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生活に組み込まれる金融機能  “組込型金融(Embedded Finance)”のグローバルな潮流

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私たちが日常的にしている広い意味でのお金のやり取りが、仕事や趣味などの生活に組み込まれている状態である「組込型金融(Embedded Finance)」という用語が金融の新たな世界を描くキーワードとして注目されています。諸外国ではすでにこれに対するさまざまな取り組みが進んでいます。今回はグローバルな金融業界事情にも精通するNTTデータ経営研究所の調査協力のもと、組込型金融の提供形態と海外でのトレンド、日本の現状について整理してみました。

はじめに

私たちは日常生活において、金融の機能を必ず利用しています。例えば、ものやサービスの対価を受け取ったり支払ったりするのもその1つ。ものやサービスの取引では、対価をその場でやり取りすることもあれば、過去や未来の対価をやり取りすることもあります。この対価のやり取りに金融機能が使われています。金融分野では昨今、デジタル化の流れの中で「金融機能の分解と再編」が起きています。

日本でもアプリを使ってタクシーを予約する際に決済方法を指定します。社用で利用するのであればコーポレートカードを指定し、私用であれば個人でのWeb決済を指定することもできます。これはタクシー配車アプリの提供者が決済手段の指定まで含めたサービスを提供している例です。このように、非金融事業者であっても決済サービスのAPIなどを活用し、自社サービスに金融サービスを組み込む形で、エンドユーザーにサービス提供することが可能になってきています。

このような金融機能の提供方法は「組込型金融」と呼ばれており、その大きな特徴は、「金融機関以外のデジタル・プレイヤーなどが、自社サービスなどに金融サービスをシームレスに組み込んで提供すること」とされています。今回はこうした新たな金融サービスの提供形態とアジアを中心とした組込型金融の取り組みが活発に進んでいる国の状況、日本における概観をお伝えします。

組込型金融における金融機能の提供方法

組込型金融は一般に、「金融機能の提供“元”」「金融機能の提供“先”」の組手を通じて、「一般消費者/法人」に金融機能を提供しています。

組込型金融を構成するプレイヤーとして、金融機能の提供“元”には、金融業を営むための許認可を受けている金融商品の提供元である「ライセンスホルダー(License Holder)」と、APIアグリゲーターなど金融サービスを媒介・仲介する「イネイブラー(Enabler)」が存在します。一方、金融機能の提供“先”にはECサイトのように金融を含むさまざまな商品を供給し、顧客接点に立つ「ブランド(Brand)」が存在しています。

「ライセンスホルダー」は銀行やクレジットカード会社などの金融関連業法上の許認可を取得し金融業を行うことができる事業者が該当します。「イネイブラー」は「ライセンスホルダー」と「ブランド」の間に仲介する役割で、金融業法上の許認可を与えられていない消費者や企業に商品やサービスを提供する「ブランド」に対して、「ライセンスホルダー」の持つ決済機能を提供します。「ブランド」は先ほど例示したタクシーの配車サービスや、フリーマーケットアプリなどエンドユーザーに対するサービスの仕掛を提供しています。

組込型金融(提供)の類型

組込型金融での金融機関と非金融事業者の関係

組込型金融では、顧客接点に立つブランドのサービスに対しライセンスホルダーやイネイブラーが共働し金融サービスを提供しています。これらのプレイヤーを、それぞれグループ企業を含んだ単一の事業体が担う場合もありますが、そうでない場合は業務提携などを通じてプレイヤー相互の関係を構築します。このような関係が成立するには、ライセンスホルダーやイネイブラー、そしてブランドのあいだでの補完性が重要になります。

組込型金融は世界中で展開されていますが、世界的に共通的な要素があります。そのひとつが「ライセンスホルダーである金融機関とイネイブラーは、多くの場合協調・補完関係にある」というものです。この理由として、イネイブラーはこれまで金融事業に参加していなかった新たなフィンテックプレイヤーであることも多く、各国で自ら金融サービスを構築・提供するにあたって必要となるライセンス取得に係るハードルが高いことが考えられます。イネイブラーは金融機関が自ら顧客接点の構築やサービス提供をするには非効率である中小企業・個人事業者などのセグメントへの対応を補完しているという実態もあります。

金融機関の店舗や外務員、インターネットバンキングなどの顧客接点でサービスを提供する場合には、一般消費者や法人はライセンスホルダーである金融機関についてよく知っており、金融機関の裁量でさまざまな金融商品を直接提供できます。しかし組込型金融では、金融機関ではないブランドの持つ顧客接点に適した金融商品を組成していく必要があるため、小回りの利くイネイブラーが有効に作用します。

一方ライセンスホルダーである金融機関の立場に立ってみると、ブランドは自社・自行の顧客接点(例:支店や外務員、インターネットバンキングといったダイレクトチャネルなど)とは特徴が異なる顧客接点を持っていることも多く、これまで開拓できていなかった顧客層にアプローチできる可能性が高まります。

アジアを中心とした各国における組込型金融の概観

今回は対象各国における組込型金融の概観を捉えるにあたり、アジアのいくつかの国と米国の調査をし、その特徴を表に整理しました。

今回抽出した特徴においては、各国で主要な大手企業やプラットフォーマーが存在するか否かという点では差異はあるものの、組込型金融を実現するエコシステムの存在が確認できています。

日本における組込型金融の状況

(1)日本の金融機関の取り組み
埋込型金融において顕著な事例である小口送金や引き落としなどの少額決済領域では、新興のフィンテック企業が先行しており、銀行などの従来型の金融機関による本格的な参入事例は少ない状況にあります。しかしECをはじめとした少額決済を行う場面が急速に拡大しているなかで、従来型の金融機関もこれらの市場に積極的に参入することが重要になっています。

なぜなら、サービスを多様かつ効率的に提供するブランドは強力な顧客接点を持っていることから、金融機関側からも積極的に仕掛けなければ組込型金融の提携関係における存在感の希薄化に繋がり、将来的な市場拡大の妨げとなる可能性も考えられるためです。
(2)目的ではなく、手段としての金融の必要性
最近は店頭で買い物をする際に、店舗のレジに複数の決済手段が掲示されている光景をよく目にします。しかし、この日常的な光景は “組込型金融”と呼ぶことはできず、“独立した金融:セパレートファイナンス”の状態と言えます。なぜなら、利用者からするとレジで商品やサービスの会計をしてもらう行為と、決済行為とはあくまで独立して存在しているからです。このように日本では決済手段は多様化しつつも組込型金融まで至っていないことが課題であると同時に、組込型金融によって一般消費者により使い勝手のよい決済手段を提供できるポテンシャルを秘めている状態であるとも言えます。

組込型金融と呼ぶには、「一般消費者や法人が金融商品を使っていることを意識しないシームレスな状態」であることが求められます。例えば、あるアパレルブランドが提供するアプリでは、実際の店舗でクレジットカードと連携したアプリを提示し、さらにレジの横に商品を置くだけで買い物が完了します。これはあくまで一例ですが、組込型金融ではこのようなUXが必要となってきます。
(3)ブランドと提携していくうえでのポイント
ブランドである非金融事業者は、金融機関と提携をすることで消費者とのあいだの決済の効率化や、過去や未来の対価の取扱いといった手段の多様化で多くのユーザーを獲得できることを期待するかもしれません。しかし、現実には銀行の決済機能単体での差別化は難しく、手数料や金利のわずかな違いしか差異とならないこともあります。

そのため、金融機関・非金融事業者ともに、自社が今後どのように変化していかなければならないかを認識し、そのうえで非金融の商品やサービスに金融機能を組み込む方法を考える必要があります。商品の提供と決済をはじめとする金融機能を通じて、ユーザーのどのような課題を、どのように解決していくのかを顧客層に提示することが重要です。
(4)金融機関が組込型金融を展開していくためのハードル
日本では、大手企業が金融事業を担うグループ会社を作り、グループ内で完結する形でライセンスホルダーとイネイブラー、ブランドの役割をまかない、組込型金融を実現する場合があります。一方で中小企業にとっては、組込型金融を実施するために自社で金融事業を担う会社を作ることは、規模のメリットからして必ずしも効率的とは言えません。

そこで既存の伝統的な金融機関である銀行や保険会社が、中小企業向けの組込型金融への参入を検討することも考えられます。しかし伝統的な金融機関のシステムの多くは、既存の業務に対応するために複雑化しており、システムの維持・開発コスト・組込型金融への柔軟な対応など、組込型金融を実現するための機能提供面で課題を抱えています。

一部の金融機関では、クラウドを用いたセカンドブランドとしてデジタルバンクを提供しており、既存の制約を取り払う取り組みを実施しています。今後、組込型金融への参入をめざす金融機関には、こうした効率的で柔軟に機能提供できるシステムを新たに構築するのか、あるいはイネイブラーと連携できるAPIを既存システム上で整備するのかといった参加形態に関わる判断も求められてくるものと考えられます。
(5)日本の市場環境
日本の商習慣には組込型金融の展開に必ずしも良い影響を与えない場合もあるようです。海外ではECの事業者が組込型金融を展開する事例がありました。日本では、消費者の店頭での購買意欲が強いこと、公共交通機関が整備・充実しており実店舗へアクセスがしやすいことなどECの普及が本格化しない要因も存在します。同様に海外で利用されている自家用車を用いた配車サービスは、日本国内では法律で認められていないこともあり、海外のように配車アプリを基点とした組込型金融の展開が発生しにくい環境にあります。

今回は、日本における組込型金融の概観として、幾つかの観点・課題について触れました。本格的な普及に向けてはまだまだ課題はあるものの、組込型金融は消費者の生活に大きな変革をもたらす起爆剤となるかもしれません。オクトノット編集部でも引き続き、このテーマを追いかけていきたいと思います。

<調査協力> 株式会社NTTデータ経営研究所
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
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執筆 オクトノット編集部

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