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金融が変われば、社会も変わる!

コラム

お金に振り回されないために「お金に強い人間」に育てる 全米No.1バンカーのノウハウはこんなにスゴい!

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お金について公に聞いたり話したりすることがまだまだ難しい風潮が残る世の中で、子どもの幸せを願う親としては、子どもとどう向き合ってお金について教えていけばよいのでしょうか。あなたはお子さんと「お金」について話していますか?そんな問いかけで始まるお金のプロが書いたお金の教育本があります。横内さんが豊富な資料から日本の事情も踏まえながら、この本を紹介し、親の果たすべきことを問いかけます。

お金を得ることが人生の目標になっている人はみんなどこか不幸そうだ。
それと反対に、充実した人生を送っている人はお金に振り回されない生き方をしている。
彼らはなぜ無駄な心配や苦労ぬきで、自分の自由な時間を確保し、自分のやりたいこと、好きなことに全力投球できるのだろう。

それは彼らがお金に強いからだ。
お金の価値を熟知し、世の中がお金で回っていることを心得ている。

お金に強くなければ、不本意な生き方を強いられることもある。
一方、お金に強ければ、グローバルに活躍でき、世界を相手に存分に闘うこともできる。

そう語るのは、アメリカのメガバンク “Bank of America”で、史上最年少にして全米No.1の営業成績をおさめた日系アメリカ人、酒井レオ氏です。
Bank of Americaといえば、日本の金融機関も常に注目する、最先端のデジタル金融機関。
彼はおよそ10年間にわたる投資バンカ―としての生活で、さまざまな顧客に接し、現在も世界のトップエグゼクティブと交わっています。

彼は言います。
大人になってからではどうしても身につかないものがある。
お金のスキルは「人間力」ともいうべきものであり、一朝一夕に養うことはできない、と。

子どもの幸せを願わない親はいません。
でも、お金の教育といわれても、何をどう教えたらいいのか途方に暮れてしまう。そんな方も多いのではないでしょうか。

レオさんの著書『全米No.1バンカーが教える 世界最新メソッドで お金に強い子どもに育てる方法』*1には、「お金に強くなるメソッド」が満載。
そのノウハウを、ときには批判的な観点も交えながらみていきましょう。

原則1:お金の価値を教える

お金は労働の対価であり、働かずしてお金をもらえるなどということはあり得ない。
親はATMではない。
そこで、小さいころから徹底的にお金の価値を教えることが大切だというのがレオさんの主張です。

そのためのメソッドはお小遣いをあげないこと。
欧米ではエリート層、富裕層の人々ほど子どもにお小遣いを与えません。

一方、日本はどうかというと、お小遣いをもらっているのは、小学生約73%、中学生83.2%、高校生80.9%。*2

とはいえ、子どもにも多少のお金は必要です。
お菓子やジュース、マンガ、ときには友だちへのプレゼントを買ったり、友だちと外食したり・・・。*2

お小遣いがもらえないとしたら、子どもはどうやって必要なお金を手に入れたらいいのでしょうか。
その答えは「家庭内労働の対価」。それを習慣化することが大切だとレオさんは言います。

例えば、小学校3年生だったら、以下のようなルールを作る。

・トイレ掃除10円、風呂掃除30円、配膳手伝い10円、食器洗い20円、洗濯物たたみ10円、掃除機がけ20円、ゴミ出し5円、新聞の取り入れ5円

すべてやれば1日110円、30日で3,300円になります。
この金額を日本の子どもたちがもらっているお小遣いの額と比べてみましょう(表1)。
学年 平均月額
小学校入学前 842円
小学1・2年生 660円
小学3・4年生 934円
小学5・6年生 1,270円
中学生 2,409円
高校生 5,335円
大学生等 20,245円
表1 子どもの小遣い(月平均)
参考:金融広報中央委員会(2021)「家計の金融行動に関する世論調査  [二人以上世帯調査] 令和2年調査結果 単純集計データ」*3 p.37を参考にして筆者作成
https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/yoron/futari/2020/pdf/shukeif20.pdf
小学校3年生は934円ですから、先ほどの家庭内労働の方がずっと額が大きいことになります。

ちなみに、日本では、家事をすることがお小遣いの前提条件になっているのは、中学生で14.9%、高校生8.8%とわずかです。*2

家庭内労働をすれば、子どもは自分で稼ぐ喜びを味わいながら小銭をもらい、貯金箱に入れる。それは、キャッシュレス時代にあって、お金の実感、お金を身近に感じることができる貴重なチャンスです。
それに、苦労して稼いだお金だから、大切に使う。

さらに、人間は誰でも楽をしたいので、どのようにしたら短時間で効率よく仕事を終えることができるかを考える。それが、創造力や発想力などビジネスに不可欠な「考える力」を育てる。試行錯誤して自分の型を産み出していくのも大切な体験だとレオさんは考えています。

こうしたやり方は果たして日本人のメンタルになじむでしょうか。
筆者はレオさんの主張に頷きながらも、正直なところ、多少の違和感を覚えます。
というのも、こういう経験があるからです。

筆者は2人の子どもたちが小学生のときに大学院に入学しました。仕事も続けていたので多忙な日々でしたが、当時小学校中学年だった上の子(息子)が毎日、学校から帰ると陽のあるうちに洗濯ものを取り入れて畳んでおいてくれました。
そのおかげで、外にいても洗濯もののことを心配せずにすみ、大変助かりましたが、その対価を与えることはしませんでした。

例えば、夏休みに家中の窓ガラスを拭くとか庭の雑草を抜くとか、特別な手伝いにはお駄賃をやりましたが、日常的な家事に対価を支払うという発想がなかったのです。

特に意識していたわけではありませんが、家族が助け合うのは当たり前のことで、誰でもその時々の状況に応じて自分のできることをする。家庭とはそうやって回っていくものだと考えていたからかもしれません。

ただし、一方で、筆者が担っていた育児や家事労働は重く、それが負担だったことも確かです。日本人女性はOECD各国の中でも無償労働時間が長いのが現実。 *4
もしあの頃、家事が有償だったら、もっと張り合いを感じながら取り組めただろうというのも本音なのです。

家事労働の対価には、なかなか複雑な問題が絡んでいそうです。

原則2:お金から世界の仕組みを教える

世界にあふれるモノやサービス。でも、それもタダで使えるわけではありません。そのことを認識できるかどうかによって、世の中や人に対する見方、向き合い方が違ってきます。
そのためのメソッドをみていきましょう。

子どもに部屋代や家事代を請求する

ひとつ目は、子どもに部屋代や家事代を請求すること。
そのことによって、自分はお金によって生かされ、世界はお金で回っていることを教えることができるとレオさんは主張します。

ふだんはありったけの愛情を注ぐことを大前提として、社会のルールを家庭のルールに置き換えて学ばせるのです。

先ほどと同じように小学3年生なら、1か月分として、例えば、

・子ども部屋家賃300円、共有スペース家賃200円、食事代1,000円、子ども部屋掃除1,000円

と設定すると、子どもの支出は1か月2,500円になります。
自分で稼ぐ家事労働の対価が3,300円でしたから、子どもの取り分は800円。
表1でみた日本の子どものお小遣いより134円少ない額です。厳しいですね。

レオさんの考えはこうです。
そうすれば、子どもはお金がもらえるだけでなく、モノやサービスを得るためには支払いをしなければならないことを学ぶ。
金額設定は、もちろんリアルなコストではなく、家庭内の適切なレートにすればいい。
誰かがスキルを提供すれば、そこには費用が発生するのが当たり前だということを、身をもって経験させることが必要だ。

もし、実際に請求するのがどうしても難しければ、
「これは本来、払うべきお金だけれど、あなたは子どもだから立て替えておく。でも、大人になったら払ってね」
と伝えておくだけでも効果的だ。

レオさんは、お金を払うくらいならと、自ら掃除をしていました。
日本の子どもたちは学校で日常的に掃除をやっているのだから、家でできないはずがない。
レオさんはそう言葉を重ねます。

家計を可視化して子どもを家族経営に関与させる

これは、京セラの稲盛和夫氏が編み出した「アメーバ経営」の応用です。
「アメーバ経営」とは社員全員が経営者のつもりで働き、お金の動きを把握することを目的にしています。

これと同じように、毎月1回、家族経営のための会議を開くのです。
目的は子どもも家族経営に関わっていることを意識させること。

会議では、住宅ローンの返済や家賃、食費、水道光熱費、塾代や習い事を含む教育費、保険料など主な支出を現金で用意して、子どもに見せ、住民税や固定資産税、自動車税などについても話します。
ときには一緒に節約方法を考えてみる。

こうした経験から、子どもは「人が1か月生きていくには、こんなに多くのお金が必要なのか」と実感することができます。

子ども名義の通帳を作り、資産運用をさせてみる

キャッシュレス時代だからこそ、お金の重みを体験する機会が必要です。
レオさんはそのために、敢えて子ども名義の通帳を作ることをすすめます。
自分の名前が印刷された通帳をもち、お年玉などを少しずつ貯金する。その収支を印字された通帳で確かめることで、金銭感覚の土台が築かれていきます。

レオさんは、子どもの通帳にお金が少し貯まったら、少額で長期的な資産運用をさせてみるのも有益だと言います。
値動きに一喜一憂するのではなく、大局的なお金の流れを見るレッスンになるからです。

そういえば、筆者は以前、30代半ばでFIREを果たしたユーチューバーにインタビューしたことがあります。
彼は日本人にしては珍しく、子どもの頃から親御さんに手ほどきを受け、インデックス投資で気長に財形貯蓄をしてきました。その経験と資産がFIREへの足がかりとなり、非常に役立ったと、親御さんへの感謝の気持ちを繰り返し述べていたのが印象的でした。

「お金に強いからこそお金に振り回されずに自分のやりたいことに没頭できる」というレオさんの言葉を裏付ける、好事例といえるかもしれません。

教養を養うためにはお金を惜しまない

現在は、今後の動向を読み切ることが難しい時代です。
10~20年後には、今ある仕事の半数近くがAIに取って代わられるだろうと予測されていますが、その一方で、FinTechなどの新しい分野も出現しています。

親はこうした状況を認識し、今後必要になるのは、圧倒的な得意分野をもつ人間と、どこででも生きていける力やお金を産み出す力であることを理解すべきだ。レオさんはそう考えています。

そのために必要なのは、教養。
どれほど苛酷な状況に身を置いても、頭脳さえあれば生きていけます。

教養のためのお金は決して惜しまないこと。
本は好きなだけ買い与える。
習い事の先生には、月謝が高くても人間として尊敬できる人を選ぶ。いい指導者は優れたメンターとして、子どもにいい影響を与えてくれるからです。

どれほどテクノロジーが発展しても、人の心を成長させるのは、なんといっても人との出会い。技術だけ身につけても、人間性が伴わなければ、決していい仕事はできないとレオさんは断言します。
デジタルリテラシーがデフォルトではあっても、人と人との関係性を豊かに構築するアナログ的な力も不可欠なのです。

そうした人間力を養うための出費は惜しまない、それも大切なポイントです。

親が担うべきこととは

金融に関するシステムや方法が多様化し、しかも次々に刷新されていく。
このような時代にあって、急激な変化に対応しつつ自己実現を図るためには、お金との向き合い方や金銭感覚という根幹を育成することが、とりわけ重要です。
そして、そうした役割を担う存在として、親ほどの適任者はいないでしょう。

家庭でお金の教育をどうするか。
レオさんのノウハウを貴重な問題提起と捉え、それぞれの事情や価値観に照らしつつ、何ができるか考える―そこから始めてみるのはいかがでしょうか。

資料一覧
*1
酒井レオ(2019). 『全米No.1バンカーが教える 世界最新メソッドで お金に強い子どもに育てる方法』 アスコム

*2
金融広報中央委員会(2016)「子どものくらしとお金に関する調査」(第3回) 2015年度調査」
https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/kodomo_chosa/2015/pdf/15kodomo.pdf

*3
金融広報中央委員会(2021)「家計の金融行動に関する世論調査 [二人以上世帯調査]令和2年調査結果 単純集計データ」
https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/yoron/futari/2020/pdf/shukeif20.pdf

*4
男女参画局「男女共同参画白書 令和2年版  コラム1 生活時間の国際比較」
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/column/clm_01.html
<この記事を書いた方>
横内 美保子

横内 美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
留学生の日本語教育、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティア教室のサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。
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執筆 オクトノット編集部

NTTデータの金融DXを考えるチームが、未来の金融を描く方々の想いや新規事業の企画に役立つ情報を発信。「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、金融サービスに携わるすべての人と共創する「リアルなメディア」を目指して、日々奮闘中です。

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