「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、未来の金融を描く方々の想いや新規事業の企画に役立つ情報を発信!

金融が変われば、社会も変わる!

トレンドを知る

2023年 本格化する金融教育と子ども向け金融サービス

画像

新年も近づき、ご子息、ご息女や親せきのお子さまにお年玉などをあげる機会もあり、どのようにお金を管理して欲しいかを気になさる場面もありますね。日本でも2024年から新たなNISAが開始されお金の教育について話すこともあるかと思います。この記事では国内外の子ども向け金融教育の現状と金融サービスについてご紹介します。

日本で金融教育が必要とされる背景

「金融教育」という言葉を最近よく耳にすることがありませんか。
金融教育はお金を通じて社会や経済、将来の働き方等、社会で生活するために必要な知識や判断力を身につけるための教育を意味します。学校で習って完了するものではなく、大人になってからも必要な知識を身につけることを目的としています。例えば、キャッシュレス決済の使い方だけでなく、お金と社会や経済との関係も教育の対象になっています。

なぜ最近になって金融教育の必要性が高まったのでしょうか。以下のような理由があるとされています。

①低金利下での資産形成
近年の低金利により、預貯金では資産を成長させることができない状況です。2023年現在、金利の高い銀行でも100万円1年ものでも定期預金の金利は0.30%です。
こうした状況下では、積極的な資産形成に向けた金融教育がますます重要になってきています。

②成人年齢の引き下げによる金融トラブル
2022年に民法が改正され成人年齢が18歳に引き下げられました。未成年者に必要だった親権者の同意がなくても18歳からクレジットカードやローンの契約ができるようになっています。これまで以上に若い年齢からの金融や経済に対する知識や判断力が必要になります。

③金融教育の機会の低さ
日本は、金融教育が進んでいるとは言えない状況です。日本国民の暮らしに身近な金融に関する広報活動を、中立・公正な立場から行う金融広報中央委員会が行った「金融リテラシー調査 2022年」があります。この調査によると日本では、学校で金融教育を受ける機会がなかった人は75.7%、家庭での金融教育の機会がなかった人は64.7%という調査結果が出ています。

また、学校等で金融教育を受ける機会があり、受けた人は7.1%と低い割合でした。受ける機会はあったが、受けなかったという人も1.8%いましたが、学校での金融教育を受ける機会自体が多くありません。家庭の金融教育の経験は、18.4%の人が教わる機会があったと回答していますが、こちらも高い状態とは言えません。金融知識に自信がある人の比率を日本とアメリカで比較すると、日本が12%、アメリカが71%と大きな差があります。
金融広報中央委員会  金融リテラシー調査(2022年)
こうした背景から2022年4月より高校で金融教育が義務化され、資産形成の授業がスタートしました。授業の内容は、家計管理とライフプランニング、お金の使い方、社会保険と民間の保険、資産形成、ローン、金融トラブルなどです。

日本の金融教育

日本では、最低限身につけるべき金融リテラシーを年齢層別に体系的かつ具体的に記した「金融リテラシー・マップ」が金融庁設置の金融経済教育研究会で検討され、公開されています。「金融リテラシー・マップ」は小学生から高齢者までを対象とし、「家計管理」「生活設計」「金融取引の基本として素養」「金融分野共通」「保険商品」「ローン・クレジット」「資産形成商品」「外部の知見の適切な活用」の項目があります。

この記事では、金融リテラシー・マップの項目を参考にし、子ども向けの金融サービスや海外の金融教育を整理していきます。金融リテラシー・マップは、金融広報中央委員会のサイトから参照できます。
金融広報中央委員会  金融リテラシー・マップ

日本の子ども向け金融サービス

日本の金融教育は2022年から本格的に実施されており、日本の子ども向け金融サービスもこの影響を考慮したものがあります。日本で展開されている3つの金融サービスを紹介します。

①シャトル株式会社「シャトルペイ」
「シャトルペイ」は、保護者のアプリから子どものプリペイドカードに送金して使う、子ども向けキャッシュレス決済サービスです。保護者は子どもの買物のリアルタイム通知や月の買物履歴を見ることができます。子どもは自動でおこづかい帳が記録されるので、自分でお金の使い方を振り返ることができます。「シャトルペイ」は、Mastercardが使えるお店で使えます。

保護者から子どもへの送金はいつでも手数料なしで簡単にでき、おこづかいを自動に定期送金することもできます。「シャトルペイ」を使い、お金の使い方を振り返ることができ、金銭を計画的に使うことの大切さを理解し、貯蓄する姿勢を身につけることができます。この点で、金融リテラシー・マップの小学生の「家計管理」「生活設計」の項目を実践するサービスだと言えるでしょう。
②三井住友カード「かぞくのおさいふ」
「かぞくのおさいふ」は家族で共有する家計を1つに集約できるサービスです。キャッシュレス化することでお金の流れが分かりやすくなり、家族での家計管理や子どものおこづかいの見守りにも使えるプリペイドカードです。

「かぞくのおさいふ」では、家族でこのサービスで使うお金を入れておく「共通のおさいふ」と、個人で持つ「個別のおさいふ」の2種類に分けてお金を管理します。共通のおさいふにはクレジットカードやインターネットバンキングからチャージでき、共通のおさいふから子どもが持つ個別のおさいふにチャージできる仕組みになっています。「かぞくのおさいふ」は世界中のVisa加盟店、Visaのタッチ加盟店で利用できます。

「家族のおさいふ」アプリから、子どもの個別のおさいふの利用通知確認もでき、メッセージのやり取りができるので、子どものお金の使い方を保護者が把握でき安心です。また、おこづかい帳機能やグラフレポートで、子ども自身がお金の使い方を管理する能力を養うことができます。

家計管理を目的としたサービスであることや、おこづかい帳機能により貯蓄の大切さを学べることから、こちらも金融リテラシー・マップの小学生の「家計管理」「生活設計」の項目を実践するサービスだと言えます。

③NTTドコモ「comotto」
comottoは、デジタルコンテンツなどを通じて子どもの成長を育むブランドです。キッズケータイ端末や子どもの居場所を確認する「イマドコサーチ」のサービスを展開しているほか、「学びサービス」では、お金のはたらきと社会の仕組みを親子で一緒に学び、お金が人生にどう役立つかを考え、自分らしい人生を切り開く力を身につけることができます。

comottoでは未就学児・小学校低学年・小学校高学年・保護者の方向けにお金に関する学びコンテンツが用意されています。未就学児向けには「dキッズ」によるキャラクターによる知育アプリ・ゲームを通してお金の支払い方やお買い物を体験コンテンツがあります。

小学校低学年・高学年向けにはお金のはたらきを学び、自分なりに工夫してお金を使う力を育む「comottoウォレット」があります。このほか野村ホールディングスが提供する「マンガ・動画で学ぶ お金入門」、大人向けにも「大人向け金融経済教育コラム」もあります。

comottoのコンテンツを一通り見ると、金融リテラシー・マップの「家計管理」「生活設計」「ローン・クレジット」の中学生向け項目、「金融分野共通」「保険商品」「資産形成商品」の小学生・中学生・高校生の項目を満たしているようです。
今回紹介した3つのサービスには、「家計管理」「生活設計」の能力を養うサービスが含まれていました。金融トラブルの対処法に関する項目である「金融取引の基本としての素養」、ローンについての理解に関する項目「ローン・クレジット」、金融トラブルがあった際の相談方法に関する項目「外部の知見の適切な活用」の項目は扱われていない印象があります。

成人年齢が18歳に引き下げられ、保護者なしで消費や金銭の貸借などの契約できる機会が増えています。若い世代に身近なサービスであるスマートフォン契約や脱毛エステに関する契約トラブルが増えているという報道もあります。金融取引の理解や金融トラブルの対処法に関して学べるサービスの登場が期待されます。

海外の金融教育

まず、世界各国での金融リテラシーの教育状況を確認してみましょう。経済開発協力機構(OECD)が進めるPISA(Program for International Student Assessment)と呼ばれる国際的な学習到達度に関する調査に金融リテラシーについての項目があります。金融リテラシーの調査に参加している国もありますが、日本は数学リテラシー、読解力、科学的リテラシーの3分野の調査にのみ参加しています。
2018年のPISA調査によると、金融リテラシーが高い国の第1位はエストニアです。エストニア大使館のHPではPISA調査で1位を獲得している理由の1つとして、エストニアの現在の国家戦略があげられています。

エストニアの国家戦略は、全国民への金融リテラシーへのアクセス整備、金融リテラシーの実践、金融リテラシーの推奨といった3つの柱から構成されており、積極的に金融リテラシーの向上に取り組んでいます。またエストニアはIT先進国として国をあげてITインフラを整備し、ほぼすべての行政サービスがオンライン化されている超電子国家です。ITで多くのデータを個人が管理できる状態にあることが金融リテラシーの高さに関係していることが推測されます。
金融リテラシーの高い国、第2位はフィンランドです。日本証券業協会の「海外における金融経済教育の実態調査報告書」によるとフィンランド国内の調査結果では、「若者の金融リテラシーは他国よりも学校で教員から教えられることが多く、学校教育と金融リテラシーのつながりが強いとされている」とのことです。
フィンランドの金融経済教育 日本証券業協会
https://www.jsda.or.jp/about/kaigi/chousa/kenkyukai/content/06_fin_all.pdf
日本証券業協会の同報告書によると、「フィンランドの金融リテラシーは全体としては高いレベルにあるが、個々人に差があり、フィンテックによる新たな金融技術や金融商品の導入によりさらに能力を向上させることと、金融知識を活用する金融ケイパビリティを育成することが求められて」おり、金融教育に対する中央銀行を中心とした国家的な取り組みの背景が理解できます。フィンランドの具体的な教育の事例はこの節の最後に改めて紹介します。
子どもの金融リテラシーの高いエストニアとフィンランドの特徴を紹介しました。次に各国での金融教育の事例について紹介していきます。

まずアメリカです。アメリカは国家戦略として金融教育を推進する動きが強いです。州ごとに教育の濃淡がありますが、アメリカ経済教育協議会が主導し、2年ごとにアメリカ50州とコロンビア特別区での、金融教育の進捗調査を行っています。

また、アメリカには金融教育の推進力を増す上で大きな影響力を持つ「Jump$tart Coalition(ジャンプスタート連合)」というNPO法人があります。この法人は、金融教育に関心の高い民間金融機関や、財団、学術団体、政府機関などおよそ150の機関が共同出資して設立したものです。金融教育をする教育者の育成に力を入れていることが特徴的です。

教員志望者に対して金融教育方法を教えるプログラムや金融教育コミュニティの形成を目的としたプログラムの提供、金融教育におけるリーダーシップや顕著な業績を表彰するなど金融教育を担う人材の育成に注力しているようです。

アメリカの教育システムでは、金融教育を導入するかどうかは州レベルでの判断によりますが、金融教育を積極的に導入しようとする州に対して、Jump$tartは教育者へのトレーニング、教材の提供、教授法を提示することで、金融教育の普及に貢献しています。
Jump$tart Coalition
https://www.jumpstart.org/

次にイギリスです。イギリスには社会科や公民のような「シティズンシップ」という共通カリキュラムがあり、11~13歳、14~16歳などの年齢層別にステップアップしてお金に関する知識を学んでいきます。日本証券業協会の報告書によると、「『どのように私たちはお金をよりよく管理できるのか?』というカリキュラムの内容が具体的な授業内容として提案されている」ようです。このカリキュラムでは、「お金を大切にすることとは?」、「私たちはどのように支払いができるのか?」、「お金を管理するにはどうしたらいいのか?」などの授業があります。

具体的な講義内容として、支払については現金、PayPal、ApplePay、AndroidPay、デビッド、クレジットなどの支払い方法や予算の計画、管理の方法などを学んでいます。またお金の管理については、銀行やプリペイドカードやお金を管理するためのツールや金融はんだ罪についてのリスクも対象になっています。貯蓄と投資についての長所や短所もシティズンシップで教えられています。
英国(イングランド)の金融経済教育 日本証券業協会
https://www.jsda.or.jp/about/kaigi/chousa/kenkyukai/content/01_eng_all.pdf
最後にフィンランドです。フィンランドの金融教育では、社会科の科目で経済の仕組み、 労働や起業、金融のようなマクロ経済的内容と、日常生活における消費や貯蓄、金銭管理といったミクロ経済的内容を学習しています。家庭科では、サスティナビリティ実現のための責任ある消費者としての行動や職業に関する知識を学習しています。

フィンランドの金融教育の成果は先に紹介したPISAの金融リテラシーではトップクラスの成績にあります。しかしこの状態にありながら相対的に低下傾向にあると政府は判断し、さらなる改革が行われ、金融教育に関する国家戦略の策定が進められています。

海外の子ども向け金融サービス

こうした金融教育が進んだ国ではどのような子ども向けの金融サービスが提供されているでしょうか。海外の子ども向け金融サービスをいくつかご紹介します。

①アメリカ Greenlight Financial Technologies「Gleenlight」

Gleenlightは親子向けの金融スーパーアプリです。保護者から子どもへのP2P送金、デビットカードと預金口座、投資の3種類のサービスを展開しています。8歳以上の子どもをターゲットとしています。

保護者から子どもへの送金は保護者がGreenlightのスマホアプリを通じて、子どものカードにお金をチャージすることができ、即座に送金が反映されます。毎月の保護者から子どもへのおこづかいを自動的に送金する設定もできます。

子どもの預金口座は「支出」「貯金」「寄付」3種類の口座に分けられるようになっています。保護者はスマホアプリで子どものデビットカードの利用制限ができ、アプリの通知で子どもの利用を見守ることができます。

Greenlightは投資の機能も保持しています。投資機能には、保護者だけでなく子ども自身も投資できるプランの2つあります。子どもにとって投資はハードルが高いようにも思えますが、アプリ内でビデオやクイズを使って投資について勉強できるようになっており、投資初心者の子どもでも挑戦しやすい設計になっています。投資取引時には保護者の承認が必要となっているので、子どもが安全に投資できるサービスだと言えるでしょう。

Gleenlightはお金の使い方や貯蓄の仕方を考える、また投資により資産形成について考えることができる点から金融リテラシー・マップの「家計管理」「生活設計」「資産形成商品」の小学生の項目を満たすサービスと言えます。
②イギリス GoHenry社「GoHenry」

GoHenryは6〜18歳の子どもを対象にVisaデビットカードと金融教育アプリを提供しています。金融教育アプリではビデオやゲームを通じて9つのマネーミッションについて学ぶことができます。

マネーミッションの内容は、①お金の基本、②仕事と収入、③貯める習慣、④賢く使う、⑤人助け、⑥お金の安全、⑦予算計画、⑧借入とクレジット、⑨投資入門です。9つのミッションの中身を見てみると、日本の金融リテラシー・マップの「家計設計」「生活設計」「金融取引の基本としての素養」「金融分野共通」「保険商品」「ローン・クレジット」の小学生・中学生向け項目を満たしています。

このミッションにあがっている項目は、世界的な金融教育の標準的な内容のようです。
③ フランス PixPay社「PixPay」

PixPayはMastercardネットワーク全体で利用可能で、ApplePayやGooglePayの対応が可能になっています。PixPayでは、保護者から子どもへの送金ができます。送金は手動だけでなく、定期的に自動で送金する仕組みもあります。また、子どもによる支払いやPINコードの親による管理、支払いごとの保護者への通知、オンライン支払いや海外への支払いの制限設定ができるため、不正利用などのリスクも検知しやすい仕様になっています。PixPayの対象年齢は、10歳以上です。

保護者によるお金の管理だけでなく、子どもが自ら金融リテラシーを高められるコンテンツもあります。例えば、子どもに分かりやすい支出分析の提示や、節約をしてお金を貯めて、時間をかけて高価なものを買うなど今後の支出計画のプロジェクト化があげられます。PixPayのコンテンツは、金融リテラシー・マップの「家計設計」「生活設計」の小学生の項目を満たすサービスと言えます。

https://www.pixpay.fr/


以上、3つのサービスから海外の子ども向け金融サービスは金融リテラシー・マップのトラブルに遭ったときの対処法を知っておく必要があるという内容の「外部の知見の適切な活用」の項目以外は教育の対象とされているようです。特に幼少期から投資ができるサービスや投資を教えるコンテンツがあり、日本とは異なった項目を金融教育に組み込んでいるようです。

おわりに

日本と海外の子ども向け金融教育の比較をしました。日本では金融リテラシー・マップによる金融教育の体系化や、高校での金融教育の義務化が行われています。一方海外の進んだ事例を見てみると、専門機関が金融教育の標準化や調査を行ったり、小学生から金融教育プログラムを導入したり、金融教育をする教育者への育成に力を入れたり、アプローチが日本と異なっていることが分かります。

子ども向け金融サービスに関しても、日本では家計設計や生活設計を学んだり体験できたりするサービスが多くありました。海外では保険やローン・クレジット、資産形成商品を学び体験できるサービスも複数あり日本とは異なっています。幼少期から投資への接点を作り、子ども向け金融サービスに「寄付」に関する項目が入っていたのは日本とのお金に対する捉え方や文化の違いが影響しているようです。

今後、日本で金融リテラシーを向上させるためにはなにが必要でしょうか。金融リテラシーが高い国はIT化が進んでいることから、IT化のさらなる推進が不可欠です。また、PISA調査によると金融リテラシーは数学的リテラシーや読解力と相関があることが分かっています。

PISAの2018年の調査で日本は、読解力11位、数学的リテラシー1位と上位にあります。子どもの金融リテラシーをあげるためには、2022年から本格化した学校での金融リテラシー教育を家庭でも理解し、日常生活で定着させることが必要です。そのためには、子ども向けの金融サービスを利用するなどして日常的に子どもがお金の使い方や管理を実践することや、アメリカで行われている金融教育をする教育者の育成などが重要になると思います。
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※本文および図中に登場する商品またはサービスなどの名称は、各社の商標または登録商標です。
画像

執筆 オクトノット編集部

NTTデータの金融DXを考えるチームが、未来の金融を描く方々の想いや新規事業の企画に役立つ情報を発信。「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、金融サービスに携わるすべての人と共創する「リアルなメディア」を目指して、日々奮闘中です。

感想・ご相談などをお待ちしています!

お問い合わせはこちら
アイコン