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完全キャッシュレス ~お店の困りごとから見えてくる未来~

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国や民間が総力を挙げて取り組むキャッシュレス。身の回りでも現金がなくても買い物ができるところが増えてきたことを、皆さんも実感しているのではないでしょうか? 2021年10月からは、PayPayが加盟店手数料徴収を開始し、手数料が発生するならやめる店舗がでるのではないか?という観測もされています。しかしキャッシュレス導入加盟店の選択基準は手数料だけなのでしょうか?本稿では事例を通じて加盟店の困りごとやその解決方法として浮かび上がる「完全キャッシュレス」という考え方紹介し、そこに切り込むビジネスチャンスの視点を紹介します。

日本のキャッシュレス化 第二ラウンド

FinTechの中でも最も理解しやすいのは日々のお金の支払いに使われるいわゆるキャッシュレス決済でしょう。
近年の日本でも現金を使わず、代わりにカードやスマホを使った決済手段が数多く提供されるようになりました。
中でもQRコード決済は2018年のPayPayの参入を境に、激しい競争が繰り広げられてきたのは、CMやキャンペーンでおなじみでしょう。加盟店手数料無料、利用者ポイント大還元といった競争ががなされた結果、大手資本力のある企業グループ提供サービスの生き残りという形で落ち着きつつあります。
その結果当初お約束していた通り、そろそろ手数料をいただきますよ、という時期がやってきました。各社それまでのクレジットカードのより若干安い、おおむね2%前後の加盟店手数料に落ち着きつつあるようですが、期間限定の無料キャンペーンを張るなど、競争はまだまだ激しいようです。
このようにキャッシュレス決済手段では、どうしても加盟店手数料に焦点が当たりがちなのですが、果たして本当に手数料だけが問題なのでしょうか?本稿ではお店側にとって、決済の分野ではどこに問題があり、どのような観点でキャッシュレス決済を選ぶのかを考察してみました。
お金にまつわる困りごとの向こうには、キャッシュレス決済の未来の姿が見えてきます。

現金にまつわるお店の困りごとが見えてきた

お店を営む事業者の立場からみれば、本当にやりたい業務は、お客さんにおいしい料理を提供したい、といった本来の業務です。
しかし、お金まわりには日々の煩雑な業務があります。
一日の業務がおわり、店を閉めてから、レジのお金が正しいのか?疲れているにも関わらず、何時間もレジのレシートとにらめっこしないといけない。お店に現金を置いておくのはあぶないので、夜間でも空いているATMに入金しに行かなければならない。疲れた身体にムチを打ってたどり着いたATMによれた紙幣を入れると、ATMからペッとばかりに吐き出され、ため息がでる。
お店のアルバイトにとってもお金を扱うのはプレッシャーです。配達にいったら、お客さんから受け取った現金を店に戻るまでに落としたりしないかと気が気ではありません。

ひと昔前までは現金を扱わざるを得ず、こうした店長やアルバイトの苦労はいわば必要な苦労だったかもしれません。でもキャッシュレスにすることによって、現金を扱わなくても済めば、お金にまつわる煩雑な業務を実はなくすことができるのではないか? キャッシュレス化が進んだことで、お店の側も気がつき、考察・検証をする動きがここ数年見られ、報道されるようになってきました。

働き方の改革、業務効率化の観点からキャッシュレスに取り組む

東京・日本橋馬喰町にロイヤルホールティングスが開業した、「GATHERING TABLE PANTRY(ギャザリング テーブル パントリー)」は「現金お断りの店」 として、あちらこちらで大きく取り上げられました。私が2018年当時、社長の講演を聞いたのものこの頃です。完全にキャッシュレスの店舗を開いた目的は、キャッシュレス化そのものではなく、現場の負荷をどうすれば軽減させることができるのか。その課題を解決することでした。
少子高齢化が進む日本では労働力の確保も大変になりつつあります。実際に地方のお店ではパートやアルバイトを集めるのも大変だそうです。先の講演でも社長は、新規店舗の出店を計画しても、労働力を集めるのが難しく、計画が延期になる苦しい状況にあることを訴えていました。だから現場の待遇改善は大きな課題でした。こうした認識から、働き方に注目し、業務内容を分析していくと、世の中の環境は大きく変わっているにもかからず、業務そのものは開業したころと比べてもなにも変わっていない。言い換えると、業務のデジタル化がされていなかったのです。こうした気付きがキャッシュレス実験店舗への大きな動機となったことは間違いないでしょう。
馬喰町の完全キャッシュレス実験店舗では、「実際にお金を数えるミスはゼロ、店長や責任者の売り上げの管理・報告業務もタブレット端末から行えるので数秒で終了。ほぼゼロ」になったそうです。働き方改善の点も「分析により、ヒト・モノ・カネで考えたとき、特にカネの部分の負荷が大きく、現金管理の方法を変えれば業務効果が大きい、という認識がグループ全体で共有された」そうです。
キャッシュレス決済は、一見するとお店に来店する利用者の利便性の観点だけに目が行きがちです。しかし、お店、つまり加盟店の側にとってもこのように恩恵は大きい。これまで見過ごされてきた現金の負荷はこのようにだんだんと可視化され、報道されるようになってきています。

出来る範囲でやってみる完全キャッシュレス

ロイヤルホールディングスのように、全ての店舗を完全キャッシュレスにしなくても、一部実験店舗だけでもメリットが確認できました。複数店舗や、もう少し大きなお店ではどうでしょうか?
1店舗から、少し範囲を広げた商業施設の例があります。
鹿児島にある「よかど鹿児島」は26テナントが入る商業施設です。この入り口には「現金」の文字の上にバツ印が書かれた目立つ看板があります。
実はこのよかど鹿児島、なんと鹿児島銀行が本店と別館の1階部分を商業施設として運営しています。鹿児島銀行は地方銀行としては珍しい独自のキャッシュレス決済「Payどん」を運営しています。もちろん鹿児島銀行は取引先に、ぜひこの「Payどん」を使ってもらいたいはずです。そこで「取引先に、キャッシュレス決済の使い方や、メリットを伝える役割を担う目的で開業された。」そうです。鹿児島銀行が声をかけたのは「地元の取引先」で、「以前からキャッシュレス決済に取り組んできた店舗はほとんどない」と、いいます。

銀行が本店を改装して、自身で商業施設を運営するのは並大抵のことではなかったでしょう。しかし実際に開業してみると、GATHERING TABLE PANTRYと同様、事務作業の軽減や、完全キャッシュレスだからこそ不要になるレジ締め作業が、テナントに恩恵をもたらしているようです。
次は、もうすこし大きな建物、スタジアムの事例です。
楽天が運営するスタジアムでは、2019年シーズンから、スタジアム内に完全キャッシュレスを導入しました。楽天Pay他の金融事業を運営している立場でもあるからできた、という事情もあるでしょうが、スタジアム運営の立場からも様々な効果が確認されています。
完全なキャッシュレス導入により、球場側にとって出てきたメリットとして、「会計時のお釣りの間違いがなくなる、会計の遅さによる待ち時間の短縮」が実際に効果として計測されています。「グッズ販売や飲食テナントでの1回の会計にかかる時間が、2018年対比で8~10秒程度縮小したという結果」も出ているようです。待ち行列をいかに解消するか、というのは実は店舗にとっては大きな課題です。行列ができると評判になるからよい、のではなく、行列をみてお客さんが帰ってしまう機会損失や、時間当たりにさばける販売件数が伸びない(レストランでいう回転率)は、重要な経営課題なのです。

それに行列に並んだがために決定的なホームランやゴールを見逃す、そんなファンも減ったのではないでしょうか。

そういえば現金を持ち歩けない入浴施設では、入り口で手に巻くバーコードのついたバンドが渡されて、施設内ではすべてそれで決済しておき、出口で清算するという実は完全なキャッシュレスが、もうかなり昔からありました。我々はこれを勝手に「スーパー銭湯方式」と呼んでいますが、知恵と工夫次第でどうとでもなる好例です。
実はこのスーパー銭湯方式。あの夢の国でも採用しています。

フロリダにあるウォルトディズニーワールドにはMagic Bandというサービスが以前から存在していました。非接触チップを内蔵した銭湯よりは、ちょっとデジタルなこの腕に巻くバンドは、夢の国で楽しんでいる間、現金を見る必要を無くしてくれます。それどころかスマホのアプリと連携して、来場前にFast Passを予約するサービスや、施設内ホテルのルームキーの役割まで果たします。
今年からはこのサービスは、スマホアプリだけで完結するMagic Mobile Passにリニューアルされたようです。スマホがこれだけ普及している現状ではそうしたくもなるのでしょう。なぜならチケットやバンドを物理的に郵送する必要がなくなるのですから。
もしかしたら、未来の銭湯でも防水スマホを持ち込む時代になるのかもしれません。
こうしたことに着目して、世の中を流れるニュースを見ていると、実は完全キャッシュレス化の事例はすごく増えてきています。
思えば私が学生の頃、駅で電車に乗るときには料金表を見て小銭で切符を買っていました。今ではどこかに出かけるときに駅で料金を気にすることもほぼなく、ピッと改札を出入りするだけです。今でも現金が使える券売機はありますが、長い行列を目にする機会もめっきり減りました。
高速道路でも、ETCのおかげで、料金所に慌てて千円札を渡すこともなくなりました。
駅や高速道路と同じように、ゆっくりと、完全なキャッシュレスはますます実現されていくことは想像に難くありません。本稿を機会に未来のお金の姿と、手数料だけでないビジネスチャンス、について、皆さんの参考になれば幸いです。

1993年株式会社NTTデータ入社以来、インターネット黎明期のEC構築、初期の携帯電話へのPayment機能搭載、海外への着メロ壁紙配信からブロードバンド黎明期の動画コンテンツ配信の実証実験等、数多くの新しい分野への取り組み検討に携わる。いつの間にか15年以上のキャリアになった金融分野でも変わらず、先物システムへの新しい通信方式導入、銀行基幹システムのオープン化、その海外への展開、スマホペイメントの検討など、ひとところに落ち着くことがない。現在は金融×デジタルの最新情報を追いながら、今度は早すぎないよね?と時代とにらめっこしつつ新しい可能性を探っている。ソロキャンブームに山岳部出身の血が騒ぐ今日この頃。

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