広告事業にまつわる規制緩和の動向
冒頭で上海の事例を挙げましたが、国内でも、ベクトルグループのスマートメディアがデジタルクリエイティブ企業のセブンセンスと業務提携して、ドローンテクノロジーを活用した空の広告・エンターテイメントをプロデュースする事業を展開しています。これは少し特別な、最先端の事例ではありますが、こんな広告の世界が銀行にとってももう少し身近な話題として感じられるようになるかもしれません。
きっかけは、金融庁が事務局を務める「銀行制度等ワーキング・グループ」の報告書。同ワーキング・グループが2020年12月22日に公表した報告書で、広告事業を銀行の付随業務として追加する旨の提言がなされました。
そもそも、このワーキング・グループは、同年9月11日の金融審議会総会において、金融担当大臣による諮問を受けて設置されたもので、デジタル化や地方創生など持続可能な社会の構築に資するための銀行の業務範囲規制等の見直しや、地域における金融機能維持のための方策について検討が進められてきました。
参考:金融庁『金融審議会 銀行制度等ワーキング・グループ報告』
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20201222/houkoku.pdf
報告書の内容は多岐にわたりますが、このうち「業務範囲規制」のパートに今回のテーマである広告事業に関する提言があります。ポイントは、(1)銀行本体で広告業務がオフィシャルに取り扱えるようになる、(2)(銀行の子会社・兄弟会社として設立可能な)高度化等会社で広告業務を扱う場合の認可基準が緩和される、という2点にあると考えています。それぞれについて、少し細かく報告書の内容を調べてみました。
(1)銀行本体の広告業務
今回公表された報告書では、この付随業務に「経営資源を活用したデジタル化や地方創生など持続可能な社会の構築に資する業務」を追加し、内閣府令(銀行法施行規則)へ明記することが提言されています。
具体的な対象としては、次の通りです。
②自行用に開発したアプリやIT システム(提供先企業用に一部をカスタマイズしたものを含む)の販売
③データ分析・マーケティング・広告
④登録型人材派遣
⑤コンサルティング・ビジネスマッチング(従来「その他の付随業務」に該当するとされてきたが、内閣府令に規定して位置付けを明確化)
(2)高度化等会社の広告業務
※高度化等会社:情報通信技術等を活用した銀行業の高度化や利用者利便の向上に資する業務を行うことを前提に、従来は他業と整理されてきた業務を営むことができる銀行の子会社・兄弟会社
こちらも参考までに、具体的な対象としては、次の通りです。
②地域商社(在庫保有、製造・加工を原則行わないもの)
③自行グループ用に開発したアプリやIT システム(提供先企業用に一部をカスタマイズしたものを含む)の販売
④データ分析・マーケティング・広告
⑤登録型人材派遣
⑥ATM 保守点検
⑦障害者雇用促進法上の特例子会社(が営む業務)
⑧地域と連携した成年後見(銀行グループが単独で成年後見業務を営むのではなく、地域連携ネットワークの中核機関などと連携して営むことも考えられる)
実はすでに始まっている広告事業
【参考】内閣府『規制改革ホットライン検討要請項目の現状と対応策』(2017年)
【参考】金融庁『銀行法に関する法令適用事前確認手続に係る照会について』(2004年)
取り組んでいる金融機関はそう多くはないものの、いくつかの銀行のウェブサイトなどで「PR」と表示された広告を見つけることができると思います。例えば、楽天銀行のように資産残高や取引回数などの細かいセグメンテーションを行うなど、広告媒体としての魅力度向上のために色々と工夫をしている銀行も存在しています。
【参考】楽天銀行媒体情報
“法令において個別に明確化することにより、「その他の付随業務」に係る監督指針上の要件(①銀行法第10 条第1項各号・第2項各号に掲げる業務に準ずるか、②銀行業との機能的な親近性やリスクの同質性が認められるか、など)への該当性は問題とならない。”
つまり、従来は必須だった監督指針上の要件充足を前提としなくても、広告事業に取り組むことが可能になるということが、これまでとの違いであると読み取れます。
さて、ここまでは銀行の広告事業にまつわる規制緩和のトレンドを中心に調べてまいりました。後編では、広告事業とは何なのか?実際にビジネスとしてどうなのか?といった観点で、調べていきたいと思います。