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情報銀行とその先の社会

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情報銀行は我々にどんな社会をもたらすのでしょうか?個人情報を保管する、そのためにセキュリティを充実させることはその手段であって目的ではありません。
個人の働き方に企業があわせるようになり、場所や企業にしばられずに自由に働き方を選べるようになる。政府や自治体はそれを支えるサービスを提供できるようになる。
そんな「オンデマンドな社会」が実現される未来をご紹介します

情報銀行がもたらすもの

2019年に、認定制度が開始されてから、すでに7社が認定を受け、情報銀行ビジネスに参入しています。まだまだ黎明期であり、それぞれのビジネスの形態も確定していませんが、これまで述べてきたように、これまでの広告ビジネスとは一線を隠す、新しい顧客と企業との関係を構築するものになると言われています。
しかし、それが最終ゴールなのでしょうか。情報銀行という言葉だけでは「データを貯めるもの」「データを運用して、利益を得るもの」というイメージが出てきてしまいますが、本当にめざす社会はそこではないと考えています。
では、情報銀行がもたらすものはなんなのでしょうか。それは、真の意味での顧客中心、人間中心の世界であり、個人に社会が合わせる世界であると考えます。私はそれを「オンデマンドな社会」と呼ぶようにしています。それはどんな世の中なのでしょうか。その事例をいくつか考えてみたいと思います。

ケース1:個人の働き方に企業が合わせる社会

私は、この会社に勤めて四半世紀ほど経つのですが、時々、今の学生さんとお話をしていて、自分の頃の就職活動から大きく変わってきたなと感じることが多くあります。
四半世紀前には、バブル崩壊後の就職難だったとはいえ、やはり大企業の人気は高く、「いい大学に行って、いい会社に入る」という考え方が一般的だったと思います。IT分野というと時代の先端を走っていて、ベンチャー企業も多く、そこで働く人たちも、新しい価値観を持った人だという見方もあるかも知れません。
しかし、巨大なシステムを構築するためには、多くの人の力が必要で、当時はまだクラウドもなかったので、開発のための投資も莫大なものになっていました。そのように考えるとベンチャー企業などの活躍できるシーンはまだまだ少なく、結果的に大企業への就職が多くなる実情であったように思います
しかし、最近ではこれまでの大企業偏重から、ベンチャー企業への就職、あるいは起業するというような考え方を持つ学生さんが増えてきているように思います。中には、「あまり多くの人たちの中でコミュニケーションを取るのが苦手だ」という声も少なからず聞きます。SNSなどで不特定多数の人との繋がりを持つ一方で、対面でのリアルのコミュニケーションは、むしろ少人数へと変わってきているのかもしれません。大企業に入って、職場の飲み会には参加しない、イベントなどにも参加しないという若手は、私の時代でも多くなったと言われましたが、今はそれよりも多くなっているのかも知れません。
さらに企業の側も、副業や兼業を認めており、テレワークや働き方改革も相まって、自分の時間が増えており、そうした時間を副業兼業に使う人たちも増えてきているようです。個人としても、そのような形でやりたいことに挑戦できる、地域に貢献ができるなどの意識を持つ人もおり、一定数(3割くらいになるでしょうか)は、こうした働き方を継続していくように思われます。

そのような状況が企業に求めるものは何でしょうか。これまでのような昇進昇格などによるリニアな人財育成や評価制度は、こうした人たちには響かないのではないでしょうか。やりたいことを仕事にするという人が増えてくることで、それに対応する仕事を企業として提示しなければならなくなるでしょう。
加えて、働く場所も、みんなでオフィスに集まってというよりは、働きたい場所で働く、夏は北海道、冬は沖縄で働くような働き方にも対応しなければならなくなるでしょう。そうなると、「〇〇会社の▲▲です」という見方ではなく、「▲▲さん」だけで人物を評価しなければならなくなります。
それは、個人にとって、良いことである反面、ビジネスをする相手方からすれば、初対面の人の評価が大変難しくなってくるわけです。
少し回りくどくなりましたが、そのようなシーンにおいて、情報銀行(パーソナルデータの活用)が必要になるのです。その人が、どこでどのような仕事をしてきたのか、についてのデータを蓄積し共有する仕組みです。
もちろん、これまでも履歴書などで共有をしてきたと思いますが、それでは本人からの一方的な情報であり、極論をいえば、真偽の確かめようもない情報でした。情報銀行が企業からそのようなデータの提供を受け、本人の許諾に基づいてそれを相手先に提示することができれば、真正性を担保したままデータ共有ができるのです。
こうすることで、より流動的に人財が活用され、ビジネス上の心配事も減ると思われます。より個人が働きやすい環境が提供されることになり、幸福度も上がっていくと考えられます。すでにこうした取り組みを始めている地域、企業もあり、今後より多くの企業と個人がこのような仕組みを使っていくことになるでしょう。

ケース2:自治体サービスのアグリゲーション

ケース1とも関連してきますが、人々が場所に縛られず、企業に縛られずに生きるようになると、自治体にも大きな影響が出てきます。
場所に縛られずに確定申告が必要になるとしたら、半年は北海道、半年は沖縄となった時に、住民税をどのようにするのが適切なのでしょうか。(現状は、住民票がある場所となるが、半年ごとに居住地が変わる人の扱いをどうするのかは検討が必要だと思います)また、住民向けのサービスという観点からも、これまでは、その土地に住んでいる人向けに、サービスが提供されていましたが、「住んでいない人へのサービス」ということも今後は考える必要があると思われます。
長く、自治体には競争というものが働きにくい状況でした。もちろんゼロではありませんが、それは人口の流出など、ゆっくりと、しかも、複合的な要素により、競争というか、変化が起こってきていました。
それに伴い、限界集落というような言葉も聞こえるようになり、住んでいる住民だけでは自治体運営ができなくなる恐れも出てきました。だからといって、住む場所を変えるというのは、「オンデマンドな社会」ではないと考えます。本来は、住みたいところに住み、生きたいように生きるべきであり、そのためのサービスを提供するのが自治体であるはずです。しかし、それができなくなっているのです。
かつて、そのような状態にある業種があり、その後大きな変革を迎えようとしている業種があります。銀行業界です。銀行も、一度口座を持ってしまえば、なかなか変更することはなく、しかも金融機関の間で大きなサービスの違いがあるわけでもありません。そのため、個人の側からも、銀行を変えるというメリットを見出し難いものでした。
そこにFinTechがやってきました。これまでの金融機関よりも顧客に寄り添うサービスを掲げ、痒いところに手が届く対応を行うことで、利用者を増やしてきました。
特に、アグリゲーションの分野では、成功を収める企業も出てきています。顧客との対応を一手にひきうけ、金融機関を「一列後ろ」に追いやってしまう勢いがありました。
結果として、金融機関はAPIと呼ばれるサービスを外部から使えるようにする仕組みを導入し、FinTech企業がそれを活用することで、金融機関にとらわれないサービスを提供できる素地ができました。個人はFinTech企業のサービスを使うときに、その後ろでどの金融機関のサービスを使っているのかを意識しないようなことが起き始めています。
住宅ローンを借りたいと問い合わせれば、数ある金融機関から、自分にぴったりの住宅ローンを見つけてくれます。医療保険に入りたいと問い合わせれば、複数ある保健会社から自分にぴったりの保険を見つけてくれます。まさに「オンデマンドな社会」なのです。

これと同じことが自治体でも起きるのではないでしょうか。つまり、どこに住んでいようと、その自治体のサービスを受けられるようになるのです。
例えば、新型コロナのワクチンを打ちたい。でも住んでいる自治体では順番が回ってこない。それなら別の自治体のワクチン接種の権利をもらい、それを使って、近隣の病院で接種をしてもらう。そんなことができるようになるのではないでしょうか。
「そんな馬鹿な?」「そんなことは無理!」と考える人もいるかもしれません。
しかし、考えてみてほしいのです。ふるさと納税は、まさにそういうサービスではないでしょうか?その自治体が提供する返礼品を受けるために、寄付(納税)をする。それが行政サービスに置き換わるだけなのです。
また、こういう事例ではよく名前の上がるエストニアでは、住んでいない人にデジタルIDと電子サービスへのアクセスを提供することができる「e-Residency」というサービスがあります。これと同じように、住んでいない人に、サービスを提供できるような仕組みは作れるでしょう。
そうなると、Fintech企業のような、GovTech企業が現れ、どこに住んでいても自分の選んだ自治体のサービスが受けられるようになる社会というのがくるかもしれません。
もちろん、道路や水道などのインフラは難しいかもしれませんが(しかし、電気は実現できていますね)、児童手当、ワクチン接種などのサービスは実は土地に縛られる必要はなく、サービスの対価(つまり納税)を支払えば、受け取ってもいいものではないでしょうか。

これらをGovTech企業が提供する際に、本人確認をしたり、居住実績やサービス受けた実績により納税額を決めたりすることが必要で、そのために情報銀行に蓄積されたデータを活用することが必要になると思います。
また、さらに快適なサービスを提供するために自治体側もどのような住民(実際に住んでいないe-住民を含む)がどのようなサービスを求めているかを理解するために住民の個人情報を収集することが必要で、そのために情報銀行にアクセスするようになるでしょう。

自治体もサービス業であり、個人から選ばれるサービスを提供する必要が出てくるのです。

情報銀行はパーソナライズやカスタマイズのためにある

このようにみてくると、情報銀行はデータの売買や、データの運用益を得るものではなく、「オンデマンドな社会」を実現するためのインフラであることがわかるでしょう。

本来の目的はそこにあるのです。

もっと人々が働きやすく、生活しやすくするために、私たちのデータを活用するのです。
その結果、サービスの品質もあがり、無駄も減ります。双方にとって、Win-Winの仕組みなのです。いかに個人のためのサービス、商品を提供するのか、そのために個人のデータを活用します。そのような関係を支える仕組みとして情報銀行が存在するのです。
お金が、お金だけを生み出すのではなく、使われ方によっては社会に役に立つものを生み出すのと同じように、データも、ただ単に利益を生み出すだけではなく、社会に役立つもののために使われるべきだと思います。
実際、そのような使い方をするのであれば、個人情報を提供してもいいという人も多くいます。
私たちも、データを販売するという側面だけにとらわれて、利益を生み出そうと思ったり、逆に危険だからとタンス預金のようにしてしまったりするのではなく、活用することでより豊かな生活を創るということを考えてみるべきではないでしょうか。


※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。

情報銀行とその先の社会をもっと知りたい方へ

本稿を寄稿してくれた花谷さんの講演があります。是非ご聴講ください。
NTT INNOVATION CONFERENCE 2022
1/28(金) 13:00~13:30

情報銀行を使った地域DXの実現

DXは、企業のみならず様々なシーンで求められています。その一方で、大企業においてDXが進められたとしても、地域においてはなかなかDXが進められない現状があります。本講演では、そのような地域におけるDXの切り札として情報銀行を活用した新しい考え方についてご紹介します。これまでのスマートシティとは異なる概念で、地域のDXを進めている欧州の事例や今後の自治体のあり方なども情報銀行の視点からお話しします。


1996年NTTデータ入社。入社以来、公共機関向けの業務に携わる中で、パーソナルデータビジネスに深く関わるようになる。近年はEUでのMyDataGlobalの取組やフランスでのFingとの実証実験などで得られた知見をベースに、パーソナルデータ活用の第一人者として、より効率的な社会を紹介し、そのために必要な社会制度、インフラなどについても発信している。著書に『情報銀行のすべて』(ダイヤモンド社、2019年)

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