実践に学ぶ
先進的な金融ビジネスの企画者が出会った新規ビジネス創出手法 ~FORTH INNOVATION METHODワークショップをやってみた~
「よいアイデアが生まれているのに事業化に結び付かない、なんとかできないか?」
「どこから初めてどこへ向かえばよいのかわからない。よい方法はないのか?」
先進的な金融ビジネスを次々に生み出しているNTTデータの金融GITS事業部も、そんな悩みを抱えていました。そこへ出会ったFORTH INNOVATION METHOD。そこには上司を巻き込み、アイデアを具体的に実現させてゆく実践的な進め方がありました。ワークショップ参加者の驚きをFORTH公認ファシリテーターの横山智恵さんが解説してくれます。
ビジネスコンテストでよいアイデアが出るのに事業化に結び付かない!
横山さん 皆さんは、新規ビジネス創出体験研修を受講されたわけですが、そのきっかけから始めさせてください。なぜ組織として研修を受講されたのでしょう?なにか研修前に感じていた課題はありましたか?
渡辺さん 我々の事業部では年に1~2回のビジネスコンテストを開いているのですが、なかなか事業化までたどり着けないという課題を持っていました。
具体的な例ですとお悔やみポータルという、資産を保有する本人が他界した際に課題となる相続を、一気通貫にデジタルで解決するというアイデアを銀行担当の方が考えて、具体化に向けてお客様ディスカッションまでたどりついています。
ですが、多くの場合はアイデアを出して形にするまでの紆余曲折が多く、ビジネスの種としては良さそうに見えるのにうまく進んでいかない、というアイデアをもう一歩先に進められない課題を持っていました。
ビジネスコンテストでは、大半のチームはメンバーが集まるとまずブレストから始めます。基本的に決められた進め方はないので、過去の事例に倣って検討項目を洗い出し、アイデアを育てていきます。
この進め方だと集まったメンバーのスキルへの依存度が高く、アイデア自体の内容もさることながらプレゼン資料、動画など見せ方の工夫にリソースをかなり取られている印象でした。
当然ながら選出されたメンバーは現業と並行して参加しているので忙しい中でビジコンに時間を割いていて、検討を進める上でのスキルや知識があればもっとリソースを有効活用できたのではないか、という印象がありました。
実は、私自身も過去に社外の人たちとチームを組んでプロダクトを実際に作る研修を受けた経験がありました。今回の研修の話が出た時に、ビジネス創出をチームとして進めていくにはこうした研修をチームで受けることが大事だと思いまして、当時の研修を企画されていた社内の部署が現在主催している研修を推薦しました。
横山さん なるほど。必ずしもFORTHを意識されていたわけではないけれど、感じていた課題の解決につながりそうだったのが選んだ理由なのですね。
ビジネス創出の進め方に正解はない?手探りで進めたビジネスコンテスト
横山さん 実際にビジネスコンテストに参加されていたお二人は、いかがでしたか?検討を進めていく過程で、よくわからないことや、大変だったことはありましたか?
真壁さん そうですね。ビジネスコンテストっていう山をどうやって登っていけばよいのかは誰も教えてくれません。取り敢えずアイデア出してみようか?そこから始めるのですが、一つ光るアイデアがあったからそこに向かって船出したら沈没してしまった…
よくある失敗談なのかもしれませんが、自分達で調べていくしかありませんでした。それが不安だったこともあり、定期的に上司にレポートしてアドバイスをいただいていました。
一番苦労したのはアイデアの具体化でした。どうやったら現実につかってもらえるのか、誰がお金を払ってくれるのか? どうなれば成功といえるのか? 具体的なビジネスに落とし込むところに一番苦労しました。そこで詰まってしまってゼロからやり直したということもありました。
事前にやり方が分かっていれば、より効率的にアイデアも出せただろうし、具体化にも最短ルートでつながったのではないか? 今振り返るとそう思います。
根岸さん 私は過去のお客様に提供したサービスを、別のお客様の課題に即して新しいサービスにしたり、事業部のABLERというブランドに合わせて、いろんなサービスを創ったりする企画の仕事をしています。
佐藤さんの一口解説
最近ChatGPTが話題になっていますが、こうした非構造化データに着目して、データをビジネスに活用していくブランドとして
ABLERを展開しています。
最近では当たり前になってきていますが、いわゆるクラウド、Agile、AI、そういったデジタル技術を活用する案件を手掛けることが多く、金融分野の中では比較的先進的なことをやっている事業部だと自負しています。
根岸さん ビジコンでは普段の仕事に留まらず、もう少し広げた自由な発想ができます。新しいアイデアを一生懸命考え、どう評価して、どう収束させるのか議論する中で、また別のアイデアがでたりします。一つのアイデアを進めたら、他のアイデアは捨てないといけない難しさもありました。アイディエーションには一番難しさを感じていました。
方法論やツールもビジコンでは参考としていろいろと提示はされますが、使うかどうかは参加者に任されていて、ツールは使っても、使わなくてもいい。
終わってしまうと、振り返ることもなく、ビジコンの度に、いちから初めているところに、何度も参加した身として疑問も感じていました。
渡辺さん 今回の研修自体は結果的に前回のビジコンの後付けになりましたが、この数年でビジコンにでたメンバーも振り返りを含めて受講して欲しいという意図がありました。
真壁さん ビジコンをよりよくするために、という趣旨もあったので、足りなかったノウハウや考え方を研修で学んでこよう、というミッションをもって参加させていただきました。
もちろん、普段の仕事にもCxCとかもあるので、そちらにも役に立つものがあれば持ち帰って実践したいという想いもありました。
佐藤さんの一口解説
最近の日本の金融業界ではGAFAといったプラットフォーマーが決済等の金融サービスに参入、Embedded Financeといった新しい競争も激化してきています。この競争相手は、何百万というユーザーが毎日つかうSNSや、日々の消費材を買うお店といった顧客との接点が非常に強い。これまでの金融事業のやり方では、どうしてもエンドユーザとの接点が遠くなり、徐々に分が悪くなっている課題があります。
そこでエンドユーザとのタッチポイントをデジタルでもっと大事に考えよう。そのエンドユーザとは我々のお客様である金融機関の向こうにいるわけですから、Customer experience across(x) ClientsでCxC(シー・バイ・シー)こう名付けて活動をしています。
根岸さん ビジコンでは何が一番よい進め方なのかわからないままやっていたので、道程になりそう! と思って参加しました。
驚きだったFORTH研修 認定ファシリテーターが一つ一つ解説
横山さん 研修を企画した渡辺さん、事業部のミッションをリードする佐藤さん、参加された真壁さん、根岸さん。みなさんがそれぞれ事前に感じていた課題についてこれまでお聞きしてきましたが、さて皆さん研修はいかがでしたか?
真壁さん 宣誓には感動しました。アナログですが、自筆でサインするって大切だなと。沈没の話をしましたが、そんな時に、最初はみんなこう考えていた、という戻るべき柱になるし、オーナーとして当事者意識をもてる。そこがすごく印象に残っています。
根岸さん みんなから200個のアイデアがでたのが衝撃的でした。みんなで付箋紙書いておわり?とおもったら、まだまだありました。
こういう角度からみましょう、こういう考え方を入れてみましょう。こことここのアイデアを融合させたらどうなりますか? と数時間ですよ!?ビシビシやられて(一同笑)
ビジコンでアイディエーションが難しいと感じていた根岸さん
渡辺さん 付箋紙は大事に全部持って帰ってきました。
でも普通はなんかアイデアあります?って始めると、みんな遠慮してシーン。
アイデア出した人の意見に引きずられて、それでいきましょう(一同頷く)
となりがちですが、いきなり黙ってもくもくと付箋紙に書き始めたのは印象的でした。
横山さん アイデアといってもその粒度が良く問題になります。FORTH INNOVATION METHODでは、付箋紙1枚をアイデアと明確に定義しているのも特徴です。
ビジコンでやるぞーとなったら皆さんどこから始めるか?普通は、いきなりアイデア出しから始めますが、お二人が感じていたように、議論を進める中で、堂々巡りしてしまいどこに戻ればいいのかわからない、なにを目指していたのだろう?となりがちです。
そこで、FORTH INNOVATION METHODの中でひとつすごく大事にしているのが、最初にやるFULL STEAM AHEAD(注1)になります。
創出する事業の責任者も最初から当事者となる仕組み
さっき真壁さんがおっしゃっていた宣誓は、「イノベーションの使命」という成果物ドキュメントのことですね。
なぜ私たちはイノベーションを起こしたいのか?ここでの「イノベーション」とは最終的に何なのか?ビジネスモデルだったり、プロダクトやサービスだったり、いろいろですが、キッチリ決めます。
皆さんのビジコンの場合は、ビジネスモデルです。ビジネス創出のプロセスなので、ビジネスを考える上での制約事項とか目指すマーケットはどこなのか?日本なのかグローバルなのか?いつまでにいくら売上をあげたいのか?狙う顧客は誰か?目指すターゲットはどこか?最初に目的とか、目指す先をきっちり書きます。
ビジコンの主催者、プロジェクトオーナーは事業部長ですよね?事業部長とビジコン参加者が全員サインする。これが最初のハイライトになっています。
「オーナーという当事者意識をもてる」とおっしゃっていましたが、ビジコンだと最後に1位のビジネスモデルに対して事業部長が総評を述べる、という流れかと思いますが、最初にサインした事業部長にとっても我が子ですから、どのアイデアでいくのか?どう深めていくのか?その判断にもチームの一員として要所で一緒に進めていく流れになっているのが、FORTH INNOVATION METHODの特徴です。
横山さんがファシリテーター認定研修で実際に書いたサイン
渡辺さん これ次回のビジコンで事業部長のサインが入ってなかったら、今回受講したメンバーに「事業部長のサインがありませんが、研修ちゃんとうけましたか?」とつっこまれそうですね。
アイデアはOur Baby
横山さん 根岸さんからアイディエーションの難しさの話がありましたが、FORTH INNOVATION METHODではそこも良く考えられています。
最終的に5個のアイデアを出すとします。全員がペアになり、そのペアも組み替えながら検討を進めていきます。その間に全員が5個のアイデアに少しずつ関わっていけるので、自分のアイデアは、自然と他のアイデアに残っていきます。
研修では先生がOur Baby(注2)とおっしゃっていましたが、アイデアをみんなの子供として大事に育てていく仕掛けが随所に入っています。
アイデアが枯渇する、という話もありました。ゼロからアイデアを出すのは、難しいので、OBSERVE & LEARN、観察と学びという調査のステップがあります。外部環境やベストプラクティスはもちろん、エンドユーザが持つ不満や悩みをFRICTIONSと定義して、こうしたリサーチに実は一番時間をかけます。
RAISE IDEAのステップでは、何百個もアイデアを出し、最後に5個まで絞っていく、そのやり方もシステマチックです。
最後の収束させるステップでは、アイデアをコンセプトにまとめて評価します。最初のイノベーションの使命で作った項目に沿って、定量評価、定性的コメントや改良を加えます。もしこれがあったら自分が使いたいか?そんなエモーショナルな側面も大事に評価します。
最後にビジネスケースに落とし込むフォーマットもあるので、始める時に、どこを目指せばいいのか形があるのは一つ安心して進められるポイントでもあるかと思います。
次は自信と安心をもって新規ビジネス創出ができそうです
横山さん いかがでしたか?これからの役に立ちそうでしょうか?
真壁さん ビジネス創出って特別なイメージがあるんですけど、ちゃんと地図があって船出に例えて工程が示されると身近に感じられるし、進め方が間違っていないとわかります。
事前の観察と学びに最も時間をかけている重要性も実感しました。今後の仕事に活かしていけると思います。
根岸さん いろんな要素が使えると思います。見える形でみんなが共有していけるので、使っていきたいですね。
渡辺さん ビジネス創出に必要な知識として確実に必要なことが実証されたかと思います。ビジネスコンテストのオーナー側としても何を示さないといけないかも学びました。事業部長とも相談しながらやっていきたいと思います。
佐藤さん 具体的なサービスアイデアとロードマップをお客様と描くためにもこのワークショップは使えそうだし、お客様の期待に応えることに繋がっていくかと思います。
横山さん これからに活かしていける実感をもっていただけたようでよかったです。本日はどうもありがとうございました。
(注1)FORTH INNOVATION METHODの5つのSTEP全部の解説はこちらの記事をご覧ください。
(注2)なぜOur Babyとして育てるのか?本稿では取り上げきれなかったアイデア創出の秘訣はこちらの記事をご覧ください
この対談のすぐ翌日には渡辺さんから、次回のビジネスコンテストに「イノベーションの使命」の策定をやりましょう!と、事業部長に提案し、快く了承をもらった、という嬉しそうなチャットが届きました。
オクトノットでもこれまで新規ビジネスに関する記事をいくつか手掛けてきましたが、日本語では「根回し」と言われるような、組織の力学まで体系化され、くみこまれている手法はなかなか見当たりません。
新規ビジネス創出を手掛けている読者の皆さんの参考になれば幸いです。