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あらためて地方創生にどう取り組む? 第3回 地方創生を主導するために

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最終回となる連載第3回は、地域の金融機関に期待される創業支援やその事例、今注目すべき国が掲げ、予算化しているテーマとともに、実効的に進めていくために、地域の金融機関に期待される役割を紹介します。
地域が笑顔になる地方創生をリードする、社会課題トレンドの変化を理解して対応できる取り組みとは?

これまで2回にわたり、昨今の社会経済環境が大きく変化するなかで、地方銀行をはじめとした地域の金融機関は、どのようなことに注目して地方創生に取り組んでいかねばならないのかなどについて見てきました。特に、これまでと同じ方法だけではなく、総合的な観点からいかに「組み立て」を行っていくのかが大切であることなどについてお伝えしてきました。
そこで、連載の最終回である第3回では、地方創生を実効的に進めていくため、さらには主導していくために、筆者が考えるポイントについて述べさせていただきます。

地域の金融機関に期待される創業支援

「スタートアップやベンチャーからの問い合わせや相談などは、私ども支援機関が中心になって対応しています。確かに地元の金融機関さんとはいろいろと連携させていただいていますが、基本的には私どもの方に問い合わせなどいただくことが多くなっていますね。」
昨年(令和2年)6月、コロナ禍における各地の中小企業の実態調査のため関西地域へヒアリングに赴いたことがあり、ご協力いただいた中小企業等支援機関のご担当者の発言です。
支援機関が一番のお得意様である会員企業のために行っている、経営相談や融資など各種必要な支援や情報提供などは、この新型コロナがまん延している時にはどうしているのか伺ってみました。会員にとって必要な支援活動は引き続き行いつつ、以前から会員と一緒になって行っていた新たな産業の芽を育てる取り組みなども、ウィズコロナでもできる方法で継続的に行っている姿でした。そうした支援機関が地域の会員企業等から受けている相談の中には、事業承継やスタートアップ支援などもあります。しかしそうしたことは本来は地元の金融機関に相談しても良いことなのでは?という話になったのです。
もちろん地方銀行のなかには、スタートアップやベンチャー支援などを積極的に取り組んでいるところもあります。多くの地方銀行では、創業支援融資の関連でベンチャーやスタートアップへの融資メニューを有しています。先進的な取り組みを行う静岡銀行では、新たな価値・新たな産業の誕生、イノベーションの促進を目的に、「TECH BEAT Shizuoka」という静岡県内企業と首都圏を中心としたテクノロジース タートアップとのマッチングの機会づくりを行っています。直近の令和2年11月に開催したTECH BEAT Shizuokaのテーマは医療と健康の未来創造でした。

令和元年7月開催のTECH BEAT Shizuoka マッチングイベントの模様

(出典)TECH BEAT Shizuokaホームページ

また広島銀行は、オープンイノベーションプラットフォームの「Creww」を活用して、広島県内にある企業のオープンイノベーション推進に取り組んでおり、他の地方銀行でも、スタートアップ支援、オープンイノベーションなどに取り組んでいる事例が多くなっています。
ここで注目すべきことは、先の静岡銀行の事例では直近のテーマは医療と健康だったことです。スタートアップの多くはITやデジタルを活用しており、いわば「注目すべきテーマ×デジタル」の掛け合わせになっています。また体制の観点では、静岡県等と連携するなど、さまざまな主体と連携体を組成して取り組んでいるケースが多くなっていることです。

国が注目する地方創生テーマとは

そこで気になるのは、どんなテーマに注目すべきなのかということです。第1回では地域公共交通やSDGsなどについて、そして上記では医療や健康、そしてデジタルがテーマとして取り上げられたことについて言及させていただきました。いずれも全国のあらゆる地域で競うように取り組みが進められているものであり、国の予算化も進んでおり地方創生にとっても非常に重要なテーマになっています。
では、こうした新たなテーマについて、いち早く把握して取り組んでいきたい場合は何を参考にしたら良いのでしょうか?
いろいろとあると思いますが、あえて1つ挙げるとしたら公開されている内閣府の経済財政諮問会議の資料とそこでの議事要旨です。これは内閣総理大臣が中心となって月に1~2回の頻度で政策形成のために開催されるものですが、おおよそ年の初めに「今年の検討課題」、6~7月に「骨太方針や成長戦略実行計画案、そして翌年度予算の概算要求水準など」、12月に「翌年度予算編成の基本方針」が検討されています。

経済財政諮問会議の模様

(出典)内閣官房内閣広報室ホームページ

ここで上がっているテーマは新たな取り組みや重点政策になりますが、その多くは地方創生に少なからず関連しており相応の予算が振り分けられています。例えば令和2年12月にとりまとめられた成長戦略実行計画には、労働生産性を上昇させることの必要性を示唆し、そのためにイノベーションと投資による資本装備率の拡大の重要性を示しています。そのために必要な施策として「カーボンニュートラルに向けたグリーン成長戦略」、「デジタル化への集中投資・実装とその環境整備」、「健康・医療・介護などへのイノベーションへの投資の強化」、そして地方創生に関連して「スーパーシティ構想の推進」の他に、「乗合バス事業者及び地域銀行の生産性向上」や「銀行の業務範囲規制の見直し」などについて明記されています。なお、7月に提示された実行計画案では「スタートアップ企業への投資などオープンイノベーションの推進」などについても位置づけされています。
まさに地方創生に関わる新たなテーマとしてこれまで本稿でも取り上げてきたものが入っています。こうした動向を把握して、関係者等と協力して予めできる準備を着実に進めていくことが大切と思う人は少なくないと思われます。
そこで、令和3年の実行計画、つまり来年度(令和4年度)の重点テーマはどんなことなのか?気になることです。
検討の流れを見ると、新型コロナウイルス感染症の克服が筆頭に来ますが、やはり時代のキーワードになっている「グリーン社会の実現」として、カーボンニュートラルに関連した各種取り組み。そして「デジタル化の加速」として、5Gの整備加速、ポスト5G等に向けた研究開発、デジタル人材の育成、サイバーセキュリティの強化などが見て取れます。
そして「活力ある地方創り」がまさに地方創生に直接的に関わることですが、二地域居住・多拠点居住の促進、空き家・空き地バンクの拡大・活用、生産性向上や海外展開に取り組む中小企業への思い切った支援、観光の再生に向けた広域圏観光等の取組の支援などが挙げられており、地方銀行等の人材仲介機能の強化も記載されています。
地方創生に向けて、地域の金融機関をはじめとした地域の金融機関に対する期待は益々高くなっているとともに、より具体的になってきていることが分かります。

地域が笑顔になる持続的な動きのために ―共創、コーディネイト、組み立て、マネジメント

国や地域からの期待を受けて、地域の金融機関が地方創生に一層取り組んでいくために必要なこととして、内閣府の経済財政諮問会議に注目して、最近そして今後の重点テーマについて見てきました。もちろん地方創生については、他に毎年提示される「まち・ひと・しごと創生基本方針」についても把握しておくことが望ましいと思います。
しかし、このようにして得られた重点テーマについての知識を踏まえ、国の指針等に基づいて進めていくだけで、地域の産業が活性化して、人口が増え、まちが元気になるといった地方創生に本当に繋がっていくのでしょうか。
筆者は、長年にわたり地域活性化や地方創生に関わってきていますが、地域が良くなっていくために必要なことは、これまで見てきた社会経済環境の変化とそれに伴う国等の政策動向などを踏まえつつ、その地域の特性等をいかに活かして、地域の人、企業等が納得し笑顔になる持続的な動きにしていくことだと思っています。
その際には、社会の変化やトレンドについての理解力や対応力は不可欠になります。例えば、昨年度から「共創型サービスIT連携」という言葉が入っている補助金が現れてきています。これまでは特定の一社が受託して全体を差配して進めるようなことが基本になっていたのが、社会課題等の解決に向けて必要な技術やソリューション等を有する企業がそれぞれの強みを出し合い、共創型で取り組んでいくなかで持続可能な仕組みに仕立て上げる流れが出てきているということです。
他にコンソーシアムの形成、緩やかな協議会の設置などさまざまなコミュニティづくりは進められており、先に見た静岡銀行のTECH BEAT Shizuokaも、地元企業とスタートアップとの連携による社会課題等の解決に向けた事業創出のためのマッチングの機会でした。
地方創生に関わる各種課題解決に向けて、このような共創型が今後も増えていくことが想定されます。
そこではどのような役割が重要になるのでしょうか? 解決したい、または実現したい目的に向けて、関係者等が共通認識に立って、協力してやるべきことを着実に進めていく、そしてそれを持続可能にしていくために改善に向けた取り組みを進めていくことを主導し対応していく役割です。こうした「各種調整(コーディネート)」、「組み立て」そして「マネジメント」といった役割は、地元の金融機関が力を発揮しやすいことではないでしょうか?

今回3回にわたり、あらためて地方創生にどう取り組んでいけば良いのかについて、日々の業務等を通じて思っていることや知見等を踏まえて述べさせていただきました。これからも全国の各地で地元金融機関を含む皆様と一緒に地方創生に取り組んでいきたいと思います。
【この記事を書いた方】

高橋 誠司(たかはし せいじ)さん
株式会社クニエ
CS事業本部 地方創生/都市経営担当
ディレクター


マーケティング会社、シンクタンク等を経て、2018年から株式会社クニエへ。20年以上に渡り全国各地を回り各地の行政職員、企業、支援機関、金融機関等の方々と一緒になって地域特性・資源等を活かした地域活性化、まちおこし、そして地方創生等の業務に従事。最近は自治体のまち・ひと・しごと創生総合戦略の策定やスマートシティの推進に関わる業務などに注力している。

(株式会社クニエ)
https://www.qunie.com/
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執筆 オクトノット編集部

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