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挑戦者と語る

AIの最前線!プロが語る最新トレンドや活用のポイント!

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今後AI技術は飛躍的に発展していき、2029年にはAIが人間並みの知能を備え、2045年にはその知能が人間を超える、いわゆる技術的特異点(シンギュラリティ)が起きると言われています。近年は特にディープラーニングや機械学習の研究が進み、注目度が飛躍的に上がりました。さまざまな角度からAIのビジネスバリューが期待されている今、AIの導入が進み、企業の業務のあり方が大きく変わりつつあります。金融機関においても、データ利用・AI活用の試行錯誤を重ねているかと思いますが、一方で、なかなか上手く進まないケースもあるのではないでしょうか。そこで今回は、AIを活用したITサービス・コンサルに取り組むエーアイスクエアの堀さん、DXやSDGsに対する企業のデータ利活用を支援するフライウィールの横山さん、機械学習やディープラーニングを活用したAIプロダクトを提供しているシナモンの新井さんをお招きし、AIの最新トレンドやユースケース、活用のポイントなどを中心に語ってもらいました。

本記事はNTTデータが運営する「API gallery」プレゼンツで2022年3月17日に開催したウェビナー「API gallery Meet UP ~ Vol.4 “AI活用の最新トレンド”」の内容を記事化したものです。
API galleryでは随時ウェビナーを開催中です!過去の企画、および今後の開催予定については以下のリンクをご覧下さい!

AI活用に関する現状・トレンドは?

青柳さん 本日のテーマのAIですが、近年は特にディープラーニングや機械学習の研究が進み、注目度が飛躍的に上がりました。AI活用の観点でいうと、予測、分析、判断、対話、識別といった区分がされており、技術的には、数値統計の分析、画像の認識、音声認識、自然言語処理・最適化といった活用方法があるとされています。まず、AI活用の最新のトレンドなどについて教えてください。

堀さん そうですね。言語処理系のAIの技術の発展は目覚ましく、チャットボットやコールセンターのオペレーター支援などで多く活用されています。他にも、テキスト要約や、テキストの内容を踏まえた自動分類、重要部分の抽出・タグ付けでも使われていますし、感情解析とかキーワード抽出というテクノロジーもありますね。音声認識で会話をテキスト化のうえ解析・分析する動きもあります。

横山さん データ活用の面で世界に後れをとっているのは、日本企業の課題だと思います。金融業界は特に顕著だと感じており、AIなどのテクノロジーでそのような課題を解決していきたいですね。色々なデータを活用し、データドリブンに意思決定を行うことが重要です。事業部別にデータベースを別々に保持しているケースも多いですが、理想の姿は、事業部横断でデータの収集および整備をしてビジネス全体で活用できる状況です。日本でも銀行業務に関する規制緩和の動きがあって、さまざまな業務で収集したデータについて、例えば、広告事業での活用が進んでいくと思われます。また、データ活用では分析・可視化・予測が目的ですが、実運用に落とすための社内部署間におけるデータの連携も重要ですね。

新井さん 特に音声や自然言語などの非構造化データといった領域や、属人化しがちな領域を中心に、戦略的なAI活動を支援する動きが見られます。例えば、AI-OCRの領域では、非定型文書に対応したソリューションも出てきており、決算書などの標記揺れもしっかり認識できたりします。音声認識では、話者の区別や、会議における決定者、To doの可視化も取り組まれていたりしますし、自然言語処理の領域では、QA生成や会話傾向の分析など色々な取組みがあります。またコールセンターでの活用では、事務的な問合せなのかクレームなのかといったことを、経営層の方などが確認しやすくする観点で、タグ付けや分析を行っていたりもしますね。

青柳さん ありがとうございます。AI活用における一番の肝は、どのようにAIに学習させるかという論点ですよね。以前は「AIが人間の仕事を奪う」という論調もありましたが、実際のところ、AIと人間の仕事は共存する部分が多く、人間の仕事を楽にしてくれるという考え方が適切だと思います。当然AIにも得意なこと・不得意なことはあるので、どのようにユースケースに落とし込み、活用していくかがポイントになってきますね。

AI活用による顧客体験向上のユースケースやポイントは?

青柳さん 効率化にとどまらず、顧客体験向上の観点でのAI活用の可能性や事例があれば教えてください。金融機関においても顧客体験向上のための取組みも色々されていますが、決め手を欠いているような印象があります。

堀さん 先ほどは一般的な活用方法について述べましたが、業界ごとの事例でいうと、製造業の領域では、不具合やクレームの情報を蓄積・分析をして製品開発に活用するとか、あるいは難易度は高いものの議事録を要約したいといったニーズは根強くあります。そのほか、電子機器の故障対応では、故障対応履歴からナレッジを抽出し、現場に還元することで、エンジニアが往訪すべきかどうかの切り分けができるようになりました。金融の領域では、保険会社の事故受付窓口での対話のAI要約などの事例もあります。

横山さん 金融機関のケースだと、窓口での手続きがオンラインやアプリでも利用できるというのを、利用者が知らないことが意外とあります。このような場合では、データを通じてオンライン手続きをしたことがない人を特定し、一人ひとりにフィットした情報提供を通じて、デジタル媒体の利用を促進しています。その結果、店舗の窓口業務の負荷を減らすこともできるし、顧客利便性の向上にも繋がります。また金融商品にはさまざまなものが存在するので、それぞれの顧客に合った商品をパーソナライズして提案していくのも、一つの方法だと思います。

青柳さん そうですね。多くの金融機関が金融商品をどうやって顧客に勧めていくか悩んでいると思いますが、そこからさらに非金融の領域に入りつつ顧客体験を向上させていくことを考えている金融機関も多いと思います。金融商品の販売以外の顧客体験の向上という意味では、どのようなアプローチが考えられるのでしょうか。

横山さん 銀行などでは、例えば、地方企業とスタートアップ企業をマッチングさせることを通じて付加価値を提供するといった取組みもしていますよね。どのようなソリューションを持ったスタートアップ企業と連携すると上手くいくかといった点を、データから分析するのも良い取組みだと思います。

青柳さん データという観点だと、例えばオルタナティブデータ(※)のように、金融業界で入手が難しいデータについても、金融機関が自ら集めていく必要があるのでしょうか。

(※)オルタナティブデータ:企業の財務情報やマクロな経済統計などのトラディショナルデータに対して、生活環境のデジタル化により利用可能となった新たなデータのことを指す。
横山さん 金融機関としては、個人情報保護に配慮するのは大前提で、非常に重要かつユニークなデータを活用できる可能性があります。一方で、不足している種類のデータも一定程度ありますよね。昨今は、他企業とのデータ連携の議論も進んでいますし、業界の垣根を越えてデータを重ね合わせ、統計的に示唆を出す動きも少しずつ出てきています。将来的には、すべてのデータを自社で集める必要はなくなると思いますし、実際にそういった実証実験なども実施されています。インフラ企業と連携するのも考えられますし、戦略的に提携しているパートナー企業との間でのデータ連携も、今後進んでいくのではないでしょうか。

AI活用におけるハードルとその解決方法は?

青柳さん ユースケースについて教えていただきましたが、他方でAI導入にはハードルもあると思います。一番のハードルは何でしょうか。

新井さん AIにおけるルール設定ですね。重要かつ時間がかかる部分だと思います。例えばフリーテキストから種類を分類するAI-OCRでは、文章がクレームかどうかの一律な判断ができるか、などの難しさがあります。

堀さん 入出力のルールが明確になっているとAIは力を発揮できます。逆に、そのルールが明確でないケースでは、AIのタスク設定が困難となり、評価が定性的となりブレてしまいます。そうなるとプロジェクトもなかなか上手くいきません。

横山さん 実運用に落とす段階でハードルを感じることはありますね。例えば小売業では、若いバイヤーはAIツールを使ってみたいと思う一方で、ベテランのバイヤーは経験豊富であるがゆえに、「AIよりも自分の方が分かっているので不要」と考えがちです。経営層としてはクオリティを均一にしたいと考えることが多く悩ましい論点です。そういう意味では、最終的には人間が決定権を持つ一方で、意思決定をデータドリブンにサポートできるようなソリューションを提供することも課題解決になると思います。

青柳さん ベテランと新人でAI活用の意味合いが異なるというのはたしかにそうですね。他方で、新人がAI活用で能力拡張できて、ベテランに近い働きができるようになれば、それは有効な活用方法ですよね。

組織におけるデータの在り方という観点では、横断的にデータ活用するために、横断的にデータマネジメントするのが理想的だと思いますが、一方で、縦割の組織構造で一気に変えていくのは難しいと感じます。まずは何から着手するのがよいのでしょうか。

堀さん 難しいですね。縦割の組織にいきなり横串を刺して頑張ろうとすると、調整に苦労して頓挫してしまう可能性があります。それよりも、少しずつ成功体験を作るために、まずは社内的に影響力がありそうな部署から徐々に巻き込んでいくことにフォーカスすると、社内でもだんだんと認知されてくると思います。また、プロジェクトの体制という観点では、少しでもAIや技術に知見・知識のある方がいてくれると、現場とベンダーのコミュニケーションもスムーズに進みますね。

新井さん そういう意味では、組織に横串を通そうとした時に、社内の他部門からすると唐突感を感じることもあるかと思います。そこで、企業のデータ利活用に実践的かつ幅広く取り組んできた経験のある我々のような企業がサポートして、組織全体を推進することができればと思っています。また、データマネジメントやDX促進は、経営層が課題として挙げることが多いですが、現場からボトムアップでニーズを上げていくのが成功への手がかりだと思っています。

今後の展望

青柳さん さまざまなユースケースをご紹介いただき、色々なバリエーションがあるのだなと実感しました。そんな中で、「2022年はこれが来る!」というテーマはありますか。

横山さん 多くの企業と会話している中で今後伸びてくると思ったのは、パーソナライゼーションの領域ですね。その意味では、顧客を理解したうえで顧客体験を向上させていくのは重要ですし、それと併せて、データを取り扱う際の安全性・拡張性なども求められてくると思います。

堀さん 顧客接点でいうと、AIチャットボットやコールセンターのオペレーター支援はすでにやり切った感じもあって、今後は、顧客の声をいかにナレッジ化して現場に還元していくかという課題に向き合っていくことになると思います。そこに音声認識などのテクノロジーを上手く絡めて課題解決するような取組みが増えていくのではないでしょうか。

新井さん そうですね。例えば対面営業を標準化できないかという取組みは今後ますます増えていくと思います。それには、リスク管理の観点で営業日報をチェックするだけではなく、顧客との会話を分類することが有用です。どのような会話が売上に繋がっているのかとか、QAが多いトピックは何かとか、商品説明を一方的にしてしまってないかとかといった観点ですね。

青柳さん 顧客理解という意味では、今後金融機関では、まずどのようなことから始めるのがよいのでしょうか。

横山さん 企業ごとに事情は異なるとは思いますが、まずマーケティングの領域から取り組むことで顧客を理解するのが一つの方法ではないでしょうか。それを軸に、クレジットスコアリングや、窓口業務のオンライン化など、次の展開に繋げていくことが考えられます。

青柳さん なるほど、よくわかりました。ありがとうございます。最後に皆様から、さらなる将来展望を教えてください。

堀さん 現在は顧客接点やコールセンター系の取組みが多いですが、今後は、対話の要約とか自動分類あるいはナレッジ抽出が軸になってくると思います。あとは、言語処理の分野も技術的に今後まだまだ伸びていくでしょうね。最近だとBERTやGPTといったモデルなど、Wikipediaなどの世の中の大量に存在するテキストデータをそのまま学習データとして使う手法も出てきています。そのような新しい技術も積極的に活用して業務改革がされていくのではないかと思います。

横山さん インフラや技術面の進化に加えて、データ活用がしやすい環境になってきており、企業間あるいは業種間でのデータ連携には非常に注目しています。金融業界で入手が難しいデータに関する悩みを他社と共有することも考えられますね。そういう意味では、NTTデータのAPIギャラリーの取組みについても、重要性がより増してくるのではないでしょうか。

新井さん AI活用やDX促進で重要なのは、売上向上とコスト低減の2つの軸だと思います。コスト低減についてはある程度事例があり、より精度を上げて人手を減らすことでさらなる効率化を図っていくのだと思います。一方で、AI活用による売上向上については、国内ではまだ事例が少なく、今後模索されていくことが期待されますね。
<プロフィール>

堀 友彦 さん

株式会社エーアイスクエア 執行役員
NTTデータでCRMソフトウェアの企画・開発、RPA導入コンサルに従事した後、2018年エーアイスクエアに参画。
営業責任者としての役割に加え、AIシステムの導入におけるプロジェクトマネジメントや検証・定着支援・精度向上に向けたコンサルティングも担当。
エーアイスクエア(https://www.ai2-jp.com
寄稿記事「自然言語処理を学ぶ - 最先端トレンドと金融領域での適用可能性」(https://8knot.nttdata.com/trend/6293291

横山 直人 さん
株式会社フライウィール 代表取締役
Facebook Japanにて新規事業開発、及びパートナーシップ事業の執行役員。それ以前は、Google Japanでエンタープライズ事業の立ち上げ、モバイル検索/広告のパートナーシップ、Androidビジネス開発責任者を担当。NTTドコモで海外i-mode事業に従事。立教大学卒業、ニューヨーク大学大学院修了。専攻はComputer Art。
フライウィール(https://www.flywheel.jp/

新井 恒希 さん
株式会社シナモン Business Development Manager
商社系SIerに入社後、大手金融機関を担当。システム開発、セキュリティ製品など様々なソリューションを取り扱う。2018年からは国内シェア1位のソフトウェアベンダーにハイタッチ営業として入社。金融機関を担当し、入社1年目で社長賞受賞。また、営業だけでなくマーケティング活動など幅広い業務に従事。現在、シナモンでは事業開発マネージャーとして損害保険や銀行、リースなど金融機関のお客様へのAI導入を支援。
シナモン(https://cinnamon.ai/

青柳 雄一 さん
株式会社NTTデータ バンキング統括本部 OSA推進室 部長
入社以来、数多くの金融系新規サービス立ち上げに従事。2015年からはオープンイノベーション事業にも携わり、FinTechへの取り組みを通じて、複数の金融機関のデジタル変革活動を推進。NTTデータのデジタル組織立ち上げ、デジタル人財戦略策定/育成施策も実行。現在は当社金融分野の新デジタル戦略、外部連携戦略策定・実行にも従事。2021年10月にリリースした金融APIマーケットプレイス「API gallery」の推進をリード。
API Gallery(https://api-gallery.com/
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
※感染防止対策を講じた上で取材を行っています。

新卒で銀行の業界団体に入職。金融機関や他業界団体等との折衝・調整に携わり、具体的には資金決済インフラや為替取引の制度運営に関する業務に従事した後、金利指標改革や市場規制の案件に関する業務等を幅広く経験。
その過程で、金融分野におけるNTTデータの影響力の大きさを実感したこと、社会を支える重要インフラを提供している点に魅力を感じたこと等をきっかけに、NTTデータへ中途入社。
現在は、金融業界のトレンドを、IT技術やビジネス、社会課題といった様々な切り口で調査・整理し発信する「金融版NTT DATA Technology Foresight」の取組み等に携わる。

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