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コラム

キャッシュレス決済の現状 拡大から定着に向けて

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2021年現在、キャッシュレス決済は多くの多くの店舗で利用されるようになっています。特にQRコード決済のポイント還元などの大々的なキャンペーンを行うほか、加盟店の支払う決済手数料の期間限定での無料化などもあり多く店舗で利用できるようになりました。しかし、キャッシュレス決済事業者の統合、決済手数料の無料化の終了など、キャッシュレス決済を取り巻く状況は変わってきています。現在、この決済方法は拡大から定着の段階を迎えていますが、加盟店や決済を実施するレジ担当のオペレーター達はこうした事態にどのように対応しているかを調査しました。

キャッシュレス決済の現状

小売店、飲食店、スーパーマーケットなど多くの店舗でキャッシュレス決済が導入されるようになっています。経済産業省の資料では、主なキャッシュレス決済としてクレジットカード、デビットカード、ICカード式の電子マネー、QRコードなどのモバイルウォレットを上げています。

経済産業省 キャッシュレスの現状及び意義

なかでもQRコードを使ったキャッシュレス決済は、店舗への導入のための投資が少ないほか、ポイント還元などのキャンペーンもあり急速に普及していきました。店舗はQRコードを掲示するだけで決済の準備ができ、消費者のスマートフォンを使って決済を行うことができます。一般社団法人キャッシュレス推進協議会が公表しているキャッシュレス決済事業者16社から提供されたデータをもとに作成したコード決済利用動向調査によると、店舗利用件数は、2019年はおよそ8億1600万件でしたが2020年には27億1800万件に増加しています。月間のアクティブユーザ数の総計は、2019年でおよそ1855万人でしたが2020年には3636万人と増加しています。

コード決済利用動向調査 2021年9月10日公表

こうした状況のなか、いくつかの大手QRコード決済事業者が、これまで無料にしていた加盟店の決済手数料を有料化したり引き上げたりしています。導入の投資もわずかで、手数料も無料で、売上金の入金も比較的迅速に行われていたQRコード決済ですが、手数料の有料化を受けて加盟店ごとにその対応に違いがあるようです。どのようなことが起こっているのでしょうか。

加盟店の対応

関東地区のいくつかのQRコード決済を含むキャッシュレス決済の加盟店に直接お聞きし、決済手数料に対する対応を調査してみました。

・スポーツ用品店
都心部に店舗を構え比較的高額な商品も販売するこの店舗では、スポーツの前後に立ち寄る消費者も多く、現金の持ち歩きをする顧客は少ないとのことでした。決済方法は、現金、クレジットカード、QRコード決済のみを採用しています。交通系などのICカード電子マネーは高額な導入費用を理由に使用を見合わせています。支払方法に応じて店舗が顧客に付与するポイントの付与率を変えているそうで、QRコード決済の手数料有料化後も継続して取り扱いを続けています。

・雑貨店
都心部のターミナル駅近くでタバコ、酒類、飲料、雑誌、生活雑貨などを販売するこの店舗は、決済手数料有料化後にQRコード利用を停止しました。主な販売商品がタバコで価格や利益率等も固定されていて、決済手数料の有料化は利益の減少につながるため利用を停止することにしたそうです。低コストでQRコード決済を導入でき、それなりに利用する消費者もいました。売上金の口座への入金も早いサイクルで行われており、資金繰りの影響も少なかったのですが、やむを得ず停止したとのことでした。

・コーヒー店
都心部に数店舗を展開するコーヒー店では小型の決済端末を導入し、現金のほかクレジットカード、ICカード電子マネー、QRコードに対応しています。立地場所などの理由で顧客層に若い方が多く、現金の決済よりもキャッシュレス決済が多く利用されています。ICカード電子マネー、QRコード決済の利用が多いようです。決済の時間を短縮でき、テイクアウトの顧客を短時間で効率よく対応できるようになったほか、釣銭などに使う小口現金の管理も減ったそうです。普段ICカード電子マネーを使われている方が、ポイント還元キャンペーンの時はQRコード決済を利用することもあるようです。利用者の多さから手数料有料化後も継続してQRコードの利用は続けています。

このように、業種や扱っている商品、顧客層、顧客の回転率などを理由に、手数料有料化後のQRコード決済の利用継続状況は事業者により異なります。利用を停止する事業者もあれば、決済方法に応じて消費者への還元に差をつけて継続する事業者、決済の簡便さを享受し変わらずに継続する事業者などいくつかのパターンがあることが分かりました。

レジ担当の現状

事業者の方がQRコードなどのキャッシュレス決済に対応している一方で、消費者の方と商品やサービスの対価をやり取りするレジ対応の様子についても、飲食店、小売店、娯楽施設利用など複数の方からインタビューでお聞きしています。QRコード決済を含む決済の場面でのお客様とのやり取り、その後の処理等で困ったことなどのご発言をまとめています。

・操作の簡単さについて
交通系のICカード電子マネーの利用が最も決済手続きとしては簡単です。現金決済も自動化されていて、煩雑さはなくお客様から支払われた金額を機械が数えて、釣銭も自動で出てくるため間違いがないです。QRコード決済も現金の授受がないという点では簡単ですが、金額を間違って決済してしまった場合は決済事業者に連絡をとるなどリカバリにとても苦労することがあります。これはクレジットカードの場合も同様なので金額の間違いは起こらないようにします。

・キャッシュレス決済普及でよかったこと
全体としてお客様とのやり取りの時間が短縮されることです。お客様の決済方法が決まっていて残高などの支払の準備ができていらっしゃればスムーズに決済がされます。このほかに営業時間中にどの程度の売上があるかの「中間計」の確認がICカード電子マネー、QRコード決済では楽にできます。現金では売上と現金を突合するのに時間がかかりレジを締める際しかできないですが、キャッシュレス決済だと接客の途切れた合間の時間に確認ができます。

・キャッシュレス決済普及で困ったこと
現在は、QRコード決済の統合などもありその数は落ち着いていますが、6種類のQRコード決済を扱っていたことがあり、現金や他の決済方法も含め閉店時の締め作業を決済方法ごとにすることはやはり苦労しています。決済方法と店舗のポイントが別のアプリを使用するなど利用者の方も苦労なさいますし、レジでも複数のアプリの確認に時間を要します。また、QRコード決済はスマートフォンの通信状況が悪いと利用できないこともあります。QRコード決済のキャンペーン期間中ということで利用しようとするお客様がいますが、電波状態が悪く店舗で用意しているWi-Fiに接続をお願いすることもあります。Wi-Fiの認証の手間もあり、別の決済手段に変更なさることもあります。

・決済端末について
QRコード決済、タッチ式のICカード電子マネー、磁気読み込み式のクレジットカードですべて別の決済端末を扱うことになります。当然それぞれの操作方法は異なっており、さらに感染症対策としてお客様との間にアクリル板が設置されています。操作自体をお客様にお願いしている状態ですが、ソーシャルディスタンスを保ちながらアクリル板を隔てたところからカードやスマホを読み取る決済端末の操作を説明するため時間がかかることもあります。
 
以前と比べ店舗では現金以外の多くの決済方法が利用可能になっています。消費者は決済のスピードやポイント還元などのメリットを享受していますが、決済のオペレーションをする側にととっては、複数の決済方法の端末が異なることや、処理を決済方法ごとに行わなければならないことに苦慮しているようです。QRコード決済と現金などの複数の決済方法を組み合わせたり、誤ったQRコードでの支払金額を現金等で相殺処理できないこともオペレーションとして苦慮されています。

また、一部の飲食店のチェーン店では、現金、クレジットカード、タッチ式のICカード電子マネー、QRコードを自動的に行う決済端末が導入され、お客様が金額を確認し決済が完結するいわゆるセミセルフレジの端末が導入されています。こうした端末では、レジ担当の決済時の作業はポイントカードの処理程度になりレジ締めも簡単な操作で行うことができるそうです。セミセルフレジの端末には導入にそれなりのコストがかかります。しかし、決済手順の簡略化、従業員の教育コストの低減、売上確認の自動化など、店舗全体としての効率化の効果も大きいと思われます。

終わりに

QRコード決済は、拡大に寄与した加盟店への手数料無料化の終了やQRコード決済事業者の統合などのイベントを経て、定着の段階に入っています。加盟店の手数料有料化により、QRコード決済の扱いを停止する店舗や、消費者へのポイント還元等で調整している店舗もあることが分かりました。また、QRコードを含むキャッシュレス決済は店舗から見ても個々の消費者に対する決済の効率化の効果や、オペレーターの現金管理や売上管理などの業務軽減も効果としてあげられます。

消費者も同様に決済の効率化の恩恵は受けており、決済手段として定着しつつあることは明らかです。現金、クレジットカード、ICカード電子マネー、QRコード決済のなかから店舗の特性、商品の属性、ポイントなどの還元などの条件に基づき、消費者が適切なものを判断することになります。友人間での送金のために友人と同じQRコード決済を利用できるようにするほか、友人間でのお礼に商品クーポンを贈りあうことや、携帯電話の機種変更を機会にポイント還元のためにQRコード決済を利用することもあるようです。

また利用金額のチャージ方法としてクレジットカード連携、銀行口座連携をするとより効率よく利用できますが、利用者自身の使い過ぎや不正利用などを注意し連携を行わないという方もいらっしゃいました。利用する決済方法を行動傾向に合わせ、決済に関するリスクも踏まえてサービスやその利用方法を選択しているようです。QRコードを含むキャッシュレス決済の定着段階においては、消費者がどの支払方法を優先的に利用するかを念頭に、加盟店、消費者の行動傾向を分析したうえでのサービスの展開がたいへん重要な要素となると言えます。
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
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執筆 オクトノット編集部

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