「Now in vogue」は、ちょっと気になる世の中のトレンドや、話題の流行語などについて、少しライトな内容でお届けする企画です。
BaaSの定義と仕組み
今後の金融サービスの変革に大きく関わるであろうBaaS。まずは、BaaSの定義とその仕組みについて見ていきましょう。
BaaSの定義
金融業界におけるBaaSとは「Banking as a Service」の頭文字をとった言葉で、これまで銀行が提供してきた機能や金融サービスが、APIを介しクラウドサービスとして提供されることです。もう少しかみ砕いて言えば、銀行以外の事業者が自社のアプリやサービスに、金融機能を組み込んで利用者に提供することを指します。
BaaSという用語は他にもあり、IT用語「Backend as a Service」の略語としてのBaaSは、技術者を中心にいち早く普及しました。銀行のBaaSが検索ワードとして上位に来るようになったのはつい最近のことで、旬な話題と言えるでしょう。
BaaSの仕組み
「預金」「融資」「為替」などのサービスを金融機関以外の企業が行うには、銀行ライセンス等の許認可が必要となり、難しい状況がありました。しかし、BaaSを活用することで、銀行ライセンスを持たなくても自社で金融サービスが提供可能となったのです。
BaaSが注目される背景
世界的な流れを受け、日本でも本格的にBaaSの活用が進んでいます。次になぜ今BaaSが注目されるのか、その背景について見ていきましょう。
世界的なオープンバンキングの推進
企業間でデータのやりとりが自由にできる仕組みを、オープンAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)と言います。金融業界におけるオープンAPIとは、銀行がAPIを開放し、Fintech企業などの外部事業者との間で安全にデータを連携・活用することを指します。これにより、価値のある新しいサービスを生み出す取り組みが「オープンバンキング」です。
このオープンバンキングの推進はイギリスから始まり、チャレンジャーバンクが誕生するなど世界的な潮流になっています。日本では2017年の改正銀行法により、銀行のオープンAPIの実施が努力義務とされたものの、なかなか活用方法が見つかりませんでした。
BaaSはこの活用方法として、近年の日本でも急速に注目を集めてきました。なぜなら銀行以外の外部の企業が金融サービスとして提供するというBaaSの考え方そのものが、オープンAPIの活用を具現化するものだったからです。
デジタル化時代の到来によるニーズの高まり
自社のアプリに、プリペイドカードやQR決済等の金融サービスを搭載させることへの高いニーズはありましたが、一部の例外を除いて、銀行と結びつけて考える発想はこれまでほとんどありませんでした。BaaSが注目される理由として、スマートフォンの登場やキャッシュレスの流れといったデジタル化時代の到来により、改めて考え直されるようになったと言えるでしょう。
既に決済機能を持つアプリは多く存在しますが、送金などができる機能を持つアプリへのニーズは高いです。銀行と銀行ライセンスを持たない他業種間の連携が進み、利用者のニーズやタイミングに合わせたサービスが次々と生まれてきています。
BaaS活用により得られるメリット
BaaSを活用することにより、非金融業・銀行・利用者それぞれにメリットがあります。BaaS活用で得られるメリットから、BaaSの活用方法を見出せるのではないでしょうか。
非金融業のメリット
事業会社は自ら銀行ライセンスを取得するケースもあります。ですがBaaSを活用することで、銀行ライセンスを取得することなく自社サービスに金融機能を組み込めるため、より利便性と付加価値の高いサービスが提供できます。振込機能や決済機能があれば、自社のアプリから離脱せずにシームレスに利用できて、利用者の購買行動につなげられます。
銀行のメリット
銀行はBaaSを提供することで企業と提携でき、間接的により多くの銀行利用者の獲得が期待できます。例えば、資産管理や個人間送金などのサービスを一括で組み込めるアプリがあれば、一度に多くの利用者の獲得が可能です。利用者が使いたいタイミングでサービスが提供できるため、自行の利用率も上がるでしょう。また、企業との提携により、他の金融サービスとの差別化が図れるのもメリットの1つです。
利用者のメリット
利用者は、適切なタイミングで銀行機能が使えます。金融サービスが他のサービスの中に自然に溶け込んでいるイメージと言えるでしょう。 また、銀行サイトに遷移したり、銀行窓口まで行って手続きする手間がないのもメリットです。
国内銀行のBaaS活用の事例
国内では銀行のオープンAPIの努力義務が課されたことで、現在では銀行によるAPIの提供が進み、FinTech企業や非金融業との連携もスタートしています。次に、国内銀行のBaaS活用の具体的な事例について紹介します。
住信SBIネット銀行「NEOBANK」
日本ではSBIグループがBaaS活用の先頭グループにいます。近年、「NEOBANK」をブランド名として採用し、銀行代理業ライセンス取得のサポートや、企業が必要とする銀行機能の提供をスタートしました。事例としては、日本航空株式会社(JAL)との提携で、海外でも使える多通貨のプリペイドカード「JAL Global WALLET」や、外貨預金やマイルも貯められる「JAL NEOBANK」のサービスを提供しています。
もう1つの事例として、株式会社Tマネーと提携し「T NEOBANK」のサービスを開始。振込や外貨預金などの銀行サービスの他に、銀行取引でTポイントをためて使うこともできます。
新生銀行グループ「BANKIT」
新生銀行グループが提供する「BANKIT」では、小売業の事例として、オリジナル決済アプリの提供、後払いなどの与信サービス、クーポンやポイント機能などが利用できます。また、人材派遣会社の場合では、派遣やアルバイトスタッフなどが口座を開設することなく送金サービスを受けられるなど、企業内の個人向けの金融サービスも利用できるのが特徴です。
BaaS普及の課題と今後の動向
BaaSの活用が金融サービスの拡大にとって重要な役割を果たすと思われます。最後に、日本国内のBaaS普及の課題と国内外の今後の動向について見ていきましょう。
BaaS普及の課題
・統一された仕様の必要性
APIを開放する銀行は増えてきましたが、今後は金融機関とFintech企業が連携し、いかにして新しいサービスを生み出していくか、が重要となります。しかし、銀行毎にAPIの仕様が異なるため開発が複雑になり、BaaS普及の妨げになっています。セキュリティ対策を講じたうえで銀行APIの仕様を統一することで、利便性の高いサービス開発が期待できます。
APIを開放する銀行は増えてきましたが、今後は金融機関とFintech企業が連携し、いかにして新しいサービスを生み出していくか、が重要となります。しかし、銀行毎にAPIの仕様が異なるため開発が複雑になり、BaaS普及の妨げになっています。セキュリティ対策を講じたうえで銀行APIの仕様を統一することで、利便性の高いサービス開発が期待できます。
・「相互運用性(interoperability)」の必要性
別の課題として、指摘されているのは決済事業を行う銀行とFinTech企業の「相互運用性(interoperability)」の確保です。決済ネットワークの利用者が多いほど、利用者も決済サービスから受ける便益が大きくなる「ネットワーク効果」が生まれるからです。
別の課題として、指摘されているのは決済事業を行う銀行とFinTech企業の「相互運用性(interoperability)」の確保です。決済ネットワークの利用者が多いほど、利用者も決済サービスから受ける便益が大きくなる「ネットワーク効果」が生まれるからです。
相互運用性の確保により、利用者は1つのプラットフォームで他のプラットフォームの利用者との決済ができるようになり、銀行やFinTech企業はキャッシュレス決済の利用者数を拡大することができます。さらに、決済や他の金融サービス、非金融サービスを組み合わせることが付加価値を生み出し、イノベーションにもつながるでしょう。
BaaS普及の今後の動向
海外では、多数のアプリ利用者を持つ事業者が、1つのアプリで各種サービス提供するスーパーアプリに銀行機能を組み込もうとする動きがあります。
国内では、2020年金融庁により「金融サービスの提供に関する法律」が公布され、「金融サービス仲介業」などの法改正が成立しました。これにより、銀行・証券・保険などの業種が1つの登録で仲介業務が可能になったのです。多彩な金融サービスを1つのアプリでワンストップ提供できるようになることから、さらなるBaaS活用の普及が予想されます。
BaaSの活用と他業種間の連携が金融サービスの拡大に
それぞれ実績のある金融機関と他の異業種企業がBaaSの活用を通して連携することで、多様なビジネスモデルとオリジナルのサービスを生み出すことが期待できます。BaaSを活用し利用者のニーズに寄り添うサービスを提供することが、今後の金融サービスの拡大にもつながるでしょう。
※本記事の内容には「Octo Knot」独自の見解が含まれており、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。