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いまだからこそ学び直したい、新規事業開発の歩き方【前編】

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「何から始めればいいか分からない」「やってみたけど上手くいかない」・・・新規事業を取り巻くさまざまな悩み。そんなお悩みに応えるべく、数々の新規事業開発をプロデュースするRelicのスペシャリストと、NTTデータで新規事業開発に携わるイノベーターが「新規事業を上手に進めるポイント」をテーマに語り合いました。意外と見落としがちな“既存事業を抱える企業”の特性にも着目して「企業内の新規事業」を成功に導く秘訣に迫ります!

本記事は2022年6月22日に株式会社Relicとオクトノット編集部(株式会社NTTデータ)が共催したウェビナー「いまだからこそ学び直したい、新規事業開発の歩き方」の内容を一部再構成の上、記事化したものです。

前編では新規事業の基本的な考え方をおさらいしながら、実際の現場でぶつかるリアルな悩みとして「人材・チーム」「社内の動かし方」「アイデア創発」を取り上げ、課題解決のポイントを語ります。

後編では新規事業で「すべきこと・すべきでないこと」を押さえながら、NTTデータが立ち上げた貿易DXのプラットフォーム『TradeWaltz』の立役者に新規事業を上手に進める秘訣を伺います。

新規事業開発 きほんの“き”

── 大丸さんは、企業の新規事業開発を支援する株式会社Relicで、主にゼロイチフェーズ(※)を専門とするインキュベーション事業本部の責任者を務めていらっしゃいます。企業が新規事業開発に取り組む理由について、どのようにお考えでしょうか。

(※)ゼロイチフェーズ:新規事業の戦略/方針策定~事業アイデア創出、検証、事業化といった、なにもない状態からビジネスを立ち上げ、文字通り初めの一歩を踏み出し軌道に乗せるフェーズのこと。

大丸さん どのような事業もいつか衰退するリスクをはらんでいるためです。売上が右肩上がりで伸びる時期を経て、最終的には事業自体が衰退を迎えていく。これは過去の統計からも明らかです。どんな企業も既存事業の衰退期を待たず、投資余力があるうちに継続的に新規事業に挑戦していかなければなりません

日本は世界有数の課題先進国と言われています。超高齢化社会、労働人口の減少、貧富の格差など、ネガティブなキーワードばかりですが、裏を返せば、新規事業の種となる課題の宝庫でもあるわけです。すべての企業が新規事業に取り組むべきですし、日本にはその機会があると考えています。

── 実際に新規事業に取り組む企業も多いと思いますが、なかなか上手くいかないこともあります。新規事業と既存事業との違いはどこにあるのでしょうか。

大丸さん 不確実性の高さが最も大きな違いだと考えますが、不確実性が内在する場面は事業構想面と組織・実行面に分解することができます。

まず、事業構想面です。新規事業では顧客やマーケットが不明確です。特に一番大きなポイントはデータがないことです。既存事業ではデータを分析して新たな施策を考えることができますが、新規事業にはそもそもデータがありません。まずはトライしてデータを溜めるところから始まります。そして溜まったデータから新たな施策を生み出していくという、まったく異なるアプローチを取らなければなりません

また、事業構想が不確実であるがゆえに、新規事業を成功させるためには組織・実行面でも不確実性を前提として動かねばなりません。そこで必要になるのが仮説思考です。分析思考ではなく、自分が考えた仮説を立てて検証し、新たな仮説をまた磨いていく、こういったプロセスが必要になってきます

── データがない中でトライを重ねていくために、まずはどこから手を付けるべきでしょうか。

大丸さん 新規事業の第一歩はアイデア創出です。アイデアはどうしても成功可能性が高いかどうかが議論されがちなのですが、データがないので、どんなに既存事業の経験が長い方であっても精度の高い成否の評価は難しいと考えています。

そこで、まずはプロトタイプをクイックに構築して、それをお客様に当てながらフィードバックをもらうことが重要です。このフィードバックがデータになるわけです。

色んな方にぶつけてデータを集めて、事業アイデアを前に進めていく。これが新規事業開発の王道であり、このサイクルをスピーディに繰り返すことが、新規事業開発を成功に導くための要点だと考えています。

── アイデアを磨いていく上でのポイントはありますか。

大丸さん リーンキャンバス(Lean Canvas ※)と呼ばれる新規事業のビジネスモデルを可視化するためのフレームワークをご存知の方もいると思いますが、最初から9つ全ての要素を検討/検証するのではなく、顧客と課題に向き合うことが成功の秘訣だと考えています。

以前、新規事業開発の失敗例を調査したのですが、ほとんどのケースで想定していた「顧客と課題」が存在していないことが分かりました。どれだけ良いプロダクトを作っても、それを欲しがる人がいなければ(顧客と課題が存在しなければ)意味がありません。

ただ、こうした教科書的な話をインプットして臨んでも、実際の現場になるとさまざまな課題が発生してくるのが新規事業の難しさでもあります。

(※)リーンキャンバス:新規事業のビジネスモデルを可視化するフレームワーク。「顧客セグメント」や「独自の価値提案」、「ソリューション」などの9つの要素から構成される。

そうは言っても難しいのが新規事業

人材・チームをどう作るか

── 小森さんはRelicで新規事業開発における企業の戦略や仕組み作りをミッションとして活動されていらっしゃいます。実際の現場でよく聞く課題にはどのようなものがあるでしょうか。

小森さん 最初の段階でよく発生するのは、新規事業開発の人材・チームに関する課題ですね。どんな人材を集めて、どのように活動を進めていくのかです。アイデアやプランを重視する方も多いですが、新規事業においては実はチーム力のほうが重要だと言われています。

新規事業は1,000個のうち3個しか成功しない、いわば「センミツ」と言われるくらい失敗が多いので、初期のアイデアやプランはそもそもあまり当てになりません。ですから、それよりもむしろ、不確実な新規事業開発をやり通せるチームなのかどうかが大事になってきます。

── チームを組成する上では、どのようなところがポイントになりますか。

小森さん 強いチームを作るために、3つポイントがあります。まずは「少数精鋭」です。人数は多いほうがいいと思う方もいるかもしれませんが、多ければ多いほどコミュニケーションも大変になります。初期段階では3人程度のチームが最適だと考えています。

2つ目は「一貫性と網羅性」です。何のためにこの事業を進めるのか、具体的にどのような事業を作るのか、どのように進めるのか、このWhy、What、Howを可視化して、チームで共有していくことがポイントになります。

そして3つ目が「フィットとコミットメント」です。何のために事業をやって誰を喜ばせたいのかという目的への共感がフィット、誰が何と言おうと信念でやり通すという姿勢がコミットメントです。2つ目で述べたWhyと深く関連するので、リーダーがしっかり考えて発信していくことが大切です。

── どのような人材像が新規事業に適しているのでしょうか。

小森さん スキル・経験はあるに越したことはないですが、それよりもフィットやコミットメントを重視することが大切です。フィットしている人のスキル向上は可能ですが、スキルや経験が豊富でも、新規事業のゴールや世界観に共感していない人は採用しない方がいいですね。チームの崩壊を招く可能性があります。

社内をどう動かすか

小森さん 牧野さんはミナスタ(※)をはじめ、NTTデータでさまざまな新規事業に携わっていらっしゃいますが、どんなところに新規事業の難しさを感じていますか。

(※)ミナスタ:声で操作ができるスマートディスプレイ「ボイスタ!」と健康活動でポイントが貯まるスマホアプリ「ゴースタ!」を組み合わせたシニア向けサービス。
https://www.nttdata-voista.com/
牧野さん 新規事業の起点はボトムアップやトップダウンなどいろいろあると思いますが、スタートしてからまず直面するのは社内のステークホルダーをどうやって動かしていくかです。ここは苦労しますね。

小森さん 最初の勢いをどう作るかは結構大事ですよね。

牧野さん そうですね。方法論はいろいろあると思いますが、本当に大事なのは熱意です。社内から「こいつら、また企画を持ってきたな」と鬱陶しがられるくらいのほうがちょうどいいと思います。「センミツ」の話もありましたが、要するに997個は失敗するわけで、ここでめげているようでは始まりません。3のほうにとてつもない価値を置いて、自分自身もチーム全体もそこにやりがいを見出すようにしていくことが大切ですね。

大丸さん 経営層からは「本当にお客様がいるのか」という問いが必ずと言っていいほど出てくると思います。でもそれに対して数字を示してもなかなかリアリティがないんですよね。そんなときは「10人中8人がいいと答えた」と示すより、熱狂的に共感してくれている方のインタビュー動画などを見せたほうが効果的だったりします。

そうすると「この人本当に欲しがっているんだな」と感じてもらえて、社内の合意形成がうまくいく。そういう場面をよく見てきました。経営層を納得させるためにはいろいろなアプローチがあると思いますが、熱量は大事な要素ですね。

牧野さん あとはファーストユーザーや共感してくれるパートナーがいる状態を作ることも大切ですね。それに加えて、将来的にどこで稼ぐかを語れることも必要だと考えています。例えば、最初は事業規模が小さくても、事業を通じて集めたデータを活用したり、プラットフォームビジネスと連動するといった展望ですね。そこまで含めて話ができると、共感してくれる味方が増えていくと思います。

小森さん 新規事業では、新しいがゆえに社内で理解されないという声もよく聞きますが、経営層にも納得してもらえるような伝え方は、やはりポイントになりますよね。

牧野さん そうですね。新規事業開発というとキラキラしたイメージを持たれがちですが、泥臭い取り組みもセットでやらないと共感は得られないと思うんです。

あと、新規事業って当然失敗しまくるんですよね。それで失敗すると社内からは「やっぱりダメだったじゃないか」と言われることもあると思います。

でも、失敗から得られる発見やアイデア、コネクションなどもあるはずです。だから、社内を説得する最初の段階でそうした副次効果もしっかり伝えることを大切にしています

アイデアはどこから生まれるか

小森さん アイデアという言葉がありましたが、Relicでは新規事業におけるアイデア創出のパターンは4つあると考えています。

構想の起点として「提供価値や解決策から考えるアプローチ」と「お客様の課題から考えるアプローチ」の2パターン。また、課題の定義として「健全な状態との差分を埋める、マイナスを0にする考え方」と「理想との差分を埋める、0をプラスにしていくという考え方」の2パターン。

これらの組み合わせがアイデア創出の4パターンになります(図表1参照)。どこを起点にしても、顧客と課題が重要である点は同じです。顧客と課題はどちらを先に考えても大丈夫です。

【図表1】事業アイデア創出の起点

── アイデアの起点となる「顧客」ですが、BtoBtoCのようなビジネスの場合は誰を見るべきでしょうか。

牧野さん 新しい価値を生み出すなら、エンドユーザーの視点で考えるべきではないでしょうか。さらには、サービス・商品の利用という視点から一度離れて、もう少し大きな視点で生活者を捉えるといいと思います。ひょっとすると、最初は自社の法人顧客が関係しない場合もあるかもしれません。実はミナスタも、最初は金融機関へのサービス提供ありきではなく、シニアという大きな単位から始めています。

小森さん エンドユーザー(BtoBtoCのC)が使わない商品・サービスは自社の法人顧客(BtoBtoCの中間のB)も導入しませんから、優先的に検証すべきはやはりエンドユーザーになりますよね。もちろん、最終的には自社の法人顧客の導入意義にもしっかりと目を向けていくことは大切です。

牧野さんがアイデアを発想したり、形にしていったりするときに意識されていることはありますか。

牧野さん 少数精鋭という話がありましたが、特定領域に詳しいエースだけを集めてもなかなかアイデアは膨らまないので、多種多様な人材を集めることが大事かなと思っています。

あとはアイデアを形にしていくときには「自分がやりたいかどうか」という熱量も意識していますね。例えば、社内でビジネスコンテストをやっている会社もあると思いますが、発表して終わりというケースも多いのではないでしょうか。もったいないですよね。

以前、私が関わったビジネスコンテストでは、参加者に「自分がやりたいこと」という前提条件を設定させてもらいました。優秀なアイデアは手弁当で継続検討してもらうんです。本人が携わっている事業とも結びつきやすく、熱意のある人が継続的に取り組むことで社内認知も広まりやすい。周りの理解も得やすくなっていきます。

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<プロフィール>

大丸 徹也 さん
株式会社Relic 取締役 インキュベーション事業本部長
兼 株式会社CAMPFIRE ENjiNE 代表取締役

慶應義塾大学卒業後、フューチャーアーキテクトにてITコンサルティングやシステム開発のPMを多数経験し、大手流通小売業の大規模システム刷新プロジェクトでは要件定義から保守/運用までプロジェクトリーダーとして推進。
その後、DeNAに入社し、主にEC事業領域での新規事業や大手小売業とのオープンイノベーションによる新規事業の運営責任者を歴任。2015年に独立し、大手出版社や大手IT/通信事業者、EC事業者やスタートアップへのコンサルティングやハンズオンでの経営支援など幅広く活動。
2016年に株式会社Relicに参画し、取締役COOに就任。主に大企業を中心としたクライアントやパートナー企業の新規事業開発やオープンイノベーションの支援、組織・人事制度の改革やインキュベーションプログラムの設計等において多数の実績を持つ。2021年より、現職。

小森 拓郎 さん
株式会社Relic 執行役員 ストラテジックイノベーション事業部長

法政大学卒業後、ミスミグループ本社にて仕入先/子会社メーカーの生産革新プロジェクトに加え、国内外複数の製造業の支援や海外工場や国内新組織の立上げの成果により、全社表彰2回の実績。その後、外資系コンサルティングファームのアクセンチュアにて製造業や流通業のクライアントに対する人事・組織系のコンサルティングに従事し、グローバルブランドにおける新職種の業務プロセス/導入プログラム設計及びマネジメントや、大手製造業における人材評価/育成スキーム構築、組織設計/構築支援などを主導。技術士資格保有(経営工学部門)。2018年、株式会社Relicに参画し、インキュベーション事業部のマネージャーとして大企業~スタートアップ企業まで幅広いクライアント・パートナー企業における新規事業開発やオープンイノベーションの支援や人材開発等において多数の実績を築きつつ、知見や手法の体系化・標準化を推進。2021年より、現職。

河村 謙 さん
株式会社トレードワルツ 取締役CFO兼コーポレート戦略本部長

兼 株式会社NTTデータ エグゼクティブビジネスディベロッパー
早稲田大学大学院修士課程修了後、NTTデータに入社。システム開発、ソリューション企画開発等のPMを多数経験したのち、2018年よりデジタル戦略推進部ブロックチェーンチームに参加。
ブロックチェーンを活用した貿易デジタルプラットフォーム「TradeWaltz」の事業開発リーダーとしてプロジェクトを推進。NTTデータ、三菱商事、豊田通商を含む大手企業7社のジョイントベンチャーとして株式会社トレードワルツを創業。
本事業をオールジャパンでの取り組みとすべく、東大IPCや大手物流企業からの資本参加を実現。2020年より現職。

牧野 司 さん
NTTデータ 第三金融事業本部 しんきん事業部 事業推進担当 部長

横浜国立大学卒業後、NTTデータ入社。日本デビットカード推進協議会や日本ICカード推進協議会にて大手金融機関とともにALL JAPANの新規ペイメントインフラを企画・構築。
その後メガバンク海外支店に銀行員として出向し現地日系企業や外資企業向け金融商品の企画・営業を経験。帰国後、NTTデータ海外子会社とともに欧州金融機関向けに同社金融ソリューションの現地営業販売に従事。
その後メガバンクや大手クレジットカード会社向けDX営業・コンサルに従事したのち、非構造化データに着目したデータ活用サービス「ABLER」を企画立上げ、金融機関だけでなく製造業など様々なインダストリーに展開。
現在はシニア向け健康寿命延伸サービス「ミナスタ!」を立上げ。シニアのデジタルデバイドを解消し、自治体・金融機関・企業など地域社会と高齢者を金融・非金融の垣根を越えてつなぐことによる超高齢社会の社会課題解決を目指し活動中。

※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
※感染防止対策を講じた上で取材を行っています 。

新卒で都市銀行に入行し、個人向けコンサルティング業務に従事したのち、ネット専業銀行に転職。決済ビジネスを中心に、新規サービス企画や他企業との提携拡大、プロモーションなどを幅広く経験。その後、消費者嗜好や規制緩和などの環境変化を体感する中で、業界を超えたオープンな金融の仕組み作りに関心を抱き、NTTデータへ。
現在は金融業界のさらなるTransformationへ貢献すべく「金融を通じて世の中をより良くする」を志に、金融×デジタルを切り口としたトレンド調査や情報発信などに取り組む。CFP®・1級ファイナンシャルプランニング技能士として金融教育にも興味あり。

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