DXの本質 - 効率化からAutomationへ
2024年6月に内閣府が発表した「骨太方針2024」では、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の重要性が強調されています。しかし、アナログ中心の現状に満足したり、デジタル化に失敗して諦めたりした企業も少なくありません。総務省の報告によると、アンケートに回答した約1,300社の日本企業のうち、32.6%が「アナログな文化・価値観が定着している」、25.3%が「明確な目的・目標が定まっていない」と、デジタル化を進める上での課題や障壁を挙げています※1。
※1 国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究の請負成果報告書
※1 国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究の請負成果報告書
ここで重要なのは、「DXの明確な目的とは何か」という点です。多くの業界で共通するDXの目的は業務効率化です。例えば、ITの導入により手書き作業はデジタル入力に置き換わり、コピー&ペーストが可能となり、作業のスピードと正確性が向上しました。会議もオンライン化され、移動時間の削減や録画・文字起こしによる情報共有の容易化が実現しています。
こうした業務効率化を実現するためには、段階的な取り組みが重要です。DXは以下の順序で進化します。
●デジタイゼーション(Digitization):アナログ・物理データをデジタルデータに変換する段階です。紙の書類を電子データ化することで、情報の保存・検索・共有が容易になります。先ほどのデジタル入力や会議のオンライン化の例はこの段階にあたります。
●デジタライゼーション(Digitalization):個別の業務やプロセスをデジタルデータで管理・運用する段階です。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAI、ローコード開発ツールを活用して手作業の業務を自動化します。例えば、請求書のデータ入力を自動化して入力ミスを削減したり、AIチャットボットで顧客対応を自動化し、対応時間の短縮と顧客満足度の向上を図ったります。
●デジタル・トランスフォーメーション(DX):組織全体で業務やプロセスをデジタル化し、「顧客起点の価値創出」を目指して事業やビジネスモデルを変革する段階です。顧客データを分析して個々のニーズに合わせた商品提案を自動化したり、製品販売からサービス提供型ビジネスへ転換したりするなどの取り組みがここに含まれます。デジタルを活用した人・組織・ビジネスモデルの変革が実現されます。
医療、教育、農業など多様な分野でもDXの手法は異なりますが、共通するのは「より早く」「より多く」「より確実に」を追求する効率化です。
こうした業務効率化を実現するためには、段階的な取り組みが重要です。DXは以下の順序で進化します。
●デジタイゼーション(Digitization):アナログ・物理データをデジタルデータに変換する段階です。紙の書類を電子データ化することで、情報の保存・検索・共有が容易になります。先ほどのデジタル入力や会議のオンライン化の例はこの段階にあたります。
●デジタライゼーション(Digitalization):個別の業務やプロセスをデジタルデータで管理・運用する段階です。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAI、ローコード開発ツールを活用して手作業の業務を自動化します。例えば、請求書のデータ入力を自動化して入力ミスを削減したり、AIチャットボットで顧客対応を自動化し、対応時間の短縮と顧客満足度の向上を図ったります。
●デジタル・トランスフォーメーション(DX):組織全体で業務やプロセスをデジタル化し、「顧客起点の価値創出」を目指して事業やビジネスモデルを変革する段階です。顧客データを分析して個々のニーズに合わせた商品提案を自動化したり、製品販売からサービス提供型ビジネスへ転換したりするなどの取り組みがここに含まれます。デジタルを活用した人・組織・ビジネスモデルの変革が実現されます。
医療、教育、農業など多様な分野でもDXの手法は異なりますが、共通するのは「より早く」「より多く」「より確実に」を追求する効率化です。
図1:DXの取り組みステップ
この過程を経てDXフェーズに到達し、デジタルを前提とした業務全体の変革を実現した企業が徐々に増えてきました。現在、DXの目的は単なる業務効率化から業務の完全自動化である「Digital Automation」へと進みつつあると考えています。
これは、DXが注目を集めた背景である経費削減だけでなく、労働人口の不足という避けられない社会課題への対策手段とも言えます。日本は少子高齢化に伴う労働人口の減少という深刻な問題に直面しており、今後もこの傾向は続くと予測されています。しかし、企業は持続的な成長を求められるため、社員一人当たりの生産性向上がこれまで以上に重要となっています。
このような状況下で、DXをさらに深化させ、最終的な目標であるDigital Automationを実現することが求められます。例えば、請求書の受領から支払までのプロセスをDXによって効率化した上で、プロセス全体を自律的に運用できるようにし、完全自動化が可能となります。これにより、時間とコストの大幅な削減だけでなく、エラーの減少やプロセスの最適化が実現します。現在の技術を組み合わせることで、このような完全自動化は実現可能な段階に来ています。
さらに、Digital Automationを前提としたDXがもたらすメリットは、労働力不足の解消にとどまりません。
まず、新たな価値創出の可能性が広がります。従業員はルーチンワークから解放され、より創造的で戦略的な業務に専念できるようになります。これにより、新製品・サービスの開発や顧客体験の向上など、企業全体のイノベーションを促進します。
また、リアルタイムでの意思決定が可能になります。自動化されたシステムはデータをリアルタイムで収集・分析するため、市場の変化や顧客のニーズに迅速に対応できます。これにより、競争優位性を高められます。さらに、業務を完全にデジタル化・自動化することで、AIやビッグデータ解析の活用範囲が広がり、データドリブンな経営が実現します。これにより、ビジネス戦略の策定や市場予測の精度が向上し、企業の持続的な成長につながります。
例えば、サプライチェーンの自動化により在庫管理や物流の効率化が進み、コスト削減と顧客満足度の向上を同時に実現できます。チャットボットや自動応答システムの導入で24時間体制のカスタマーサポートが可能となり、顧客とのエンゲージメントを高めることもできます。
このように、Digital Automationは労働力不足への対応だけでなく、新たな価値創出や迅速な意思決定、データドリブンな経営の実現といった多面的なメリットをもたらします。
しかし、その実現には段階的なDXの取り組みが不可欠です。各段階での取り組みが積み重なってこそ、最終的な完全自動化が可能になります。次章では、デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタル・トランスフォーメーションの各段階において、Digital Automationを見据えた具体的な事例を詳しく見ていきましょう。
これは、DXが注目を集めた背景である経費削減だけでなく、労働人口の不足という避けられない社会課題への対策手段とも言えます。日本は少子高齢化に伴う労働人口の減少という深刻な問題に直面しており、今後もこの傾向は続くと予測されています。しかし、企業は持続的な成長を求められるため、社員一人当たりの生産性向上がこれまで以上に重要となっています。
このような状況下で、DXをさらに深化させ、最終的な目標であるDigital Automationを実現することが求められます。例えば、請求書の受領から支払までのプロセスをDXによって効率化した上で、プロセス全体を自律的に運用できるようにし、完全自動化が可能となります。これにより、時間とコストの大幅な削減だけでなく、エラーの減少やプロセスの最適化が実現します。現在の技術を組み合わせることで、このような完全自動化は実現可能な段階に来ています。
さらに、Digital Automationを前提としたDXがもたらすメリットは、労働力不足の解消にとどまりません。
まず、新たな価値創出の可能性が広がります。従業員はルーチンワークから解放され、より創造的で戦略的な業務に専念できるようになります。これにより、新製品・サービスの開発や顧客体験の向上など、企業全体のイノベーションを促進します。
また、リアルタイムでの意思決定が可能になります。自動化されたシステムはデータをリアルタイムで収集・分析するため、市場の変化や顧客のニーズに迅速に対応できます。これにより、競争優位性を高められます。さらに、業務を完全にデジタル化・自動化することで、AIやビッグデータ解析の活用範囲が広がり、データドリブンな経営が実現します。これにより、ビジネス戦略の策定や市場予測の精度が向上し、企業の持続的な成長につながります。
例えば、サプライチェーンの自動化により在庫管理や物流の効率化が進み、コスト削減と顧客満足度の向上を同時に実現できます。チャットボットや自動応答システムの導入で24時間体制のカスタマーサポートが可能となり、顧客とのエンゲージメントを高めることもできます。
このように、Digital Automationは労働力不足への対応だけでなく、新たな価値創出や迅速な意思決定、データドリブンな経営の実現といった多面的なメリットをもたらします。
しかし、その実現には段階的なDXの取り組みが不可欠です。各段階での取り組みが積み重なってこそ、最終的な完全自動化が可能になります。次章では、デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタル・トランスフォーメーションの各段階において、Digital Automationを見据えた具体的な事例を詳しく見ていきましょう。
参考情報
事例で学ぶDigital Automationの現実
1つ目のデジタイゼーションの事例は、日立グループの財務部門における帳票のデジタル化です。
日立グループでは、財務部門の年間25万件におよぶ出納業務の帳票読み取りにOCR技術を活用し、約4,800種類の請求書と約200種類の社内申請書の自動読み取りを実現しました。認識エンジンを使って、読取位置が指定されたテンプレートを自動で選択し、「消費税額」「課税対象額」「口座名義人名」などを正確に読み取り、OCRの読み取り精度を数値化することで、誤認識の高いデータのみを目視確認する仕組みを導入しました。
これにより、人間による全件確認の必要がなくなり、業務時間を年間7,100時間、約5割削減する見込みです。さらに、手作業によるミスの減少、担当者の負担軽減、残業時間の削減、休暇の取りやすさなど、働き方の改善も推進しています。
日立製作所 AI-OCRとは?~OCRとの違い・メリット/選定・導入に失敗しない3つのポイントと活用事例~
https://www.hitachi.co.jp/products/it/appsvdiv/service/ai-ocr/column_01.html
上記URLをご参照ください。
日立グループでは、財務部門の年間25万件におよぶ出納業務の帳票読み取りにOCR技術を活用し、約4,800種類の請求書と約200種類の社内申請書の自動読み取りを実現しました。認識エンジンを使って、読取位置が指定されたテンプレートを自動で選択し、「消費税額」「課税対象額」「口座名義人名」などを正確に読み取り、OCRの読み取り精度を数値化することで、誤認識の高いデータのみを目視確認する仕組みを導入しました。
これにより、人間による全件確認の必要がなくなり、業務時間を年間7,100時間、約5割削減する見込みです。さらに、手作業によるミスの減少、担当者の負担軽減、残業時間の削減、休暇の取りやすさなど、働き方の改善も推進しています。
日立製作所 AI-OCRとは?~OCRとの違い・メリット/選定・導入に失敗しない3つのポイントと活用事例~
https://www.hitachi.co.jp/products/it/appsvdiv/service/ai-ocr/column_01.html
上記URLをご参照ください。
2つ目のデジタライゼーションの事例は、地方公共団体向けの給付金支給業務の自動化です。
コロナ禍における経済対策として特別定額給付金の支給が政策として行われましたが、膨大な業務量に対して迅速な支給が求められ、自動化が急務でした。そこで、住民からの給付金申請受付からデータ入力、入金処理までの一連の流れをAI-OCRとRPA技術を活用して自動化しました。AI-OCRにより紙の申請書をテキストデータに変換し、RPAでテキストとデータをシステムに入力、支給審査業務の突合チェックや振り込みデータの作成を行います。
また、複数の自治体で簡単に導入できるように、給付金申請書の推奨レイアウト、AI-OCRによる入力用帳票定義、および申請対応業務自動化のためのWinActor※2シナリオを提供しました。RPAやAI-OCRの強みである小規模・スピーディな導入の利点が生かされました。
※2:WinActor
NTTグループで開発されたソフトウェア型ロボットで、国内の多くの企業で導入されているRPAツール。Windows端末上の操作を記録して高速・自動で実行できる。
コロナ禍における経済対策として特別定額給付金の支給が政策として行われましたが、膨大な業務量に対して迅速な支給が求められ、自動化が急務でした。そこで、住民からの給付金申請受付からデータ入力、入金処理までの一連の流れをAI-OCRとRPA技術を活用して自動化しました。AI-OCRにより紙の申請書をテキストデータに変換し、RPAでテキストとデータをシステムに入力、支給審査業務の突合チェックや振り込みデータの作成を行います。
また、複数の自治体で簡単に導入できるように、給付金申請書の推奨レイアウト、AI-OCRによる入力用帳票定義、および申請対応業務自動化のためのWinActor※2シナリオを提供しました。RPAやAI-OCRの強みである小規模・スピーディな導入の利点が生かされました。
※2:WinActor
NTTグループで開発されたソフトウェア型ロボットで、国内の多くの企業で導入されているRPAツール。Windows端末上の操作を記録して高速・自動で実行できる。
3つ目のデジタル・トランスフォーメーションの事例は、モバイル通信サービスにおける運用保守業務の効率化です。
近年、ネットワークサービスの多様化に伴い、対応する装置や運用ルールの増加により業務負荷が課題となっています。特に少子高齢化による労働人口減少を背景に、既存事業の運用負荷を削減し、成長事業へとシフトすることが求められています。
NTTドコモでは、保守業務の完全自動化を目指す「ゼロタッチオペレーション(ZTO)」を構想し、ServiceNow※3を活用して故障受付から判定、対応依頼まで一気通貫で自動化することに成功しました。これにより、運用保守稼働の大幅削減と人為的ミスの排除が実現しました。
※3:ServiceNow
ServiceNow, Inc.が提供する企業のITサービスマネジメントクラウドサービス。企業活動におけるさまざまな業務・サービスを単一プラットフォーム上に統合し、業務の標準化・可視化・自動化をコンセプトに業務に必要なリソースを管理する。
近年、ネットワークサービスの多様化に伴い、対応する装置や運用ルールの増加により業務負荷が課題となっています。特に少子高齢化による労働人口減少を背景に、既存事業の運用負荷を削減し、成長事業へとシフトすることが求められています。
NTTドコモでは、保守業務の完全自動化を目指す「ゼロタッチオペレーション(ZTO)」を構想し、ServiceNow※3を活用して故障受付から判定、対応依頼まで一気通貫で自動化することに成功しました。これにより、運用保守稼働の大幅削減と人為的ミスの排除が実現しました。
※3:ServiceNow
ServiceNow, Inc.が提供する企業のITサービスマネジメントクラウドサービス。企業活動におけるさまざまな業務・サービスを単一プラットフォーム上に統合し、業務の標準化・可視化・自動化をコンセプトに業務に必要なリソースを管理する。
上記のように、各段階に合わせて要素技術を活用することでDigital Automationが実現されてきました。自動化が進むことで組織内の人材の再配置が進んだり、新たな価値創造が生まれたりすることが期待されています。
次回は後編として、Digital Automationを実現する要素技術の紹介と、実現への道筋について考察します。
次回は後編として、Digital Automationを実現する要素技術の紹介と、実現への道筋について考察します。
立川 将(たてかわ まさる)
蔀 穂高(しとみ ほだか)
NTTデータ 社会基盤ソリューション事業本部 ソーシャルイノベーション事業部 アセットビジネス統括部 アセットビジネス担当 主任
2020年に経験者採用でNTTデータ入社後、通信事業者向け設備管理システムの顧客営業や地理空間コンテンツの配信サービスの新規立ち上げなどに従事。2023年からはローコードツールの販売や開発プロジェクトに関する提案営業、幅広いお客様に対してローコードソリューションを活用いただくためのデリバリサービスの企画など幅広く対応している。
2020年に経験者採用でNTTデータ入社後、通信事業者向け設備管理システムの顧客営業や地理空間コンテンツの配信サービスの新規立ち上げなどに従事。2023年からはローコードツールの販売や開発プロジェクトに関する提案営業、幅広いお客様に対してローコードソリューションを活用いただくためのデリバリサービスの企画など幅広く対応している。
櫻井 瑞希(さくらい みずき)
NTTデータ 社会基盤ソリューション事業本部 ソーシャルイノベーション事業部 アセットビジネス統括部 アセットビジネス担当 主任
総合人材サービス企業にて、ITコンサルタントを経て2024年9月、NTTデータに入社。WinActorをはじめとしたローコードツールの企画営業を担当。
総合人材サービス企業にて、ITコンサルタントを経て2024年9月、NTTデータに入社。WinActorをはじめとしたローコードツールの企画営業を担当。
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は執筆当時のものです。
※記事中の所属・役職名は執筆当時のものです。
2015年、NTTデータに入社。技術開発本部にて量子コンピュータやロボティクスなど最先端技術の研究開発をリード。2020年から4年間、「NTT DATA Technology Foresight」の策定に従事。2024年より現担当へ異動。金融分野におけるフォーサイト起点のビジネス創出に挑み、新たな価値の創造を目指している。