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いまだからこそ学び直したい、新規事業開発の歩き方【後編】

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「何から始めればいいか分からない」「やってみたけど上手くいかない」・・・新規事業を取り巻くさまざまな悩み。そんなお悩みに応えるべく、数々の新規事業開発をプロデュースするRelicのスペシャリストと、NTTデータで新規事業開発に携わるイノベーターが「新規事業を上手に進めるポイント」をテーマに語り合いました。意外と見落としがちな“既存事業を抱える企業”の特性にも着目して「企業内の新規事業」を成功に導く秘訣に迫ります!

本記事は2022年6月22日に株式会社Relicとオクトノット編集部(株式会社NTTデータ)が共催したウェビナー「いまだからこそ学び直したい、新規事業開発の歩き方」の内容を一部再構成の上、記事化したものです。

前編では新規事業の基本的な考え方をおさらいしながら、実際の現場でぶつかるリアルな悩みとして「人材・チーム」「社内の動かし方」「アイデア創発」を取り上げ、課題解決のポイントを語ります。

後編では新規事業で「すべきこと・すべきでないこと」を押さえながら、NTTデータが立ち上げた貿易DXのプラットフォーム『TradeWaltz』の立役者に新規事業を上手に進める秘訣を伺います。

そうは言っても難しいのが新規事業(前編からの続き)

すべきこと・すべきでないこと

── アイデアの種となる課題はどのように把握していくのがよいでしょうか。

小森さん 課題の調査方法には大きく分けて、アンケートなどの定量調査とインタビューなどの定性調査があります。アンケートから手を付ける方が多いのですが、初期段階ではインタビューを通じて「このお客さんはこういうことに困っているのではないか」という仮説をしっかり立てることが重要だと思います。

もう1つのポイントは、聞きやすい人・会いやすい人に聞くのか、それとも聞くべき人・会うべき人に会うのかです。当然後者なのですが、切羽詰まると手軽にできるほうに流れてしまいがちです。ここは初期段階ではこだわりたいところですね。

牧野さん 私もいろいろやってみて、一番大事なのは実際にターゲットの方々の声を聞き続けることだと感じています。ニーズは変わっていきますので、最初に聞いて終わりではなくて、聞き続ける。私たちのビジネスでも「聞き続ける基盤」を鎌倉地域などに設けています。

最初は「ここが使いにくい」といった操作面での意見が多く出てくるのだろうと思っていました。でも実際には「これを使ってこんなことがしたい」「あんなことができたら嬉しい」など、我々には思いつかないアイデアがどんどん出てきました。大きな気づきでしたね。

小森さん 得られたニーズを検証する段階でも気を付けたいポイントがあると思っています。特に陥りやすいのは検証のやり方です。プロトタイピングの種類には、ペーパープロトと呼ばれる手書きで作ったような試作品もあれば、モックアップと呼ばれる外面は完成品に近い試作品までいろいろあります。

プロトタイピングというと開発を伴う活動をイメージしがちですが、新規事業開発ではむしろ開発を伴わないスピーディなプロトタイピングが重要です。でも、いきなり時間とお金をかけて本格的なプロダクトを開発するケースも割と多いのではないでしょうか。

牧野さん まさにそうですね。IT企業でよくありがちなのが、新しいアイデアが出たときに「機能的にどうやって実現するのか」に時間をかけてしまうケースです。初期段階ではアーキテクチャーの詳細化は必要なくて、裏側は手動でやってもいいと思うんです。お客様からしたら、最後にきちんと自動化されていればいいわけですから。これはIT屋の悲しい性でもありますね。

トレードワルツに学ぶ 新規事業を進める秘訣

── 産官学連携のオールジャパンで取り組む貿易DXのスタートアップである株式会社トレードワルツは、もともとNTTデータの新規事業としてスタートしました。取締役CFOを務める河村さんは企業内新規事業を実体験されてきたわけですが、どのような経緯で事業を立ち上げたのでしょうか。

河村さん 貿易は1つの取引に数十枚のドキュメントが飛び交い、しかも紙やFAXといったアナログな手段が用いられている非効率な世界です。特に日本および東アジアの地域は、ほかの諸外国と比べて貿易に長い時間がかかっています。EUでは1日で終わるような取引に1か月以上かかることもあるのが現状です。

これは日本の競争力強化のために解決すべき課題です。私たちはブロックチェーン技術の活用により、貿易に関わる企業間のコミュニケーションをデジタル化できないかと考えました。そうしてスタートした新規事業が、一気通貫で貿易情報を共有できる貿易完全電子化のプラットフォーム『TradeWaltz』です。

事業には総合商社、物流会社、保険会社、銀行などの貿易業務のステークホルダーに加えて、東京大学やITの知見を持ったNTTデータが資本参加しています。日本の将来的なユニコーン企業53社のうちの1社に選ばれるなど、対外的にも評価をいただけるようになってきています。

【図表2】TradeWaltzが解決をめざす課題

── 経験者として、企業内新規事業の難しさはどのようなところにあるとお考えですか。

河村さん やはり事業化の投資承認を得る段階でつまずくことは多いと思います。大企業は研究開発費も潤沢ですし、広報的な価値もある実証実験までは比較的社内の後押しを得やすいのではないでしょうか。

ただ、事業化するので投資してください、という段階になった途端、いろいろなことを言われるわけです。新規事業はハイリスクが前提であるにもかかわらず「確実に黒字になるプランを持ってこい」とかですね。

でも、私が新規事業に取り組む方々に一番伝えたいのは「事業化の投資承認をもらうときに志を曲げないこと」です。確実で安心なプランに変更すれば承認は得やすくなるかもしれませんが、これはやってはいけません。

── それはなぜでしょうか。

河村さん ミニマムで黒字化できるような事業計画に矮小化してスタートしてしまうと、その後の成長段階でアクセルを踏めなくなるからです。黒字ではあっても、あまり成長せず事業規模が小さいサービスになってしまいます。大企業のなかには結構あるのではないでしょうか。

これは、果たして大企業でやるべき新規事業なのでしょうか。スタートアップはそもそもJカーブで成長しますので、本質的にハイリスク・ハイリターンです。昨今はスタートアップでさえ100億円レベルの赤字を覚悟して事業を作るような時代です。大企業は志を曲げずに、粘り強く、適正な投資承認を取りに行くということが、前提として持っておきたい心構えですね。

── 一方で、企業の制度・風土をすぐに変えることは難しいですよね。そういった心構えを持ちつつ、既存の枠組みのなかで投資承認を得るためにできる工夫はありますか。

河村さん 投資を承認する側の頭になって考えることがベースになります。まず、その事業は自社でなければ成功しない事業かを自分に問うてみてください。これがNOだったら、起業した方がいいと思います。

いまやベンチャー企業の資金力・人材力は大企業に引けを取らないレベルになっています。そうなると、大企業の強みは信用力やアセットしかありません。トレードワルツの場合、貿易という巨大な世界のなかで政府も含めたさまざまなステークホルダーとの折衝が必要でしたので、大企業が取り組む利点があると考えました。

── 大企業が不得手なスピードやコストを補っていく方法はありますか。

河村さん 社外で一緒に汗をかいてくれる仲間を探すことがポイントの1つです。事業を始めてしまうと、営業 開発、運用、マーケティング、バックオフィスなど、さまざまな人材が必要になります。投資承認をする立場に立つと、多くの人材をハイリスクな新規事業に突っ込むのはかなり難しいジャッジです。

トレードワルツは7社のジョイントベンチャーという形でスタートしましたが、はじめから「最強のチームを作る」ということを目指して、出向のスキームなども考えました。社外の人が賛同してくれてリソースの提供も受けることができれば、人材面の問題を解消できるうえに、事業の質が良いことの証明にもなります。

── 出資などの資金面でもポジティブに働きそうですね。

河村さん はい、一緒にリスクテイクしてくれる企業を連れてくるのは、投資承認者を説得する際に非常に強力です。一緒にお金を出してくれるということは、投資承認する側にとっては大きな安心材料になります。社内を説得する方法としてはお勧めです。

ベンチャーの世界では、出資者に声をかけたり、交渉を主導したりするリード投資家と呼ばれる人の信用力が高いと、投資家がどんどん集まってくるという構図がありますが、それと似たようなものですね。

── そうした巻き込みのスタートには、やはり志が必要だと。

河村さん まず高い志を掲げる。そうすると社外・社内から協力者が集まってきます。さらにお金を出すと言ってくれる人たちが集まる。そうすると事業計画の達成確率が上がってきて、投資承認が得られるということになります。

このサイクルは事業を開始した後も一緒です。トップラインを上げようと思ったら常に投資が先行しますので、これをひたすら繰り返していくことが新規事業を成功させるノウハウとして非常に重要かなと考えております。

もちろん、フェーズによっていろいろなスキルも必要にはなりますが、共通して言えるのは「とにかくやりきるんだ」という、気合と根性が一番大事かなと思います。

【図表3】新規事業を推し進めるためのサイクル

大丸さん 新規事業に必要なスキルには、総合格闘技のように打撃も寝技も関節技も何でも含まれるのですが、私も大切なことは「自信を持って自分の意見を言えるか」という点かなと思っています。

経営陣から何と言われようと自分の信じている仮説を言い続ける、一部のお客様に否定されながらも「自分はここに価値があると思っているんです」ということを伝え続ける、そういうことですよね。

牧野さん 熱意や志、めげない心。泥くさいですが、大事ですよね。必要なスキルは企画が走り出せば、自然と身についてきます。でも、何を言われようと実現させたいんだという心の強さは、後からはなかなか身につきにくいものです。新規事業開発のチームを作る時にも、そういった人材が多いと心強いですね。

── 本日はありがとうございました。RelicやNTTデータ、トレードワルツにはさまざまな知見がありますので、新規事業や協業にご関心のある方はぜひお声かけください。

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<プロフィール>

大丸 徹也 さん
株式会社Relic 取締役 インキュベーション事業本部長
兼 株式会社CAMPFIRE ENjiNE 代表取締役

慶應義塾大学卒業後、フューチャーアーキテクトにてITコンサルティングやシステム開発のPMを多数経験し、大手流通小売業の大規模システム刷新プロジェクトでは要件定義から保守/運用までプロジェクトリーダーとして推進。
その後、DeNAに入社し、主にEC事業領域での新規事業や大手小売業とのオープンイノベーションによる新規事業の運営責任者を歴任。2015年に独立し、大手出版社や大手IT/通信事業者、EC事業者やスタートアップへのコンサルティングやハンズオンでの経営支援など幅広く活動。
2016年に株式会社Relicに参画し、取締役COOに就任。主に大企業を中心としたクライアントやパートナー企業の新規事業開発やオープンイノベーションの支援、組織・人事制度の改革やインキュベーションプログラムの設計等において多数の実績を持つ。2021年より、現職。

小森 拓郎 さん
株式会社Relic 執行役員 ストラテジックイノベーション事業部長

法政大学卒業後、ミスミグループ本社にて仕入先/子会社メーカーの生産革新プロジェクトに加え、国内外複数の製造業の支援や海外工場や国内新組織の立上げの成果により、全社表彰2回の実績。その後、外資系コンサルティングファームのアクセンチュアにて製造業や流通業のクライアントに対する人事・組織系のコンサルティングに従事し、グローバルブランドにおける新職種の業務プロセス/導入プログラム設計及びマネジメントや、大手製造業における人材評価/育成スキーム構築、組織設計/構築支援などを主導。技術士資格保有(経営工学部門)。2018年、株式会社Relicに参画し、インキュベーション事業部のマネージャーとして大企業~スタートアップ企業まで幅広いクライアント・パートナー企業における新規事業開発やオープンイノベーションの支援や人材開発等において多数の実績を築きつつ、知見や手法の体系化・標準化を推進。2021年より、現職。

河村 謙 さん
株式会社トレードワルツ 取締役CFO兼コーポレート戦略本部長

兼 株式会社NTTデータ エグゼクティブビジネスディベロッパー
早稲田大学大学院修士課程修了後、NTTデータに入社。システム開発、ソリューション企画開発等のPMを多数経験したのち、2018年よりデジタル戦略推進部ブロックチェーンチームに参加。
ブロックチェーンを活用した貿易デジタルプラットフォーム「TradeWaltz」の事業開発リーダーとしてプロジェクトを推進。NTTデータ、三菱商事、豊田通商を含む大手企業7社のジョイントベンチャーとして株式会社トレードワルツを創業。
本事業をオールジャパンでの取り組みとすべく、東大IPCや大手物流企業からの資本参加を実現。2020年より現職。

牧野 司 さん
NTTデータ 第三金融事業本部 しんきん事業部 事業推進担当 部長

横浜国立大学卒業後、NTTデータ入社。日本デビットカード推進協議会や日本ICカード推進協議会にて大手金融機関とともにALL JAPANの新規ペイメントインフラを企画・構築。
その後メガバンク海外支店に銀行員として出向し現地日系企業や外資企業向け金融商品の企画・営業を経験。帰国後、NTTデータ海外子会社とともに欧州金融機関向けに同社金融ソリューションの現地営業販売に従事。
その後メガバンクや大手クレジットカード会社向けDX営業・コンサルに従事したのち、非構造化データに着目したデータ活用サービス「ABLER」を企画立上げ、金融機関だけでなく製造業など様々なインダストリーに展開。
現在はシニア向け健康寿命延伸サービス「ミナスタ!」を立上げ。シニアのデジタルデバイドを解消し、自治体・金融機関・企業など地域社会と高齢者を金融・非金融の垣根を越えてつなぐことによる超高齢社会の社会課題解決を目指し活動中。

※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
※感染防止対策を講じた上で取材を行っています 。

新卒で都市銀行に入行し、個人向けコンサルティング業務に従事したのち、ネット専業銀行に転職。決済ビジネスを中心に、新規サービス企画や他企業との提携拡大、プロモーションなどを幅広く経験。その後、消費者嗜好や規制緩和などの環境変化を体感する中で、業界を超えたオープンな金融の仕組み作りに関心を抱き、NTTデータへ。
現在は金融業界のさらなるTransformationへ貢献すべく「金融を通じて世の中をより良くする」を志に、金融×デジタルを切り口としたトレンド調査や情報発信などに取り組む。CFP®・1級ファイナンシャルプランニング技能士として金融教育にも興味あり。

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