「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、未来の金融を描く方々の想いや新規事業の企画に役立つ情報を発信!

金融が変われば、社会も変わる!

挑戦者と語る

本音で語る! 日本企業は人材確保にどう立ち向かうべきか

画像

減少が続く日本の労働力人口。あらゆる企業が経験者採用の受け入れに積極的に取り組み、転職市場が活発化するなかで人材の奪い合いは激化しています。企業が優秀な人材を確保するためには何が必要なのか――。スペシャルゲストに横浜銀行 代表取締役常務執行役員の小野寺伸夫さんをお招きし、人材確保・育成に挑むNTTデータの近藤博一さんが、お話を伺いました。

近藤さん まず、銀行業界の人材確保の現状についてお話を伺います。「銀行業界は離職者が増え、人材確保に苦労している」というニュースをよく見ますが、実際に人材確保の難しさは感じていますか?

小野寺さん もともと地方銀行は「地元に貢献したい」というモチベーションで入行する方が多く、離職率は高くありませんでした。5年以内の離職率も一昔前は2割くらいです。ところが、最近ではこれが約3割にまで増えています。

この数字だけ見ると、確かに離職率が高くなっているようにも思えます。ですが、銀行業界以外に目を向ければ3~4割という数字自体は決して特別ではありません。私としては転職市場が活発化するなかで、銀行もようやく他の企業並みになってきたのかな、という感覚です。

とはいっても、就職市場で銀行業界の人気が下がってきていることも事実です。5年ほど前までは就職希望ランキングの上位には複数の銀行が名を連ねていました。それが今では大きく順位を落とし、調査会社によってはトップ10に銀行が1行も入っていないこともあります。

“銀行業界の離職率が高い”は本当か?

小野寺さん 首都圏を離れると人材確保の状況はさらに厳しくなっていると思います。30分ほど電車に乗れば比較的大きな地方都市に通勤できるような地域では、人材が都市部に流れてしまいます。そのような地域では思ったように人材が採れず、店舗網の維持に苦戦している銀行もあると聞きます。

横浜銀行は労働市場が活発な首都圏に拠点を構えていますので、採用環境には比較的恵まれています。今年は約130人、来年は約230人が新卒として入行予定です。

近藤さん どちらかというと、高齢の方が多くネットシフトを進めにくい状況にある地方のほうが、リアルな人手が必要ですよね……。

IT業界は人材の流動性が高いイメージがありますが、NTTデータは意外と離職率が低いんです。でも、人材確保の課題がないかというとそうではなく、スキルの高い人材がGAFAなどの外資系企業に引き抜かれてしまうということも起こります。

頭数として人材が足りない場合、今やAIのようなデジタル技術を使えば量の部分は補えます。それよりも、いかに適材適所に人を配置できるか、質の部分が重要だと思っています。

私たちのチームでは、社員の資質をスコア化して、人材タイプや職場でパフォーマンスを発揮するモデルを作成し、よりマッチした仕事にアサインしていくという取り組みも実施しています。

小野寺さん 私たちも「人的資本経営」という課題に向き合い、この4月に「グループ人財ポリシー」として3つのテーマを掲げました。

まずは「人づくり」として、研修や外部教育課程を通じてスキルアップを支援する。次に「組織づくり」として、一人一人のスキル・タレントを見える化し、適材適所に配置する。最後に「環境づくり」として、個人の処遇も含めた働き方の多様化を進める。

この3つのテーマを組み合わせ、個々人のエンゲージメントとスキルを高めていきます。社員一人一人のパフォーマンスを高めることでグループ全体の業績に貢献する、そういう戦略をまとめて開示しています。それをいかにグループ全体に浸透させていくかが、これからのフェーズになります。

近藤さん 経営レベルでポリシーを決めることはすごく大切ですよね。具体的な施策は現場の状況に応じて臨機応変に対応しますが、そのときに共通的な指針がないと全体としての整合性が取れなくなりますから。

人材確保のカギを握るキャリアの選択肢

近藤さん 今や転職が当たり前となり、人材確保はますます難しくなっています。私は、転職の動機として、心情的な理由だけでなく経済的な理由が大きく作用していると考えています。終身雇用制が崩れ、一つの会社にずっといることが必ずしも得ではなくなった。より高い報酬を提示してくれる会社が現れると「ちょっと移ってみようかな」という気持ちになりやすいのでしょう。

小野寺さん テレビコマーシャルやネット広告でも、働く方たちに向けて人材の「市場価値」を意識させるようなキャッチコピーがあふれていますよね。こういった状況のなかで、企業としては長期ビジョンを明確に示し、共有し、全員が同じ方向を向くように働きかけていくことが重要だと思います。

横浜銀行では「スモールキャラバン」と呼ばれる、頭取以下取締役が現場に行って若手社員や課長と話をする、いわゆるタウンミーティングを定期的に開いています。10月には自社の全社員に向けた会社説明会も開催しました。社長が当社の企業価値の向上に向けた取り組みについて説明したほか、グループ会社を含めた30人ほどの社員が社長と対面で直接質疑応答して、その模様はオンラインでも配信しました。

自社の社員に向けて情報発信をしていくことが、ロイヤリティ向上の第一歩。その上で個々人に「あなたが5年後・10年後になりたい姿を明確にして努力をすれば、会社はきちんとポストを用意しますよ」というコミットメントを示すことが重要だと思っています。

ところが、社外の人事コンサルタントには「今の若い人は5年先・10年先なんて考えません。3年先のビジョンを示さないとダメですよ」と言われました。私たちからすると、5年でも銀行業務の基礎が身に付くかどうか、というところですが……(苦笑)。

どうすればタイムパフォーマンスを重視する世代とのギャップを埋められるのか、これからの大きな課題です。

近藤さん 今までは1本の道筋があって、この道を通っていけば社員のスキルが上がり、組織としてのパフォーマンスも上がる、というものが見えていましたよね。それが今は○○さん向け、△△さん向けと一人一人別になっているので、管理職に大きな負担がかかっています。苦労する姿を見ているから、余計に若手社員は「課長になりたくない」と言い出す始末……(苦笑)。

小野寺さん メンバーシップ型の組織で働くことや、人事ローテーションでゼネラリストになるというキャリアのあり方にも疑問が投げかけられていると思います。専門的なスキルを身に付けたスペシャリストになって、自分の市場価値を高めたいという方が増えています。転職される方と実際に話してみても、専門職志向の方が多い傾向があると感じます。

横浜銀行ではそういった社会のトレンドも踏まえ、来年度に向けて人事制度の変革にチャレンジしているところです。課長や支店長を目指さなくともスキルを上げ、経験を積んでいけば処遇が上がっていく――。終身雇用とジョブ型をハイブリッドにした「日本版ジョブ型」ともいえるような制度を考えています。

近藤さん 確かに会社の中でキャリアの選択肢を広げることは大切ですね。「定番のルートを行く」のか「これまでと違うルートに行く」のかを選べるようにしておくと、転職しなくても新たな挑戦ができますから。

勤続年数が長い社員の中には「新しいことをやりたいけど、転職まではしたくない」という層が結構います。私は、社内でこうした層を集めた「デジタルタレントチーム」というチームを作っています。キャッチコピーは「NTTデータで最もNTTデータらしくないチーム」。そのくらい、チャレンジングな場を提供することを目指しています。

デジタルタレントチームは、NTTデータ内でいろいろ試してみて本当にダメだと思ったら転職すればいいと、ある意味開き直って作ったところもあります。「出ていきたい人は出ていってください」と言うと、案外出ていかない(笑)。

小野寺さん 私たちは社内のコミュニケーションも重要視していて、社内SNSにいろいろなグループを作っています。今後、こうしたコミュニティをもっともっと活性化させていきたいですね。

近藤さん 社内SNSは、とにかくリーダーが頻繁に発信することが大切ですよね。上の方がくだらないことをたくさん書くと少しずつ賑わってくる。私も相当がんばって書き込んでいるのですが「あいつは在宅勤務で会社に来ないのにチャットだけはうるさい」と言われます。「あれは計算してやっているんだ!」と、声を大にして言いたいです(笑)。

人材が循環する時代がやって来る

近藤さん キャリア採用についてもお伺いします。NTTデータの場合、新入社員の採用は比較的うまくいっているものの、即戦力となる中堅以上の人材採用には伸びしろがあると感じています。横浜銀行さんの状況はいかがでしょうか。

小野寺さん 目標の人数は確保できていませんが、キャリア採用は増えています。元々横浜銀行には人を受け入れる土壌というか文化があって、本部人員の2割強がキャリア採用で入行した社員になっています。ポジションもしっかり用意していて、本部の13部門のうち3部門で他社から来た方に部長を務めてもらっています。

近藤さん とても進んでいますね。横浜銀行さんはどのような人材を求めていますか。

小野寺さん グループとしては「地域社会・お客さまへの価値提供に強い誇りと自覚を持つとともに、常に変革マインドを持ち挑戦し続ける人財」をポリシーとして掲げています。変えようという意識を持って挑戦する、そういうマインドを持つ方に集まってほしいですね。

かつては銀行に入社する人材には、挑戦のメンタリティーが薄い人も少なくはなかったと思います。実際、当行の内定を辞退した学生に理由を聞くと「公務員試験に受かったので」と答える方も多かった。元来安定志向の方が多く、改革が進みにくい業界であったわけです。私たちはそのような意識を変えていかなければいけないですし、変えられる人材を求めています。NTTデータさんはどうですか。

近藤さん 私たちはお客様の業界が多岐にわたっているので、広く他業種・異職種の人材を求めています。もちろん何の脈絡もなく採用しているわけではなく、たとえば製造業のシステムを開発する部門は製造業に詳しい人材を採用する、といったように私たちのビジネスにつながる人材を求めています。必ずしもIT業界に詳しくなくても構いません。

今はDXの流れの中で、デジタル人材を求める企業が増えています。そういった観点では、逆にNTTデータから他業種の企業へと転職していくケースも少なくはありません。

小野寺さん 求人のマーケットが成熟している今では、転職サイトへ登録している銀行員も多いと思います。スカウトから「あなたの報酬はこれです」と突きつけられたときに一歩踏み出すかどうか、といった状況にあることは間違いありません。それはどこの会社も同じで、おそらくIT業界でも辞める人がいる一方で、入ってくる人もたくさんいるのでしょう。

横浜銀行から転職した方のなかには、転職後の新しい道をずっと進む方もいれば、アルムナイ採用(自社を退職した人の再雇用)で戻ってくる方もいます。

当行からシステムベンダーに転職して戻ってきた社員に、なぜ戻ってきたのかを聞いてみたところ、
「データの利活用がやりたくて転職したが、転職先の会社ではデータが散らかっていてとても利活用できる状態ではなかった。銀行のデータの量、揃え方、質とは比べものにならなかったので戻ってきた」
と言うんです。外に出て初めて見えてくる、銀行の強みもあるということです。

銀行業界も、視点を変えると面白みがある仕事があるのだと、改めて気づかされました。

近藤さん 確かに分析屋さんからすると銀行の持っているデータは宝の山で、のどから手が出るほど欲しい。そのような内情を知っている方にとっては、戻ってくる動機になりますよね。

小野寺さん 一度転職した方が戻ってくるという流れは最近始まったばかりなので、今は転職する方のほうが多くなっています。でも、もう少し時間が経てば循環してまた戻ってくる。そのように人材が流動するのが当たり前になる時代が来ると期待しています。

人を育てる企業に人は集まる

近藤さん 今後、優秀な人材を獲得していくためにはどうするべきなのでしょうか。

小野寺さん 辞めてしまうかもしれないという前提があるからといって教育しないのではなく、横浜銀行ではしっかりとした金融マンを育てることに力を入れています。キャリア採用も大事ですが、やはりプロパーを育てるのが本筋だと思います。

デジタル人材の話がありましたが、私たちもIT専門職として理系の新卒採用を強化しています。さらに既存の社員に対しても外部のコンサル会社の力を借りて、アイディア出しから要件定義、プログラムを組むところまで学べる「DXアカデミー」という人材育成プログラムを始めました。

さらに希望する社員には外部のオンライン学習プラットサービスを自由に利用して、スキルアップが図れるようにしています。

人をしっかり育成しようとする企業には人が集まる外から見て魅力を感じない会社には、誰も入りたいとは思いませんよね。

近藤さん いずれ転職すると分かっていても育てるというのは、全く同意見です。今後も転職が活発化することは間違いありません。私のデジタルタレントチームでも挑戦の機会をどんどん与え、チームメンバが一生懸命がんばっています。そこで育って力をつけたら自由に外に出てもらって、そのうちの何人かが外でさらに力をつけて戻ってきてくれたらいい。

そういう形で事業を回していければいいと思っています。これを私はプロ野球チームになぞらえて「広島カープ方式」と呼んでます(笑)。若いうちからチャンスをもらって育成された選手はやがてフリーエージェント宣言をして、メジャーリーグ等に旅立っていくんだけれど、世界で大きくなってまた古巣に戻ってきてくれる。人事部の人材戦略も今の時代に合わせて変わっていくべきです。

小野寺さん そうですね。かつて人材は人事部門が供給してくれるものでした。しかし今はそういう時代ではありません。人的資本経営といわれるように、人材の確保は経営から現場まで含め、全社を上げて取り組むものへと変わりました。

そういう意味で人事部門は、経営幹部としっかりコミュニケーションを取りながら課題を整理して、経営戦略と一体的に採用を進めていく必要があると思います。

近藤さん 今回小野寺さんのお話を伺って、人材確保・育成は一朝一夕では成しえず、長期的な視点を持って経営と現場が一体となって取り組んでいくものだということを実感しました。優秀な人材を確保するのに特効薬はないということですね。貴重なお話をありがとうございました。
〈プロフィール〉

小野寺 伸夫さん
横浜銀行 代表取締役常務執行役員 
1995年、横浜銀行に入行。溝口支店長を経て、コンコルディア・FG経営企画部長兼横浜銀総合企画部長を務める。2022年4月コンコルディア・FG執行役員、横浜銀取締役執行役員に、2023年4月から株式会社横浜銀行代表取締役常務執行役員に就任。総合企画部・協会関連業務担当、サステナビリティ推進担当。

近藤 博一さん
NTTデータ 法人コンサルティング&マーケティング事業本部 部長
20世紀末、NTTデータ通信株式会社(現在の株式会社NTTデータ)に入社。2002年のコンサルティング部門発足当初より、一貫してコンサルティング業務に従事。2020年に法人ソリューション分野のスタッフに異動し、人材面での取り組みに課題が多いことに衝撃をうけて、デジタルタレントチームを立ち上げ、現在に至る。
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
画像

執筆 オクトノット編集部

NTTデータの金融DXを考えるチームが、未来の金融を描く方々の想いや新規事業の企画に役立つ情報を発信。「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、金融サービスに携わるすべての人と共創する「リアルなメディア」を目指して、日々奮闘中です。

感想・ご相談などをお待ちしています!

お問い合わせはこちら
アイコン