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中小企業診断士に聞く!中小企業のデジタル化の課題

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金融機関は地域経済を支える存在として、地域の中小企業に対し、資金面の支援に留まらず、デジタル化も含めた総合的な経営支援が求められるようになってきています。中小企業のデジタル化の実情とは?IT企画・導入にも強い中小企業診断士として数々の講演にも登壇されている磯島裕樹さんにお話を伺いました。

中小企業とITを結ぶ仲介役の重要性

── 磯島さんは中小企業のIT導入支援について取り組まれていますが、中小企業のIT導入における課題についてどのようにお考えでしょうか。

磯島さん 専任の担当者がいないことが多いのが課題ですが、もう1つ挙げると、変化を好まない方が多いところでしょうか。IT導入などの新しい仕組みを導入すると短期的には効率が一度落ちます。そこをいかに乗り越えられるか、が一番の課題です。

── 効率が落ちないようにする取り組みとしてはどんなことをされていますか?

磯島さん 問題は多種多様なので最適解があるわけではありません。1つ例を挙げると、導入したITソフトの改善点をベンダーに伝えて対応してもらう、ということをしています。

中小企業からベンダーには要件をうまく伝えられないことも多く、そこを仲介しています。ベンダー側も中小企業の実態を全て把握しているわけではないため、ITベンダーのサポートだけでは中小企業のIT導入がなかなか進まないのが現実です。そこで私達のような仲介役がとても重要になってくるんです。

ベンダー側も要望をどんどん聞いていきたいと考えていることが多く、意外と対応してくれることが多いですよ。ちなみに、私はさらに踏み込んで、パッケージソフトでできない範囲は私がプログラミングして、中小企業の業務フローにぴったり合うような仕組みも実現しています。

── 中小企業のIT導入を進めるために、IT企業側はどのように中小企業と向き合うべきでしょうか。

磯島さん 中小企業に対する説明の仕方をもう少し工夫した方がよいと感じています。大企業と比較すると、中小企業にはITの知識が相対的に少ないため、IT用語に慣れていないことも多いです。そうした方々への説明の仕方を、もう少し工夫して欲しいと感じることはありますね。

中小企業支援のカギとなるのは「課題発見力」

── 中小企業の支援者には、磯島さんのように個人として支援されている方もいれば、行政機関や金融機関など、さまざまな組織もあります。こういった組織との関わりについてお聞かせいただけますか?

磯島さん 信用金庫の登録専門家として中小企業の経営相談に乗ったり、商工会議所や商工会登録のコーディネーターとして中小企業を支援したりしています。また、東京都中小企業振興公社のデジタル技術活用推進事業のアドバイザーもやっています。

── そのような仕事をする中で課題に感じていることはありますか?

磯島さん 中小企業はお金や人のリソースが足りていないのが実情で、そのために経済産業省管轄の補助金を始めとして、さまざまな支援制度が存在します。ただし、それらを使いこなすための支援が足りず、その支援ができる人材も限られている印象です。

例えば、とある組織には20人ほどの専門家が支援者として登録しているようですが、なかには全く稼働していない方々がいるようです。さまざまな課題に対応できる人材はなかなかおらず、実績がある専門家に依頼が集中するというのが理由だそうです。

中小企業のIT導入、と一言で言っても、さまざまな課題が存在します。HP作成、という比較的簡易なものから、最先端の技術を活用した支援までさまざまです。そういった課題に網羅的に対処できる人材が不足している、という印象を受けています。

── そうなんですね。ただ、そのように全方位的なスキルを保有した人材は、大企業も含めて、世の中にほとんどいないのではないでしょうか?

磯島さん もちろん、高いスキルを保有している人材はいないのかもしれませんが、それよりも本質的な課題を発見できること、のほうが重要です。本質的な課題を見つけた後は、その課題解決ができる別の専門家にバトンタッチすれば良いと考えています。

中小企業の仕事をよく知っているのは、当然のことながらその会社の社員なので、その社員の声に耳を傾けて、本質的な課題を見抜くことができさえすれば、後はスムーズにいくと考えています。こういうことができる方があまりいない、というのが実情だと考えています。

── なるほど。例えば、中小企業診断士であっても、資格を保有しているからといって、お客様のヒヤリング能力に長けているかというとそうとも限りませんね。

磯島さん そうですね。実務の場面では、資格試験で勉強した知識はほとんど使わないです。資格試験で勉強した知識に固執しすぎてしまうと、中小企業の方は余計分からなくなります。自分のよく分かるフィールドの話を持ち込むのではなくて、あくまで中小企業の方のフィールドで話すことが大事だと思います。

IT×中小企業診断士

── 磯島さんはIT企画・導入にも強い中小企業診断士としてご活躍されています。

磯島さん 実は私は、もともと新卒でNTTデータに入社した経歴があり、データベース、ネットワーク、サーバ、セキュリティなどの仕事に幅広く関わっていました。

在職中に中小企業診断士の資格を取得したのですが、そのときにさまざまな士業の方と話す機会があったんです。そこで刺激を受けて、自分の力量を試してみたいと考え、コンサルティング会社を経て、中小企業診断士の個人事業主として独立しました。

また、ちょうどその頃、IPAのセキュリティセンターの研究員として、国のSECURITY ACTIONの立ち上げや制度設計にも携わってきました。こういった活動が、ITに強い中小企業診断士としての現在のキャリアに繋がっています。

── ITに強い中小企業診断士として、ビジョンや信念はありますか?

磯島さん 自身のITスキルを活かした中小企業支援をして、労働生産性の課題に取り組んでいきたいと思っています。世間では中小企業の労働生産性が低い、と言われていますよね。中小企業白書の労働生産性の定義は、従業員一人当たりの付加価値額です。そして、付加価値額は、営業利益や給与などを合計した額です。

つまり発注者である大企業が、受注者である中小企業に価格低減圧力を強めれば強めるほど、労働生産性が低下する、という図式が成り立つわけです。ですから、中小企業は業務が非効率なのでIT導入すべき、といった論調だけに偏るのはちょっと違うな、と思ったりもしています。

もちろん、効率化して労働投入量を減らす、という議論はしてもいいのですが、付加価値額をあげる取組にフォーカスをしないと、労働生産性は上がってこない。そういう視点を変えて、稼ぐ仕組みを構築できるような、具体的な支援をしたいと考えています。その結果、大企業の価格低下圧力を突っぱねられるような力を、中小企業の方々にも身につけていただけるようになってもらいたいなと。

地域の金融機関ができること

── 中小企業にとって金融機関との関係はとても大事ですが、その関係性について感じている課題はありますか?

磯島さん 中小企業には財務や経理が得意な方が圧倒的に少ないんです。金融機関から融資を受ける際には、さまざまな書類提出を求められますが、書類作成に慣れてない場合は時間がかかるし、内容を理解すること自体のハードルが高い。

企業がやれる範囲と、金融機関が求める範囲が異なるからか、話がなかなか噛み合わず、タイムリーな支援に繋がらないことがあると感じています。

── そういうギャップもあるんですね。このギャップを埋めるためにはどのような支援があると良いでしょうか。

磯島さん 例えば、決算書に書かれている数字の根拠について、金融機関側が興味を持って聞くところからスタートしてもいいのかもしれません。

企業経営の実態に入り込めるのは、金融機関や士業などの専門家くらいです。経営実態に入り込めるチャンスがあるのですから、そのチャンスを活かしてもっと深掘りすると、より良い支援につながると感じています。

乱暴な言い方をすると、決算書は数字遊びの部分があることも否定できない事実なので、やはり根拠を深掘りすべきでしょう。

── 細かいところまで金融機関が深掘りすることに抵抗を示す企業は多いのではないのでしょうか。

磯島さん 融資を受けている以上、情報開示をすることは仕方のないこと、と考える企業も意外と多いように思います。ですから、金融機関の方にはもっと企業の経営に興味を持って欲しいですね。

── せっかくいい経営をしていても、金融機関にその良さが伝わらないと勿体無いですよね。融資などの金融支援について感じていることは何かありますか?

磯島さん 財務情報をベースにした融資以外の資金調達がもっと増えればいいな、と感じています。例えば、大企業からの信用供与とか個人投資家の支援とか。

現状は、大企業に比べると資金調達手段が少ないので、金融機関に依存せざるを得ないんです。金融機関が支援できない範囲も当然あるので、そういった範囲を支援できる仕組みがあると良いと感じています。

さまざまなバックグラウンドの方が有機的に交わる中小企業支援

── 磯島さんは、IT企業のキャリアをフルに活かした中小企業支援をされているということがよくわかりました。磯島さんのように、会社員として培ったスキルが、実は中小企業全般の支援にも生きてくるということは多いのでしょうか。

磯島さん 多いと思います。例えば大企業に勤めているような方であっても、外の世界に触れたらもっともっと活躍の場が広がると思います。中小企業向けのビジネスを考える方々ならなおさら、中小企業に出向して働いてみるとか、もっとエンドユーザーのことを知る機会が増えると、より良い企画につながっていくのではないでしょうか。

── 社内だけで企画を考えるより、現場に飛び込んで企画を考えたほうが効率的ですね。ただ、前例がないことには抵抗感を持つ企業が多いのも事実です。私と磯島さんの間でも色々と連携させていただいていますが、企画を考える人と、スキル・知見を持っている人が個人単位でも連携して、風穴を開けるきっかけにできれば面白いですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

【お話を伺った方】

磯島 裕樹さん
中小企業診断士
株式会社ProsWork 代表取締役社長
株式会社コンサラート アドバイザリーボードメンバー

慶應義塾大学経済学部卒業後、株式会社NTTデータに入社。銀行システムの基盤系のシステムエンジニアとして、主にデータベースやネットワークを中心にシステムの企画/要件定義~構築・運用まで全般にわたって従事。
その後、株式会社ベイカレント・コンサルティングに入社。金融機関のリスク管理部門にてBCP策定やCSIRT※構築・運用支援や、プロジェクトマネジメント支援に従事。
2017年経営コンサルタントとして独立する傍ら、(独)情報処理推進機構のセキュリティセンターに所属し、中小企業向けのセキュリティ啓発・普及活動を推進してきた。
2020年5月に株式会社ProsWorkを立ち上げ、代表取締役に就任。
※コンピュータ・セキュリティ・インシデント・レスポンスとチームの略。セキュリティ上の問題へ対応するための組織の総称。
(株式会社ProsWork)
https://proswork.co.jp/
(株式会社コンサラート)
https://consulart.jp/staff-2/isojima/

<インタビュア>
株式会社NTTデータ
第三金融事業本部 戦略ビジネス本部 西山 彰人
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。

2004年株式会社NTTデータに入社し、今に至る。2015年に弁理士資格を取得し、以降兼業として活動している。自身のミッションは「知的財産×金融×ITでより良い社会をデザインする」こと。見えづらい、キラリと光る企業の強みを可視化して、成長を促せるような資金が集まるような仕組みをITで実現し、頑張っている人が等しく報われる社会を実現したいと考えている。このような社会を実現するために、兼業の弁理士活動で得た知的財産の知識と、NTTデータの業務で得た金融とITの知識を駆使した事業を立ち上げている。

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