典コンピュータではすべての組み合わせを計算しなければならず、問題が複雑になると指数関数的に計算量が増加していきます。量子コンピュータでは複数の計算が並列処理できるため、高速で問題が解けるのです。

このような量子コンピュータが実現した際の社会的・経済的インパクトが非常に大きいことが見込まれるため、世界各国で多額の予算を投じて研究開発が進められています。
ただし、量子コンピュータは古典コンピュータよりどのような計算でも処理が早くなるというわけではなく、現状の利用用途はまだ限られています。また、社会実装にいたるまでに、あと20~30年ほどかかるとも言われています。

2023年時点では交通渋滞解消などの組合せ最適化、創薬・ゲノム解析など医薬品や材料などの化学分野のシミュレーション、AIの開発や暗号など、幅広い分野への適用が期待されています。

量子コンピュータは古典コンピュータよりも速いのか?

量子コンピュータは古典コンピュータよりも計算が速いと言われますが、実際は絶対にそうとは言い切れません。どちらが速いか証明することは非常に難しいのです。

古典コンピュータは1秒間に計算できる回数を増やすことで速度を上げてきました。
例えば、2022年11月時点のスーパーコンピュータの計算速度ランキングの1位は米オークリッジ国立研究所とHPEの「Frontier」で、1秒間に110京2,000兆回もの計算ができます。
津波や地震の被害予測のような複雑なシミュレーションにはスーパーコンピュータの演算能力が必要です。

それでも計算しなければならない回数が多すぎて時間がかかってしまう問題を、高速に解ける可能性を秘めているのが量子コンピュータの立ち位置です。現段階では量子コンピュータはスパコンを超える処理能力での実用化ができていませんが、特定の領域で力を発揮する日が来ると考えられています。

量子コンピュータの種類

量子コンピュータは「量子ゲート方式」と「量子アニーリング方式」の2種類に大別されます。
この2つの方式は計算を実行する仕組みが異なり、実用化の段階にも違いがあります。

量子ゲート方式

「量子ゲート方式」は、古典コンピュータと同じように、論理回路というものを使って計算をします。2023年時点では、実装されている量子ビット数が50~100量子ビットと少なく、小規模な計算しか行えないため、実用化に向けてはさまざまな課題が残っています。特にノイズの影響で量子ビットに記憶した値が変わってしまう問題は、金融業界のような正確さが求められる世界では致命的です。入力した値が勝手に書き換わってしまう電卓は怖くて使えませんよね。こうした誤りを訂正して計算をする方法の研究が進められていますが、まだ実用段階にいたっていません。

ハードウェアの課題を克服するため、GoogleやIBMといった企業が競って研究開発を行っています。化学、金融分野を中心に、2030年頃の実用化に向けて基礎研究領域で盛り上がりをみせています。

量子アニーリング方式

「量子アニーリング方式」は、膨大な選択肢から探索する組合せ最適化に特化した構造になっています。用途は限定されるものの、D-wave社の実機は約5000量子ビット実装されています。

実社会の問題を解決するための実証実験が活発化しており、効率的なシフト表の作成や交通渋滞の緩和など複雑な計算を必要とする最適化問題での成果が既に発表されています。さらなる活用方法を見いだすべく、キラーユースケースが模索されています。

【図2:量子コンピュータ 2つの方式の違い】

量子コンピュータは社会にどのような影響を及ぼすのか?

量子コンピュータが実現すれば、古典コンピュータでは計算処理に非常に時間のかかる問題を素早く解けるようになると考えられています。量子コンピュータの影響を考える上では、これまで難しかった計算が可能になる、という見方が非常に重要になります。
例えば化学の分野では、分子の並びを電子の影響も含めてシミュレーションすることで新薬や新材料のより効率的な開発が可能になると言われています。

分子は、原子が電子を共有しあってできており、基本的には電子が最も落ち着く形になるようにつながります。電子の影響をシミュレーションするような計算は、これまでのコンピュータでは非常に時間がかかるという問題がありました。
電子1個の影響を計算することは難しくありません。しかし、電子が2個以上ある場合、磁石の同じ極のように反発しあって据わりのいい配置を探すようになります。3個あれば2の3乗、すなわち8通りの配置パターンができます。電子の数が増えるごとに4乗、 5乗…と増えていき、何千個もあれば膨大な計算回数が必要になることがお分かりになるかと思います。
このような複雑な計算は限られているので、私たち個人のレベルではまだ古典コンピュータの処理速度でも十分なのです。将来的には、すべての計算ではなく、高速化が保証された特定の計算で古典コンピュータを上回ると言われています。

金融業界への影響は?

それでは、金融業界にはどのような影響があるのでしょうか。
一説によると、量子コンピュータが最も大きな影響をもたらすのは金融業界だとも言われています。

ポートフォリオの最適化やデリバティブの価格決定など、金融工学の一部の計算を量子コンピュータで素早く計算する手法が既に提案されているためです。こういった業務は将来的に量子コンピュータが使われるようになる可能性があるため、メガバンクを中心に実ビジネスへの適用に向けた検討の動きが始まっています。技術的な制約から、実現には数年かかる見込みです。

大手の取り組み紹介

海外の金融機関では米JPMorgan Chase、米Goldman Sachsが金融工学において先進的な取り組みをしています。
日本では、みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)、三井住友信託銀行など大手金融機関が、計算手法の改善やアプリケーションの共同研究などに取り組んでいます。慶応義塾大学と日本IBMが設けた研究拠点「IBM Quantum Network Hub at Keio University」において、IBMが開発している量子コンピュータを使っての研究が進められています。
このように各金融機関が取り組みを進めるのは、将来的に量子コンピュータの利用が金融業界での競争力に大きな影響をもたらすことが予想されるためです。

実用化に向けた研究の方向性

現在の量子コンピュータ研究の方向性は大きく2つあります。
課題の克服
前述の通り、量子コンピュータはノイズの影響を非常に受けやすく、使用できる量子ビットの数が多くないという課題を抱えています。そのため、より少ない量子ビットでノイズの影響を受けても問題がないような計算方法などの検討が進められています。将来的には大規模な量子コンピュータを実現するために必要なステップです。

応用領域の拡大
クレジットカードの不正検知など、ポートフォリオ最適化やデリバティブといった金融工学の分野以外でも量子コンピュータで効率的な計算ができるユースケースが模索されています。
また、計算方法ごとに理論上どのくらいの量子ビットを使用するかなどの検証にも取り組んでいます。

さいごに

NTTデータでは、量子ゲート方式、量子アニーリング方式だけでなく、それらのシミュレータも用いて適切な適用範囲の検討を行っています。例えば、量子ゲート方式によるモンテカルロシミュレーションの高速化について検証を行っています。また、デリバティブプライシングや、リスク量の計算をおいて、量子ゲート方式のマシンで解く際の手順をPythonのシミュレータベースで解説するデモを開発しています。
他にも量子コンピュータに係るさまざまな取り組みを行っています。ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。
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執筆 オクトノット編集部

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