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【LayerX】データのセキュリティ・プライバシー 〜「守り」から「攻め」の技術へ〜

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最近、ビットコインが5万ドルの最高値を記録するなど、再び盛り返しの様相を見せています(2021年2月17日現在)。米テスラによるビットコインへの15億ドルの投資に関する報道も記憶に新しいところです。その話題性とともに「ブロックチェーン技術」を一躍世に広めたビットコインですが、誕生を遡ると流通が始まったのは2009年。一時はバズワード的な熱狂感もあったブロックチェーンも、登場から約10年が経過し、昨今では社会実装に向けた議論に軸足が移りつつあります。他方、ブロックチェーンを専門としていない方々にとっては、いまだに正体がつかみにくい存在であるのも事実ではないでしょうか。 この記事では、ブロックチェーン領域の先駆的企業である株式会社LayerX(以下LayerX)執行役員の中村さんにお話を伺い、ブロックチェーン技術の実用化のポイントを整理しながら、金融領域での活用に必要な視点について考えていきます。

実用化に向けて動き出すブロックチェーン技術

冒頭で紹介したビットコインをはじめ、数々のブロックチェーン技術を用いた通貨については、ボラティリティ(価格変動性)の大きさや、必ずしも裏付けとなる資産が存在するわけではないことなど、その特徴が世の中にも浸透してきました。資金決済法の改正(令和2年5月1日施行)により、「仮想通貨」から「暗号資産」へと呼称が変更されるなど、法令上の整理も進んでいます。これら通貨については、投機的なプロダクトとしてネガティブな印象を持たれている方も多いかもしれません。

一方で、ブロックチェーン技術そのものに着目すれば、通貨にとどまらず、あらゆる領域で実用化に向けた検討が進められています。例えば、複数の商社や金融機関が合同で立ち上げたトレードワルツ(※1)による貿易エコシステムの構築や、JCBとLayerXによるサプライチェーンをまたがった商流情報の活用(※2)など、数々の実践的な取り組みが各所で立ち上がっています。

今後、ブロックチェーン技術の実用化はますます加速し、近い将来には、私たちの生活を支える当たり前の技術として定着するのでしょうか。中村さんは「数々の実証実験が重ねられる中で、社会実装に向けた課題や実装のカギとなるポイントが見えてきた」と言います。

(※1)トレードワルツ:
https://www.tradewaltz.com/

(※2)LayerXとJCBの共同研究:
https://layerx.co.jp/news/pr201222/

カギを握る「透明性」と「秘匿性」の両立

中村さんによると、ブロックチェーン技術の社会実装のポイントは「透明性」と「秘匿性」の両立にあるそうです。どういうことでしょうか。

ブロックチェーン技術は、本来的に透明性が高いという特徴を持っています。記録を分散保持して、正しさを参加者全員で検証しあうことによって、改竄を極めて困難なものにしています。例えば、ビットコインは暗号技術により匿名性が高いイメージがありますが、ひとたび、ビットコインのアドレスと利用者が紐づいてしまうと、専門家なら容易に取引を辿ることができてしまいます。「言うなれば、丸はだかで決済取引をしているようなもの」と、中村さんは言います。

実務への応用を考えると、この透明性がネックになるそうです。多数のステークホルダー間で情報を共有して、同じデータでリコンサイル(取引明細や残高の照合)をできるようにするという活用方法を例にとって考えてみるといかがでしょうか。みんなに共有するということは、裏を返せば、各参加者が隠しておきたい情報も共有されてしまうことを意味します。

中村さんによると、アイデアを思いついて実証実験を行い、仕組みが動いたことを確認していざ実装を、と考えた時に「この情報は本当に共有して良いのか?」「良くないとすると、そもそもブロックチェーンを使う意味があるのか?」といった議論が起こり、検討が頓挫してしまうプロジェクトも世の中には少なくないそうです。とりわけ、金融領域においては、多くのプレイヤーが競合他社に知られたくない営業情報を持っているため、これが社会実装において障壁になるケースが多いことが見えてきた、と言います。

次に「秘匿性」についてはどうでしょう。秘匿性とは、機密性の高い情報を第三者が閲覧できない状態にすることを指します。秘匿性というと匿名通貨の「Zcash」や「Monero」を想起する方もいるかもしれませんが、これらで使われている仕組みによっても、社会実装のための課題を解決することは難しいそうです。
確かに送金相手や送金額は分からなくなるのですが、実際の金融システムへの応用はそれほど簡単ではないためです。中村さんは、次の二つのポイントを挙げます。

(1)AML/CFT(マネーローンダリング/テロ資金供与対策)
年々、国際的にレギュレーションが厳格化されており、不正や犯罪抑止の観点から、資金の流れを第三者がきちんとモニタリングすることが求められているが、完全に匿名化してしまうとこれが難しくなる。

(2)データの利活用
企業の商用データを繋ぎ合わせてファイナンスに活用することや、地域の企業や生活者のデータを統合して地域経済の分析を行うといった、本来データを使って実現したかったことが、完全な匿名化の中では実現できなくなる。

これらのことから、いかに「透明性」と「秘匿性」を両立して、実際のビジネスロジックを満たせるようにしていくかが、社会実装の肝になってくると言います。

重要なのは「“正しく実行されていること”を検証できること」

LayerXでは「透明性」と「秘匿性」の両立を実現するため、TEEと呼ばれるハードウェア技術とブロックチェーン技術を組み合わせた「Anonify」というモジュールを展開しています。本稿では、技術的な仕組みについては詳しくは触れませんが、「Anonify」が匿名通貨と異なるのは、前述の二つのような、実際の金融インフラに必要な複雑なビジネスロジックを実行できることです。

また、中村さんは「“プログラムが正しく実行されていること”を保証すること」が重要であると言います。例えば、AML/CFTにおいて、複数の金融機関が不正送金のリストを持ち寄って、同じデータをもとに分析し、送金取引に係るネガチェックを効率化する仕組みがあるとします。それぞれが持ち寄る取引情報には、個人情報や営業上開示したくない情報も含まれるでしょう。

この情報を秘匿化して持ち寄るところまではいいのですが、「他社が持ってきた情報は間違いないのか?」「データ抽出のプログラムが正常に動いているのか?」といったことを確かめることができません。誤った情報で悪意のない取引を止めてしまったら、実務上大きな問題となってしまいます。
そこで、プログラムの正当性やデータの信頼性を保証できることがカギになる、というのです。

LayerX資料

それでは、仕組みさえ整えばブロックチェーン技術はすぐに普及するのでしょうか。中村さんは、「多くのビジネスパーソンの先入観と技術進歩にはギャップがあり、先述したような概念を広めるためには時間がかかる」と言います。そこでLayerXでは、技術の重要性を示せる身近な事例を作ることを目指し、その一つとして、つくば市や加賀市と共同でインターネット投票の実現に取組んでいます。

なぜインターネット投票かというと、投票には「透明性」と「匿名性」の両立という、特異な要件が存在するためです。投票には、不正がないことを有権者が確認できる透明性が求められる一方で、憲法によって投票の秘密が保障されています。これまでうまく両立できなかったこれらの要件を満たしてインターネット投票を実現することで、一般の方々に分かりやすいユースケースを示せると、中村さんは考えています。

ちなみに、インターネット投票は、若年層の投票率向上に寄与すると思われがちですが、実は投票所に足を運ぶことが難しい高齢者のニーズも高いとのこと。また、投票所の設置などの運用にかかるコスト低減効果も期待されていると言います。新型コロナウイルスの流行下では、投票に用いる鉛筆を毎回消毒するといった作業も生じていたそうです。先の米大統領選では、不正投票の疑惑が連日報道される事態となりましたが、これも「不正があったかどうかを検証できない」ことによって起こった出来事といえます。

現在でもゼロ票確認という、投票開始前の投票箱に何も入っていないことを確認する制度など、透明性を担保するための仕組みがありますが、中村さんによれば、これと似たように、第三者機関などがプログラムの正当性を検証できるという仕掛けが、インターネット選挙の実現を実現するカギになるそうです。

セキュリティ・プライバシーを「守り」から「攻め」のテーマへ

この先、金融領域でもブロックチェーンの社会実装が進んでいくのでしょうか。中村さんは「セキュリティやプライバシー保護は”守りの技術”であるというイメージを変えたい」と話します。セキュリティというと、どうしても怖い感じなどといったネガティブなイメージを持ってしまいがちですが、いかに利用者によりよい体験をしてもらうか、という視点で技術の活用を考えていくことが重要であると言います。

金融領域では、不正防止や情報保護といったテーマは、利用者に多少の不便はあれども、利用者保護にも繋がるため、いかに厳格にやり切るかが重要視されてきた世界です。利用者側でも、決まりだから仕方ない、と諦めていた面があるのではないでしょうか。こういったネガティブな業務を、新しい価値を生むものに変えられないか、という発想の転換は、別記事で紹介しているパーソナルデータ活用とも共通点があるかもしれません。

「セキュリティやプライバシーを守りのテーマではなく、利用者の付加価値を高めるためのテーマとして、いかに積極的に取り組めるか。このマインドシフトが大きいと思います」
ちなみに、ブロックチェーン技術の活用で大切なことは「ブロックチェーン案件として始めないこと」だと中村さんは言います。利用者の課題に寄り添うサービスを考えるところからスタートし、ビジネス検討を終えてシステム実装を考える段階になったところで初めて、選択肢の一つとしてブロックチェーンの活用を考えればよく、より安く作れる、早く作れる、セキュリティの要件に合う、そう思えたなら使えばよいとのこと。

最後に、金融業界とブロックチェーン技術の向き合い方についても伺いました。中村さんは、二つの観点に分けて考えるべきだと言います。一つはエンタープライズ向けのブロックチェーン。これは、システムのデザインパターンとして捉えることができ、既存のインフラを覆すというよりも、安価でいいものが作れるというメリットに着目をすべきで、むしろ積極的に取り組めばよいとのこと。

もう一つが、抜本的に金融インフラを変える可能性がある「Defi(分散型金融)」の存在。本稿では詳しく解説しませんが、ブロックチェーン上で動くプログラムにより、既存の金融サービスと近い課題解決を実質的に実現しうるものです。既存の金融サービスと部分的に競合する可能性が高いといわれる一方、規制面やユーザビリティにはまだまだ課題も多く、既存の金融プレイヤーにとって、今後関係性を考えていくべきテーマになりうると言います。

ブロックチェーンは、今後の金融サービスの未来を語る上で、ますます目が離せない領域となりそうです。
【お話を伺った方】
株式会社LayerX 執行役員・LayerX Labs 所長 中村龍矢さん
研究開発組織LayerX Labsの所長として、デジタル通貨・決済システム、インターネット投票、スマートシティといった次世代の社会インフラにおけるデータのセキュリティ・プライバシーの課題解決に向け、特に秘匿化技術の開発に注力。技術開発や、民間企業・行政との共同プロジェクトを分野横断的に手掛ける。技術研究は学術論文として国内外の学会にて発表している。
また、パブリックブロックチェーン分野でも活動。Ethereum プロトコルの脆弱性を複数発見し、仕様策定に貢献しており、日本拠点のチームとしては初めてEthereum Foundationのグラントを獲得した。
2020年度IPA未踏IT人材発掘・育成事業に採択。
(株式会社LayerX)https://layerx.co.jp


※本記事の内容には「Octo Knot」独自の見解が含まれており、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。

新卒で都市銀行に入行し、個人向けコンサルティング業務に従事したのち、ネット専業銀行に転職。送金などの決済ビジネスを中心に、他企業とのアライアンス拡大や、新規サービス企画、プロモーションなどを幅広く経験。その後、消費者の変化や規制緩和といった環境変化を体感するなかで、業界を超えたオープンな金融の仕組み作りに関心を抱き、NTTデータへ。現在は、金融業界のさらなるTransformationへ貢献すべく、「金融を通じて世の中をより良くする」を志に、金融×デジタルを切り口とした技術・ビジネス動向の研究や、社内外への情報発信などに取り組んでいる。

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