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【Datachain】ブロックチェーン間の相互運用はなぜ重要なのか?

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ビットコインやイーサリアムという暗号資産の名前はよく耳にしますし、暗号資産を保有し店舗やネットショップで決済をされた方もいらっしゃると思います。なんとなく使われ始めている暗号資産ですが、時価総額が大きい暗号資産は異なるブロックチェーン基盤で実装されていることはご存じでしょうか?ある暗号資産(例えばBitcoin)を別の暗号資産(ETH)に送金するには、いっぺん日本円などの法定通貨に換金するか、取引所などで何らかの橋渡し役となる暗号資産を経由するなどの方法を用いて、送金先の暗号資産に変換する必要があります。複数の暗号資産が流通し、中央銀行デジタル通貨も世界的に展開され始めているなか、異なるブロックチェーン暗号資産同士をつなぐ技術であるインターオペラビリティ(相互運用性)が注目されています。
ブロックチェーンのインターオペラビリティの研究開発に取り組むDatachainの石川大紀さん、NTTデータでブロックチェーンを推進する世取山進二さんが、ブロックチェーンの課題と、インターオペラビリティについて対談しました。

(図表1)時価総額上位の暗号資産

暗号資産のインターオペラビリティ

── ビットコイン、イーサリアムなど暗号資産が頻繁にニュースのトピックになっています。その根幹となるブロックチェーン技術を扱うDatachainさんの事業内容と、石川さんのご経歴や現在のお仕事についてお聞かせください。

石川さん Datachainでは、ブロックチェーンを用いたサービスが商用化された未来を見据え、さまざまなブロックチェーンや既存のシステムが相互に連携可能な世界の実現を目指し、研究開発やパートナー企業様とのプロジェクトに取り組んでいます。具体的には、「YUI」というブロックチェーンのインターオペラビリティを実現するためのソリューション群をOSSとして提供しており、それを元にパートナー企業様との協力させていただきながら、そのような技術を用いたサービスの商用化を推進しています。

(図表2)Hyperledger Lab YUIの構成要素

私自身は、マーケターとしてインターネット広告代理店に従事した後、インドネシアのジャカルタで広告事業の立ち上げをバイスプレジデントとして経験しています。そして、2016年にビットコインに出会い、イーサリアムも含め暗号資産を実現するブロックチェーンに大きな期待を抱きました。まるで2000年代初めにインターネットという新たな技術がマーケットを急激に変化させ、新たな産業を創っていったような雰囲気をブロックチェーンにも感じ、そのときにDatachainと出会い現在に至ります。

── 暗号資産に利用されているブロックチェーンのインターオペラビリティが注目されるようになった経緯について、ご意見をお聞かせください。

世取山さん 現在では暗号資産も一般的になりつつあり、ブロックチェーンを使ったサービスが提供され始めています。ビットコインなどの暗号資産は、発行主体や中央管理者は存在せず、ブロックチェーンを利用し分散的に管理されています。また、メディアでもよく目にするようになったNFT(※)などもブロックチェーンを利用したサービスです。

高い改ざん耐性とデータ共有によって取引の透明性確保がブロックチェーンの役割ですが、サービスごとに実装されるブロックチェーンが異なっているため直接連携できないことがあります。複数のシステムが連携してより良いサービスが提供できるようにインターオペラビリティ(相互運用性)の実現が望まれています。

(※)NFT:Non-Fungible Tokenの略。資産のコピーが可能であるデジタル空間においても、ブロックチェーンにより唯一無二のデジタルアイテム(品物)を担保することができ、希少性による価値を保つことができる。デジタルアート作品、ゲームアイテムなどが代表的な利用例。

石川さん ブロックチェーンの世界では、ビットコインやイーサリアムといった巨大なネットワーク内ですべての取引が完結する世界が想定されている時代もありました。しかし、現状どのようになっているかというと、ブロックチェーン基盤の種類だけでも数十以上ありますし、エンタープライズが利用するブロックチェーンでは、同じブロックチェーン基盤を用いていても、それぞれのコンソーシアムごとに別々のネットワークが構築されています。

これは、それぞれのシステムに求められる技術要件や規制の違いなどを考えると、自然な流れです。このように世の中に複数のブロックチェーンが存在するようになった際に、世取山さんがおっしゃるように、複数のブロックチェーンを相互に連携するインターオペラビリティへの注目が高まってきたというわけです。

── インターオペラビリティと言うと難しく聞こえますが、身近なものでは鉄道の相互乗り入れに近いイメージかもしれませんね。線路の幅やICカード乗車券などの規格が揃っているので、鉄道会社が違っても電車を乗り換えることなく便利に使うことができています。ブロックチェーンを使ったサービスが増えるなか、インターオペラビリティについてどのような課題があるとお考えでしょうか。

インターオペラビリティの現状と課題

世取山さん ブロックチェーンのインターオペラビリティは重要と言われてきましたが、技術的な難しさから、方向性や規格の議論が優先され、実装されてきませんでした。実際にインターオペラビリティに取り組んだプロジェクトが何度か出てきましたが、上手く進んでいるプロジェクトは少ないです。そのなかで、最近やっと有望だなと思う標準規格が出てきて、Datachainさんが率先して規格に基づいた実装である「YUI」をOSSで開発しています。

石川さん ブロックチェーンが登場して10年以上が経っています。Datachainはブロックチェーンのインターオペラビリティ技術の研究開発に関しては、NTTデータさんやJCBさんと共同のプロジェクト実績もあるように、少なくとも国内においては先行しているという自負があります。

しかし、このインターオペラビリティの規格と実装に多くのブロックチェーン事業者などが乗ってきてくれるかどうかは課題だと認識しています。規格が乱立するとサービスを提供する企業にとっては不便な状態になります。私たちが行っているのは、まずインターオペラビリティ実装のための基盤を整備し、その上にビジネスを作るという2ステップを経ることになるため、とてもチャレンジングな課題です。

そのため、他のブロックチェーン企業とも競争ではなく、まずは共創して下地をともに整えていくことを目指しています。

世取山さん 現在の法定通貨を使用した金融取引では、銀行間で送金処理や決済取引をする場合、銀行間の処理で同期が取れないということはあり得ません。それは日銀ネットや全銀システム、SWIFTなど既存の金融システムによって銀行間の資金移動や決済取引が整備されており、中央の管理主体が取引の整合性を担保することで実現しています。ブロックチェーンを使った暗号資産には中央の管理主体が存在しませんが、その課題の解決に取り組んでいるのがDatachainさんです。

石川さん ブロックチェーンの世界では、中央の管理主体の信頼に依存せずともブロックチェーン上に記録された取引の正当性が保証されることが重要ですが、ブロックチェーンのインターオペラビリティを実現する上でも同様のことが言えます。

(図表3)DatachainとNTTデータが2021年3月に発表した実証実験の概要図。Relayerはデータの中継のみを行い、データの検証はお互いのブロックチェーン同士で行う仕組み。

中央の管理主体に信頼を置いて取引を実行すると、その中央管理主体の構築や運用には既存システムと同等レベルの膨大なコストがかかります。Datachainが開発を進めているインターオペラビリティの仕組みでは、中央管理者の信頼に依存せずに取引を行うことができるため、コストは比較的抑えることができると考えています。

── 現在の通貨では日銀、全銀での協議により金融機関間での取引の管理ができていますが、それと同等のことをブロックチェーンのインターオペラビリティで実施しているのですね。

世取山さん ブロックチェーンのインターオペラビリティには中央の管理主体や仲介者は不要で、ブロックチェーン間で信頼できる仕掛けを作ることが理想的です。Datachainさんがこの大きな課題に早い段階から気づかれていたことは、素晴らしいことだと思います。NTTデータは社会インフラを作るという使命のもと、暗号資産が普及した世界でも安心、安全な決済基盤を提供するためにDatachainさんと協働しています。

石川さん インターオペラビリティは数年前から課題として認識され、解決方法や標準規格が議論されておりましたが、ブロックチェーンの特性を活かした特定の管理主体に依存しない実装方法は技術的難易度が高い状態にあったと言えます。しかし、Datachainでは、インターオペラビティに注力する意思決定を行い、技術難易度を克服し実装に至っております。

世取山さん 現在Datachainさんが実装しているインターオペラビリティ技術を、金融システムの構築実績があるNTTデータ目線で評価して社会実装につなげる取り組みを行っています。

石川さん Datachainのようなインターオペラビリティの実装は、世界的に見ても新規性が高く、実現できている企業は非常に限定的です。私たちは、NTTデータさんとも連携させていただくことで、インターオペラビリティ技術の品質を高め、世界に先駆けての商用化を実現することを狙っています。

インターオペラビリティを実装したサービスの商用化においては、現行の金融システムクラスの堅牢性を実現する必要があるため、NTTデータさんによる品質の確認は必要不可欠であり、共同プロジェクトを実施させていただいている価値を感じています。

インターオペラビリティが作る社会像

── ブロックチェーンのインターオペラビリティが実現されると、どのような世の中になるとお考えですか。

世取山さん 複数のサービスをつないだ決済ができるようになります。NFTのようなデジタル資産がさらに普及したときに、暗号資産の決済がスムーズにできるような社会基盤を作りたいと考えています。

── 最近ではNFTや暗号資産など著名な作家やタレントのサインなどデジタルデータが唯一無二だと証明するためにブロックチェーンが利用され、多くの資産がデジタルでの取引される動きがあります。

世取山さん これまでは無料で流通していた電子データや、イベントや実世界で行ってきたことなど、 さまざまな“もの”や“こと”に価値が付くようになってきました。例えば、アメリカのNBA(プロバスケットボール)では、選手のプレイシーンをデジタル上でカード化してネットワーク上で取引を行ったりすることや、プロサッカーチームがコロナ禍での減収を補うためにクラウドファンディングでファントークンを発行し、応援することに価値をつけています。

ブロックチェーンで唯一無二の価値をつけてNFT化することでグッズなどを販売することはすでに活用が広がっています。Twitter社の創業者ジャック・ドーシー氏が自身の初TweetをNFTとしてオークションサイトに出品し、3億円を超える高額で落札されたというニュースもありました。こうしたNFTの売買が円やドルなどの法定通貨だけではなく、暗号資産で交換できるようになると、より便利になると思っています。

今回の対談では、暗号資産やNFTに利用されるブロックチェーンのインターオペラビリティの現状、課題、今後の発展などについて、お話しいただきました。個人も企業も暗号資産を利用した権利のやり取りが始まりつつあります。暗号資産の種類を問わず利用可能にするブロックチェーンのインターオペラビリティの躍進が予見されます。個人が暗号資産を使い、ブロックチェーンで信頼性が担保された企業の特定の活動に投資することもあるかもしれません。

情報システムは集中と分散を繰り返し発展しています。計算機の共同利用から、クライアント-サーバーシステムから、クラウド、エッジコンピューティング、ブロックチェーンなどの集中化と分散化が混ざり合い、スケーラビリティやリアルタイム性を持った情報システムが世界を一層発展させていくことが期待されます。

<執筆者:神戸 雅一>

<プロフィール>

石川 大紀 さん
株式会社Datachain
株式会社サイバーエージェント広告事業本部局長、同社合弁会社取締役、インドネシア広告事業会社バイスプレジデントを経て、Datachainに参画。営業責任者として営業全般に携わる。
(株式会社Datachain)https://ja.datachain.jp/

世取山 進二 さん
株式会社NTTデータ
日本銀行基幹システムをはじめとした金融大規模案件のソフトウェアアーキテクトとして従事したのち、2015年よりブロックチェーンチームに参画し、貿易文書の電子化を実現する貿易プラットフォームTradeWaltzの開発を主導。ASEAN諸国との貿易プラットフォーム連携の他、企業・官公庁向けのブロックチェーンコンサルなど、NTTデータのブロックチェーン領域責任者として活躍中。

※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
※感染防止対策を講じた上で取材を行っています。

企業の研究開発部門で、ナレッジマネジメント、Web系アプリケーションの研究開発に従事。事業部門で、業務プロセスの分析と業務設計を行い、事務の集中化やヘルプデスクの安定運用のための機械学習の適用などを経験。現在は金融分野における機械学習の応用を目的とし、自然言語処理、説明可能性、AIの公平性、異常検知などの調査、ユースケースの検討に従事。

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